第4話魔王領、インフラ革命

「……ルト、これは本当に『洗濯板』なのか? 手を触れずとも汚れが落ち、しかも乾燥まで終わっているのだが」

「それは『魔導式ドラム型洗濯機』。人間界で捨てられていた壊れた水車と、熱を出す魔導具を組み合わせたんだ」

 魔王領の首都、その一角にある俺の店「フィアット・アンティーク」は、今や魔族たちの聖地と化していた。

 俺が直したのは武器だけじゃない。

「割れた大釜」 + 「熱伝導率の低い石」 = 魔法瓶型炊飯器

「穴の空いた長靴」 + 「撥水魔法の端切れ」 = 全天候型スニーカー

 俺が概念を「再定義」して直すたびに、魔族たちの生活は人間界の貴族すら羨むレベルへと変貌していった。

 

 そんな中、店に一人の男がやってきた。

 ボロを纏っているが、その目は鋭い。王国から送り込まれたスパイだろう。

「……おい、店主。この『冷えた黄金の液体(ラガービール)』は一杯いくらだ? それに、この店の中はやけに涼しいが、どんな高位魔法を使っている?」

「ビールは銅貨3枚。涼しいのは、屋根に『遮熱塗装』を施したからさ。人間界のゴミ捨て場にあった、断熱材の残骸を加工して塗ったんだよ」

 スパイの男は震える手でビールを飲み、冷房の効いた店内で絶句していた。

 王国では、冷たい飲み物は王族の特権。夏の暑さを凌ぐには氷魔法使いを雇うしかない。それがここでは、街の兵士たちが当たり前のように享受している。

「馬鹿な……。人間界では『価値なし』とされたガラクタだけで、これほどの文明を……!?」

「価値を決めるのはブランドじゃない。使い道だ」

 俺はカウンターの下から、一つのデバイスを取り出した。

 それは、レオンたちが「地図も見れないポンコツ」と捨てた、古代のナビゲーション盤。

『鑑定対象:古代遺物・全域探査機(レーダー)』

『状態:通信不良(※アンテナの角度調整と魔力同調で復旧)』

 俺がピンとアンテナを立てると、盤面には光の点が無数に浮かび上がった。

 その中には、魔王領の境界線に集結しつつある、王国の軍勢の反応もはっきりと映っていた。

「ゼノビアさん、客だよ。……招待してない方のね」

 店の奥で冷たいカフェオレを飲んでいたゼノビアが、スッと目を細めて立ち上がる。

「ふむ。ルトの店で買ったこの『伸縮式魔導狙撃杖』を試す、良い機会かもしれんな」

 スパイの男は、その杖がかつて王国が「射程が短すぎる」と廃棄した試作品であることを知る由もない。

 俺が現代の「レンズ」の概念を応用して倍率を100倍にしたことで、それは今や1キロ先から敵将の眉間を抜く「死神の鎌」に変貌している。

「ルト。あやつらは、お前を奪い返そうとしている。だが……」

「わかってる。俺はもう『在庫(ごみ)』じゃない。この世界の価値を決める、オーナーだからな」

 王国軍の侵攻開始まで、あとわずか。

 俺は店を閉め、店の裏に隠した「最大の粗大ゴミ」――古代兵器の最終調整に入った。

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