第2話魔王軍の幹部は、お得意様第一号

 魔王領の森は、静まり返っていた。

 俺が『神殺しの牙』でランクAのブラッド・ウルフを一刀両断した光景を、木陰から見つめる視線があった。

「……信じられん。人間が、あんなナマクラで我が配下を……」

 茂みをかき分けて姿を現したのは、禍々しい角と、それには不釣り合いなほど整った容姿を持つ女だった。漆黒のドレスに身を包んだ彼女から放たれるプレッシャーは、勇者レオンの比じゃない。

『鑑定対象:魔王軍四天王・魔導公爵ゼノビア』

『状態:極度の魔力枯渇、および蓄積疲労』

『悩み:愛用の「魔導杖」が経年劣化により暴走寸前。爆発の危険あり』

 なるほど、いきなり大物が釣れた。

 彼女は俺に向かって、震える指先で古びた杖を向けた。

「貴様、何者だ? 勇者の刺客か……? だが、その杖を向けたところで、今の私には……」

「落ち着けよ。俺はただの『古物商』だ。戦う気はない。それよりあんた、その杖……そろそろ限界だろ?」

 ゼノビアの目が見開かれる。

 彼女の持つ杖は、魔族の至宝とされる『深淵の瞳』。だが、今の俺の目には、内部の魔力回路が埃詰まりを起こし、ショート寸前の「ジャンク品」にしか見えなかった。

「なっ……なぜそれを! どこの名工に見せても『寿命だ』と切り捨てられた、この私の半身を!」

「寿命じゃない。ただのメンテナンス不足だ。……ちょっと貸してみろ。いいもん見せてやるよ」

 俺は警戒する彼女を無視して歩み寄り、ひょいと杖を取り上げた。

 前世のリサイクルショップでは、壊れた精密機械の修理なんて日常茶飯事だった。

「おい、何を――」

「【修復の指先】。ついでに【魔力洗浄(クリーニング)】」

 俺が杖の核(コア)に指を触れると、溜まっていた「魔力の煤(カス)」が黒い粒子となって霧散していく。現代の「超音波洗浄機」のイメージで、回路の隅々まで磨き上げた。

 仕上げに、ガラクタ袋の中にあった『魔力伝導率を上げるハンダ』代わりに使える金属片を流し込む。

 キィィィィン――!

 杖が歓喜の声を上げるように震え、周囲の魔力を吸い込み始めた。

「な……魔力の循環が、全盛期よりもスムーズに……!? 傷ひとつなかったかのように、輝きを取り戻している……!」

「はい、修理完了。……さて、代金だが」

 呆然とするゼノビアに、俺は営業スマイルを向ける。

 2026年の商売は、初回のインパクトがすべてだ。

「金はいらない。その代わり、この近くに俺の『店』を出させてくれ。それから、魔王領に転がっている『ゴミ』の回収許可を。あんたらにとってのゴミは、俺にとっての宝の山なんだ」

 ゼノビアは、手元の「新品同然」になった杖と、俺の顔を交互に見た。

 やがて、彼女はふっと口角を上げ、不敵に微笑んだ。

「面白い。ゴミを拾って、これほどの奇跡を起こす男か。……ルト・フィアットと言ったな? お前を、魔王軍の『特別物資調達官』として遇そう。いや――」

 彼女は俺の手を取り、恭しく頭を下げた。

「――私の『専属鑑定士』になってくれ。報酬は、望むだけの領地と、この私が保証しよう」

 こうして、俺のリサイクルショップ・異世界1号店は、魔王軍のバックアップという超弩級の「コネ」と共に開店することになった。

 一方、その頃。

 俺を追放した勇者レオンたちは、大事な聖剣が「なぜか少しずつ錆び始めている」ことに、まだ気づいていなかった。

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