第5話 余命40日/隠れ家
あの脱出劇から三日後。人里離れた地。ある程度体を休めた俺たちは、アリアの隠れ家へと転移した。ここに来るまで、三日間かかったのは想定外。アリアが魔術を使うため、体力を回復する必要があったのが理由だ。まあその間、色々と観光できたので良しとしよう。
それよりもだ。ここでの目的は二つ。一つは、彼女を仲間の元に送り届ける。もう一つは、俺にかけられた死の魔術の解除。
そんな現在。俺に刻まれた数は40。この数字は淡々と死に向かって進行していく。つまり、俺の寿命はあと40日しかない。
「ここか?」
俺は目の前にある大きな屋敷を指差す。古びた外装。立地は最悪。いかにも秘密の隠れ家という感じだ。
「はい。ここが」
「ん? 止まれ!」
屋敷の入り口にて、門番らしき少女。彼女は剣を地に立てる。ここから先には通すまいと。
「貴様ら、ヒュプノス騎士団か!? どうやってここが!?」
殺気。こちらの態度次第では、剣が飛んでくる。発言を誤れば、戦闘を避けられない。ここは慎重に話をしよう。
「違う。俺はタナトス。しがない暗殺者だ」
「暗殺者だと!? 騎士団に依頼されてここにきたのか!?」
「違う。話を聞け」
「ふざけた男だ! アリア様の不在を狙って」
「違います! 私です! 私!」
割り込むアリア。門番に対し、仰々しくアピールをする。
「ん? は!? アリア様!? よくぞこ無事で」
「はい。ここにいるタナトスさんに助けてもらいました」
「なんと!?」
門番が剣を鞘に納め、姿勢をピンと正す。
「先ほどのご無礼! 誠に申し訳ございませんでした!」
「気にしてない。それより」
俺はアリアに目配せ。本題に移れと。
「あの私たち、ルナさんの所に行きたいのですが」
「は! 是非、ルナ様に直接報告をなさるのがよろしいかと」
門番が俺たちを通す。
「道案内をします。ついてきてください」
アリアが前を先導。やや早足だ。俺はそれに着いていく。
「着きました!」
しばらく歩いた後。屋敷奥の部屋に到着した俺たち。
「ルナさん!」
アリアは勢いよく扉を開く。室内はこじんまりとしていて、やや暗い。足元には無数の紙面が散らばっている。
「ん? もしかして?」
部屋で着席している、白衣を着た青髪の少女。すぐに立ち上がり、こちらへとやってきた。
「アリア、無事だったんだね」
「ご迷惑をかけて申し訳ございません」
「準備を整えてから、君を捜索しようと思ってたんだけど」
「そうだったんですね。ところで、この部屋の散らかりようは」
「ん? あはは。ちょっと研究に没頭しすぎて」
「もう! 片付けはしっかりしろとあれほど」
早くしてくれ。再会出来て嬉しいのはわかる。けど、間に入れない俺の気まずさも汲んで欲しい。
「それで? 君はどうやってここまで来れたの?」
「はい。彼、タナトスさんに助けていただいたので」
「この人が? ふーん」
少女は物珍しそうに、俺の顔をじろじろ見てくる。俺は思わず、一瞬だけ目線をそらしてしまった。あまり見られるのはよい気分じゃない。
「こほん。始めまして。僕はルナ。ここの副リーダー兼研究者をやっている者だよ」
「俺はタナトス。暗殺者だ。初めましてのところ申し訳ないが」
腕の数字を指し示す。ルナはそれを興味深そうに眺める。
「これはこれは。死の魔術だね」
「お前はこれの研究をしていると聞いた。悪いが、解除方法を教えてくれ」
「いいよ。君には、アリアを助けてくれた恩があるし」
ルナは手を前に伸ばす。
「解除方法はね、闇の力で構成された死の魔術に対し、膨大な光で相殺するんだよ」
この場に大きな球体が現れる。
「これは光を貯める装置。ここに光を貯め、触れることで、死の魔術を解除するんだ」
「なら、触れさせてもらう」
「あ、でもこれは最近完成したばかりで空っぽだよ? まずは光を集めないと」
そんなのは聞いてない。光を集めろなんて言われても
「ここに」
アリアは勢いよく何かをルナに突き出す。それは中身が光輝いている瓶だ。見覚えがある。城を脱出する前。あの時、彼女は光を瓶で回収していた。なるほど。あれはこれを見越した行動か。
「おお。貯めてくれたんだ。ならこれを」
ルナは瓶を開ける。すると、中に入っていた光が球体へと吸い込まれていく。数秒後、球体がほんのりと点灯した。
「さ。ここに触れてみて」
「では」
球体に優しく触れてみる。球体の光が、俺の体へと流れ込んでいく。
「これで助かったのか?」
腕の数字を確認。43。変化はなし。これが解除できたかどうかは、俺に判別はできない。
「んー、ダメ。解除には、もっと多くの光が必要みたいだね」
ルナは俺の腕をまじまじと見つめ、首を横に。まだ俺は死の脅威に晒されていると。
「どれくらいだ?」
「んー、君の腕の反応から見て、この球体いっぱいとしか」
まだまだ先は長いと。今さらだけど、面倒なことに巻き込まれたな。
「タナトスさん。その、なんと言ってよいか」
アリアが顔を逸らしながら、もじもじしている。察するに、申し訳ないと思っているのだろう。自分は目的を果たした。対して、俺はろくな結果を出せていないことから。
「代わりにはならないと思いますが、追加報酬を」
「いらない。最初に交わした報酬以外は、受け取らない主義なんだ」
「けど」
「気にするな」
「それではあまりにも」
「報酬はルナの研究内容。結果はどうあれ、お前はその約束を果たした。何を恥じる必要がある」
「それはそうですけど。こんな結果でがっかりはしてないんですか?」
「別に」
依頼の報酬が、甘くないのは何度も経験している。今回のこれも、その一つに過ぎない。とはいえだ。助かる希望とやらは提示された。俺にはまだ生きられる可能性がある。であれば、心を落とす意味はない。なんなら喜ぶべきだ。
「これで契約は成立。依頼完了だな」
こうして俺の異世界での仕事は一段落ついた。さて、この後はどうすべきか。
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