第4話 ヒュプノス騎士団
牢屋を出て数分。俺たちは城内を慎重に進んでいた。見張りに見つからないよう、この城から脱出するために。
「すっかり暗くなってきたな」
窓から見える景色は夜。城内は暗く、闇が漂っていた。俺たちを照らす光は、空に浮かぶ星明かりだけ。
「お」
腕の数字が44から43に切り替わる。
「これって」
「死の魔術のカウントは日を跨ぐごとに、1ずつ減少していきます」
俺に抱き抱えられているアリアが解説。
「それが0になった時が」
「俺の命が終わると。なら、そうならないようにしないとな。おっと」
前方から光。俺たちは物陰へと潜む。
「異常は」
見張りの兵士だ。光を手に歩いてきた。
「ないな」
一通り周りを見渡し、兵士はこの場から去っていった。
「さっきのあれは火か?」
「あれは光の魔術。道具に光を灯しているんです」
「なるほど。ん? そういえば、お前は魔術を使えないのか?」
この世界の住人であるアリア。彼女ならば、それが使えてもおかしくはない。もしかしたら、脱出の糸口に
「ご、ごめんなさい。この国全体に、死の一族の力を制限する魔術が張ってありますので」
簡単に行くわけがないと。魔術が使えるなら、もっと早く申告してるか。
「私がもっと鍛練を積んでいれば、こんなことには」
「嘆かなくていい。お前が出来ないことを、どうにかするのが俺の役目だ。っと」
側面に大きな扉。なにやら重要そうな雰囲気が漂っている。
「明らかに危険だな。ここは無視して、先に進みたいところだが」
前方と後方から光。見張りが俺たちを挟んでいる。あと数秒で目視されてしまう。
「入るしかないか」
音を出さないよう、ゆっくりと扉を開閉。俺たちはその中へと入って行った。
「どこだここ?」
「ここは大広間ですね」
見覚えがある。そういえば、ここには一度来ていたな。
「よし、ならばれないように慎重に」
「どこへ行く気だ! 罪人ども!」
予期せぬ第三者の声。次の瞬間、目の前に騎士の大群が現れた。
「ワシの城を土足で踏み抜くとは!」
その中央にはジーク。あごひげを思い切り引っ張っていた。
「は? なんであんな大群が? そんな気配は、さっきまでなかったぞ?」
「どうやら転移魔術、瞬間移動でここに来たみたいです」
なるほど。別の場所からここにやってきたと。それなら気がつかなくても無理はないか。
「逃がさぬぞ! 特にそこの女は!」
「待て!」
男の声。
「お前たちでは敵わない! 下がれ!」
「せ、先生!」
ジークの腰が低くなる。同時に、一人の男が前に出てきた。
「オレはヒュプノス騎士団! ヘルメスだ!」
自信満々そうにヘルメスと名乗る男。奴は胸に手を当てる。
「ほー。お前があのひゅぷのす? 騎士団?」
「そうだ! 我々こそ秩序! 世界を見守る法だ!」
ずいぶんとカッコいい名乗り上げだ。全く物怖じせず、堂々な佇まい。俺も見習いたいところ。だが、一つ。そこには重要な欠陥がある。
「で? ヒュプノス騎士団ってなに?」
ずこっ。向こう側の全員が転びそうになる。俺に、その騎士団とやらの知識がないのが欠陥だ。
「知らないんですか!? 常識ですよ!」
声を張り上げるアリア。
「あの、俺記憶が」
「そっか! タナトスさんは記憶が曖昧だったか!」
「だから説明を頼む」
幸い、向こうは空気を読んで待っているみたいだ。
「はあ。ヒュプノス騎士団とは、光の力を強く持つ生命の一族。死の一族と対の存在です」
「ほー」
「彼らは遥か昔、私の祖先たちと戦い勝利。現在、この世界を管理している一族です」
「へー」
「わかりましたか?」
専門用語の長い解説は記憶に残らない。とにかく偉いだっけ?
「えーと? お前とあいつは似た者同士?」
「違う! 話を聞いてないなこの人! 彼らと私は敵対関係なんです!」
「我々の偉大なる説明ご苦労!」
ヘルメスが拍手と共に前進してくる。
「さて、その少女をこちらに引き渡してもらおう! 我々は、死の一族の闇を管理する義務がある!」
なるほど。奴の目的はアリア。悪役がピンチのヒロインを狙っている展開か。
「それに応じたらどうなる?」
「くくっ! これに応じれば、一瞬で楽に」
俺はそのまま集団に突っ込んでいく。
「バカが! わざわざ近づいてくるとは!」
「悪い。その提案は飲めない」
「良かろう! ならば死をもって……? !?」
一秒後。集団が赤い世界を解き放つ。
「なあっ! このオレが!?」
「依頼人を守るのが俺の仕事だ。部外者は引っ込んでろ」
「こんなよくわからない男に……」
ヘルメスたちは一斉に倒れこむ。生きているのは、俺とアリアだけだ。
「ぜ、全滅……一体何が」
「解説の途中で攻撃した。あいつら、隙だらけだったからな」
「な、なるほど……あ、そうだ!」
アリアは俺の肩を軽く叩く。
「タナトスさん! 一回! 一回だけ止まってもらって良いですか!」
「おう」
俺は指示通り、この場にとどまる。すると、アリアが小瓶を取り出す。
「それは?」
「隠し持っていた瓶です。今から光を集めます」
アリアが瓶の蓋を開封。そこに多くの光が収束していく。光の出所は、騎士たちの死体からだ。
「よし、集め終わった」
アリアはそれに蓋をしめる。
「すみません。ではお願いします」
何をしていたか気にはなる。けど、詮索する時間があるなら、脱出を優先すべきだ。
「おーけー。あ、ちょっとロスしたから近道する」
「え? え!?」
俺たちは直進。
「近道って……って嘘!? 前! 前!」
アリアが俺の裾をひっばる。前方には窓ガラスだ。
「また戦闘になったら面倒。もう敵にはバレてるだろうから、このままいく」
「うそお!? ちょっ!?」
俺たちは窓ガラスを突き破る。そして、外の闇へと紛れていった。
◇
「ここまで来れば安全か」
俺たちは国の外まで脱出できた。
「なんとかここまでこれたな」
「ですね」
「で? お仲間のいる場所までは何日かかるんだ?」
俺に残された時間は後43日。あまり悠長にしている暇はない。
「一秒ですね」
「え? ここからそんなに近いのか?」
辺りを見渡してみる。建物らしきものはどこにも見当たらない。
「えーと、タナトスさんが思ってるイメージではなくて」
アリアが魔方陣を繰り出す。
「ここは国の外。なので、私の魔術が使えるようになりました」
「つまり?」
「転移、瞬間移動で隠れ家の近くに飛びます。本来ならここから数十日かかるところ、一秒で着きます」
「なるほど。なら、このままお前らの仲間のところに」
「あ、あの!」
アリアが俺の手首を握りしめる。
「わがままで申し訳ないのですが! 体調を整えてもよろしいでしょうか!」
「え? どうして?」
「魔術を使うための体力が、今の私にはないので」
「ほう」
「それに」
顔が赤くなるアリア。なぜか、俺から顔を背ける。
「こんな格好で仲間に会うのは、その、気が引けると言いますか」
よく見ると衣装がぼろぼろ。おそらく、ここにくるまでの無茶が祟ったのだろう。
「なんて、ダメですよね」
「おーけー。なら、体力を整えるとしようか」
「ですよね。え? い、良いんですか?」
「俺は暗殺者だ。依頼人の命令は、多少の無茶でも聞き入れる。例え死んでも」
ちょうど一息つきたいところだった。彼女の提案は渡りに船。ありがたく乗らせてもらう。
「ピンチの時こそ慌てず騒がずだな」
この後、アリアの体力回復に3日要した。そこから、俺たちは目的地へと足を運ぶことになる。
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