第6話 これから

「契約完了だ。じゃあな」


 俺はここから出ていこうと、二人に背を向ける。


「あ、あの」


 俺の手が引かれる。そちらに視線を向けてみると、アリアが俺の手を掴んでいた。


「これからどちらに?」


「死の魔術を解除するため、光を集めにいく」


「あてはあるんですか?」


「もちろ、ん?」


「何で疑問系なんですか!? 絶対ないですよね!?」


 そういやさっぱりだな。必要な光とやらは、どうすれば集まるのかわからない。


「おいルナ。手っ取り早く光を集めるにはどうしたらいい」


「簡単だよ」


 ルナは落ちていた紙を拾い上げる。それを真っ直ぐとこちらに伸ばす。


「生命の一族、ヒュプノス騎士団を倒せばいい。彼らは、強力な光の力を持っているからね」


「お前らの敵対者ってやつか」


 生き残るために殺しをしろと。それはいい。手慣れているから、いつでも出来る。ただ、ターゲットではない奴を殺すのは気がひけるな。


 自分が助かるため、という理由はある。けど、依頼以外での虐殺は趣味ではない。それにもう一つの問題が。奴らの所在だ。どこにいるのか見当もつかない。

 

 ならば情報収集。をしようにも一人で、出来ることは多くない。しかもタイムリミットは40日。


 その限られた時間内で、俺は見知らぬ異世界を歩き回り、ことを成し遂げなければならない。

  

 はっきり言おう。不可能だ。残り全ての時間、無駄足を踏むことは間違いない。さて、どうしたものか。


「どうでしょう? ここは、彼にかけてみるのは」

「僕は構わないよ。戦力は多い方が、お姉さん助かるし」


 二人が何やらこそこそと会話をしている。チラチラ俺の方を見ながら。察するに、何か企みがあるのだろう。


「お困りのようですねタナトスさん」


「お困りだな」


「でしたら、私たちと新しい契約を結びませんか?」


「契約だと?」


「はい。私たちは長年、ヒュプノス騎士団に追われてきた身。今まで多くの仲間が連れ去られたり、殺されたりしてきました」


「おう」


「抵抗しようにも戦力が足りず、現在窮地に落とされています」

「僕ら、もう限界の一歩手前だよねー」

「しかし、タナトスさんのお力があれば戦いになるかと」


「だから?」


「契約を結びましょう。暗殺の」


「ほう」


「これに同意すれば、私たちは騎士団の居所を素早く調査。それをタナトスさんにいち早くお届けします」


「それはありがたい」


「ただし、タナトスさんには騎士団を打倒するため、力を貸していただきたいです」

「君が力を貸してくれたら、お姉さん助かるなー」


「それはつまり」


「はい。ギブアンドテイクです」


 慈善活動じゃない。自分たちの目的を達成するため、俺という闇を利用すると。正直、彼女たちと向こうの因縁なんざどうでもいい。大昔からの光だの闇だの。そんなことは知ったことではない。


 分かることは、俺たちの利害は一致している。俺が生きるためには、騎士団の光が必要。彼女たちが生きるためには、騎士団を殺す必要がある。


 両者とも命の危機。崖っぷち。他に最良の手がない追い詰められた状況。だから、ここで手を組むしか打開策はない。断る理由はないか。その話は受けた方が良さそうだ。それに


「……」


 このアリアという少女は信じてもいい。そう思う。彼女とは4日の付き合い。この期間で、他人を評価するにはあまりにも早計。だが俺は、彼女の人間性だけは何となく理解した。俺にとっては悪い奴ではないと。


「おーけー。その契約を結ぼう。暗殺ターゲットはヒュプノス騎士団と」


 俺は握手の手を伸ばす。


「俺は騎士団を殺す。お前らは情報を回す。お互いに生き残るために」


「「コクン」」


 二人が俺の手を取る。とても力強い。彼女たちの熱と思いが伝わってくる。


 本気みたいだ。なら、二人を失望させないよう、成果を出さなければ。


「はい。私たちに出来ることがあれば、何でもおっしゃってください」

「お姉さん張り切っちゃうよー」


「感謝する。じゃあ、早速一つ。暗殺のサポート役が欲しい」


 敵を殺すだけならば、俺一人で事足りる。しかし、それは条件が揃っていればの話。時間制限あり。かつ、ここは右も左もわからない世界。一度の間違いが命取りの状況だ。


 それを未然に防ぐために、優秀な相方が欲しい。


「んー。僕は手が離せないな。研究とここの守りとかもあるし」


 ルナはスケジュール帳を取り出し、パラパラとめくる。


「他に任せられそうな子を探してみるよ」


「ありがたい」


「まあ、僕らは崖っぷち。手が空いているどころか、自分のことすら回ってないのが現状。だから、サポート役の召集は期待しないでほしいな」


 なんか無茶を言ってしまったみたいだな。現状ブラックな立場なのに。ここで俺の為に人員を割くのは厳しいか。となると、最悪一人で動くことになるか。


「でしたら私が」


 ピンと手を上に伸ばすアリア。


「アリアが? でも、君はここの」


「私なんかいてもいなくても、ここは成り立つ。そうでしょう?」


「ふー。まあ、君がそこまで言うなら」


「ありがとうございます」


 アリアが俺の方に体を向ける。


「お前が同行するのか?」


「はい。私はそれなりにサポート魔術を使えます。ので、その要望に適しているかと」


「それは助かる。けど、いいのか? マーキュリーであんな思いをしたのに」


「心配いりません。あんなのは慣れっこですので」


「慣れっこねぇ。その割には痛そうだったけど」


「うぐっ」


「本当にいいのか? また痛い思いをするかもしれないぞ?」


「へ、平気です。痛みを感じるとはいえ、私は不死身。ど、どうなろうと一族にとって、プラマイゼロの存在なので」

 

 震えてるくせによく言うな。傷つくのが怖い。けど、役に立ちたいから勇気を振り絞った。そんなところか。


「私が前線に立ち、皆さんの犠牲がなくなるならばお安いことです」


「なるほど。その言葉、二言はないな?」


「も、もちろんです。例え、この身が散ろうとも」


「不死身に言われても。その冗談は面白くない」


「別に面白い発言はしてないですよ!? あ、何でちょっと笑ってるんですか!? ねえ!」


 こうして俺は、彼女たち死の一族と契約を結んだ。この選択がどんな結末を帯びているのか。それはわからない。

 

 もしかすると、これは大きなミス。もっと他に選択肢はあったかもしれない。けど、そんなことはどうでもいい。


 暗殺者として依頼人と契約を結んだ。それだけだ。だから俺は生き残りをかけて、暗殺をするだけ。

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最強暗殺者はすぐ死にます~異世界転生で余命44日の俺。生き残るため、美少女たちの依頼を受けてみた~ 流石谷 ユウ @MORITA-K

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