第3話 余命44日
「えーと、あなたはどちら様?」
俺は、槍が刺さっている少女に話かけてみる。
「私はアリアです」
少女はアリアと名乗る。唇が震えているな。声を精一杯絞り出している感じだ。
「アリアか。それよりお前大丈夫か? 腹部に槍が刺さってるみたいだけど」
「平気です。私は不死だから、と言えば納得していただけますか?」
不死ね。あり得ない。ことはないか。ここは異世界。そのような特殊な存在がいても不思議ではない。受け入れるべきか。それより、こちらも挨拶を返すのが礼儀だ。
「俺は、コードネームタナトス。暗殺者だ。巷じゃ、隻眼のタナトスって呼ばれてる」
「暗殺者……」
怯えた目付きになるアリア。
「心配するな。俺は、お前をどうにかしようとは思ってない」
俺は鉄格子をなぞってみる。トラップの類いはなし。ただの塊だ。この程度ならいつでも抜け出せる。が
「あの? なにか?」
今すぐ外に出ても、どう行動していいかわからない。せっかくだ。彼女から情報を聞いてから出るとしよう。
「少し聞きたいことがある。話し相手になってもらえないか?」
「はあ、良いですけど」
「お前はどうやってここに?」
「仲間とはぐれた際、この城の人に連行されました」
「ほう。何で閉じ込められてるんだ?」
「私が罪人だからです」
こんな可愛らしい女の子がか。見た目に反して、結構やんちゃなタイプか。
「失礼を承知で聞く。一体どんな罪を?」
「私が死の一族だから。といえばお分かりでしょう?」
「なんだそれ?」
「ご存知ないのですか? 太古の昔、世界を支配していた闇を扱う一族。私はその末裔です」
その設定は異世界って感じがするな。聞いてて胸が痛くなる。
「ほー。で? お前自身は、なにをやらかして捕まったんだ?」
「いえ、特には」
「え?」
「死の一族は、世界中で忌み嫌われた存在。捕まる理由としては、それで十分です」
「それだけ?」
「そ、そうですけど」
「お前が何かしたとかじゃ?」
「私は何も」
なるほど。アリアは死の一族。存在自体が罪。だからここに投獄されたと。なんとも理不尽で胸くそ悪い話だ。
「ん? う、腕にあるそれは!?」
話の途中、アリアが驚愕しながら枷を揺らす。
「死の魔術ですか!?」
ジークも言ってたな。なんのことかさっぱり。せっかくだ。意味を聞いてみるとしよう。
「なにそれ?」
「遥か昔に使用された、忌まわしき遺物です! なぜあなたが!?」
解説みたいな物をしてくれているな。けど、ちんぷんかんぷん。
「あのさ? そもそも魔術ってなんだ?」
「え?」
的外れな質問だ。とでも言いたげにキョトンとするアリア。
「常識では?」
「あーすまん。実はこの城で拷問を受けてさ。それが原因で、俺の記憶が混乱してて」
「なるほど」
「情報整理がしたい。申し訳ないけど、簡単な説明を頼みたい」
異世界から来ました。この世界のことを教えてください。は言えない。ここは誤魔化す。
「そういう事情ならば」
アリアが俺の目をじっと見る。話す姿勢を整えた感じか。ひとまずは、信用してくれたみたいだな。
「魔術とは、魔方陣を用いて生活から戦闘に使用できる力です。例えば、相手の動きを制限したり瞬間移動ができます」
つまり魔術は、異世界の不思議な力。俺がここに移動したのも、その力を使われたからか。どうやらこの世界には、非常識が蔓延ってるみたいだ。
「話を戻します。今タナトスさんが受けている死の魔術。それは発動したが最後、対象者を死に至らしめます」
すごいぶっ壊れ魔術がきたな。使うだけで相手が死ぬなんて。そんなの暗殺者泣かせだろう。けど、忌まわしき遺物と言っていたから、浸透はしてないようだが。
でもあれ?
「俺、なんともないけど?」
「でしょうね。その魔術は猶予を与え、体を徐々に蝕むものですから」
アリアが細い指をさす。それを辿ると、俺の腕に行き着いた。
「腕の数字はわかりますよね?」
「ああ。44だ」
「はい。それは寿命です。つまり、タナトスさんはあと44日で死にます」
「ほー?」
余命44日。実感がわかない。いきなりそんなことを言われても。もしや、このアリアが嘘をついてる可能性も
「……」
彼女の目は清く澄みきっていた。邪念が一切存在していない。
判断材料としては曖昧。だが、この目は俺を騙す気なんて毛頭もない。そんな気がしてならない。
どうやら、信じてみる価値はありそうだ。ここはアリアの情報を正としてみよう。
「で、解除方法は?」
「ずいぶん冷静ですね?」
「暗殺者として死ぬ覚悟はあるからな。それに、一度死んでるし」
「はあ? なんの冗談ですか?」
冗談の塊みたいな不死身に言われたくない。なんて、こんな話は無駄か。ここは強引に進めよう。
「で? あるの? ないの?」
「一応。この国の外にある一族の隠れ家。そこで仲間が解除方法を研究しています」
「その言い方だとあるにはある。けど、絶対ではないって感じか」
「はい。ここに捕まって以降、仲間の研究がどの程度まで進んでいるか把握できてないので」
「行ってみるまでのお楽しみか」
「ですね。とはいえ、こんな状況ではそれを確かめることは」
アリアがうつむき、表情に影を落とす。彼女は枷に繋がれながら、槍が刺さってる状況。動けないか。
「つまり、この場を何とかすれば助かる道があるかもと」
こう言ったが、俺は生に執着する性格ではない。己が死ぬ運命なら、それは仕方ないと思っている。
けど、なんとなく生きてみたい。生きていれば、前世とは違う何かが起こるはず。
心のどこかで、そう思っている自分がいる。曖昧な理由だ。けど、たまにはこういうのも悪くない。
ではさっそく行動に。と言いたいが俺一人でこの道を進むのは厳しい。
協力者が必要だ。
それは
「なあ、アリア? ここから出たいか?」
「そりゃ出たいですよ。けど、どうすることも」
「おーけー。なら契約だ」
俺はアリアの鎖を壊す。
「!」
「お前を仲間の元に送り届けてやる。代わりに、仲間の研究内容を教えて欲しい」
「それはつまり、タナトスさんが私を救ってくれると?」
「わかっとらんな。俺は善意の救い手じゃない」
どちらかといえば悪。依頼されたら誰でも殺す闇。そんな人殺しの俺が、正義の味方みたいな扱いをされたら世も末だ。
「これは利害の一致。悪意の合意。ギブアンドテイク」
俺は鉄格子を大きく引き曲げる。出入り口は確保した。これでこの牢からはいつでも抜け出せる。
「俺はすぐ脱出する。お前はどうする?」
アリアに向けて手を差しのべてみる。彼女がこの手を取らず、残るならそれでいい。別に強制はしない。この後にどうなろうと、俺は結末を受け入れるだけだ。
「少しお待ちを」
アリアは、自身に突き刺さっている槍に触れる。
「痛くない。痛くても我慢」
目を閉じ、祈るように念じる。
「せー、のっ!」
彼女はそれを引き抜く。
「ぐっ! がっ!」
続けて二本目、三本目。引き抜く度、血液が飛び散る。
「これで、最後っ!」
アリアは四本目の槍を引き抜いた。手が血で汚れたのを気にしているのか、自身の服でそれを拭き取る。
「お、お待たせしました……」
げっそりした表情のアリアは、俺の手を握り返してきた。この状態でも生きているとは。彼女が不死身というのは本当みたいだな。
「その契約を結びます」
「契約成立と。なら、お前は後ろから俺の後に続け」
「わかりまし、うっ!?」
辛そうに腹部を抑えるアリア。無理やり槍を引き抜いたからだろう。あれでは歩くことは困難だ。どうやら彼女の不死身は、傷が自動的に治るタイプではないと。
「私のことは気にしないでください。這ってでも必ず後ろに」
「おーけー」
俺はアリアを抱き抱える。彼女の体は羽のように軽い。この体型で元々、というのはあり得ない。おそらくここに来てから、ろくに栄養が取れていなかったのだろう。
「きゃっ!? い、いきなり何を!?」
「依頼人のフォローは暗殺者として当然。俺がこのままお前を連れていく」
「だ、だからってそんな! タナトスさんの手を煩わせるわけには」
「心配するな。これはちょっとした筋トレ。軽い重りを運んでいると思えば苦じゃない」
「失礼ですね!? 私はそんなに重くないですよ!?」
「無駄口禁止。さっさとこの城から脱出するぞ」
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