第2話 異世界転生/槍の刺さった少女

 俺は見知らぬ城内に立っていた。


「なんだここ?」


 状況確認のため、周りを見渡してみる。この感覚。現実か? どういうことだ? 俺は命を落としたはず。生きているのはおかしい。しかも、こんな城にいるなんて。

 

 それに


 俺は自身の体をくまなく調べる。事故で負った傷がない。バカな。体には致命傷があったはず。それが一つもないとは。


「訳がわから、うん? なんだこれ?」


 異常を確認中、あるものが目に入る。自身の腕に刻まれた青い数字。そこには44と刻まれていた。こんな不気味な模様は着けた覚えがない。なんなんだこれは?


「貴様!? 一体どこから現れた!?」


 前方から声。そこには立派なあご髭を生やした老人。その付近には、重厚な装備をまとう騎士たちがいた。なんだあの衣装? 見たことがないな。 


「聞いておるのか! ワシがマーキュリー城の主、ジーク王と知っての無礼か!」

 

 マーキュリー城。ジーク王。聞いたことがない。頭が混乱してきた。見知らぬ城。そこに、死んだはずの俺が存在している。


 もしや。


「これ、異世界転生ってやつか?」


 聞いたことがある。確か死後、別の世界に転生するという。それならば不可解にも説明がつく。しかし、なぜ俺がそれに巻きこまれた? 訳がわからない。


「貴様あ! こちらを向け!」


 とにかく、一度情報を集めないとだな。


「すまん。俺はタナトス。普通の暗殺者をやってる」


「普通の暗殺者だと!? 怪しいやつめ!」


「怪しいって言う方が怪しいだろ」


「黙れ! 我が城に土足で踏み込んだ賊の分際で!」


 言葉は通じるみたいだな。会話の手間が省かれてありがたい、


「わかったわかった。俺が怪しいのは認める。だから、今は話を」


 俺は両手を上げながら、ジークの元に進む。


「ん? ま、まさか!? それは」


 ジークがやや上を向く。目線からして、俺の腕を見ているようだ。


「死の魔術だと!? なぜ貴様がそれを!?」


 察するに、腕の数字を言ってるんだよな。ジークはこれが何か知っているみたいだ。


「死の魔術? なんだよそれ?」


「ち、近寄るな! 者共! 即刻、この者を始末せよ!」


 突然、前方から騎士たちが進軍。彼らは剣を伸ばしてきた。おいおい。俺に剣を向けないほうがいいぞ。怪我じゃすまない。


「その者は死にとりつかれた存在! やれ!」


 騎士たちは殺気と共に突撃。誰も躊躇する気配がない。戦闘は避けられないか。まったく。依頼以外で、あまり人殺しはしたくないんだけどな。


 けど、向こうはやる気。無抵抗でいたらこちらが殺られる。仕方ない。ここは相応の対応をとらせてもらおう。何かないかと、俺はポケットをまさぐってみる。


「お」


 指先に硬い感触。材質からして、ある物体の持ち手だ。


「ナイフだな」


「死ねええ!」


 騎士の剣が、俺を捉えようとしていた。


「遅い」


 ナイフを素早く携帯。それで騎士の首元を切り裂く。


「あが!?」


「次だ」


 二人、三人


「ひ、ひいい!」


「情けないな」


 四人、五人


「怖じ気づくな! 相手はナイフを持っているだけの賊ごほ!?」


「さっさと攻撃してこいよ」


 六人、七人、八人……


 俺は騎士たちを次々と切り伏せた。


「こんなもんか」


「精鋭部隊が全滅だと!? き、貴様は一体」


 ジークが腰を抜かし、後退する。


「ん? しがない暗殺者だよ」


「こ、これが暗殺者だと!?」


「そんなに怯えるな。心配しなくても、虐殺は趣味じゃない。降伏すれば」


「「「陛下!」」」


 ジークと距離を詰めようとした時だった。この場にローブの集団がなだれ込む。奴らはジークを守るように取り囲んだ。


「おお! 魔術部隊か!」


「は! 陛下に仇なす不届き者め! 大人しくしろ!」 


 ローブたちが不思議な魔方陣を出してきた。

 

 なんだあの光る模様? ひょっとして異世界の力か? でもあれ? なんか日本でも見たことがあるような。


「!」


 次第に、俺の手足が鉛のように重くなる。見えない何かが行動を制限してきた。この感覚。レオを暗殺した時にもあったな。偶然か?


「お、お」


 ゆっくり慎重に、手足を動かしてみる。あの時の現象と、今のこれが同質かは不明。だが、そんなことはどうでもいい。それより、この力にはもう慣れた。もう少し訓練すれば、動けるようになる。


「ひいい化け物! 皆の者! 速やかに奴を牢へと転移せよ!」

「は? しかし、あそこにはあの女が」


 足がどんどん重くなっていく。それでも俺はジークへの歩みを止めない。


「おい。手荒な真似はやめろ。俺は話をしたいだけ」


「早く! どこでもいいから!」 

「は、は! 転移!」


「あ?」


 視界が情けない集団から、薄暗い場所へと切り替わる。


「空気が変わった?」


 この感覚も少し前にあったな。路地裏から道路に移動した時。あれと同じ現象が、また俺の身に起こったと。


「本当に不思議なことだらけだな。なんて、いかんいかん」


 疑問はある。しかし気を取られては、また日本での事故と同じことになりかねない。まずは冷静に状況を把握せねば。


「ここは」


 目の前には鉄格子。飾りではない。これは中のものを閉じ込める役割があるのだろう。つまり、ここは牢屋だ。


「めんどくせえ。こんなところ、さっさと抜け出し」


「だ、誰ですか?」


 突然、か細くも美しい声が聞こえてくる。大きさからして近い。俺はその場で辺りを観察する。


「お前は……」


 声の主は、俺と同室にいる存在。それは、雪のような銀髪と艶やかな肌を持つ少女。彼女は手足を枷で繋がれていた。


 いや、そんな情報はどうでもいい。それよりも、もっと注目すべき点がある。それは


「お前、何で四本も槍が刺さってるんだ?」

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