第7話 加護の炎

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第7話 加護の炎

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 頭が痛い。

 ズキズキと脈打つような鈍痛に、俺は目を開けた。



(あれ、俺、いつの間に...)



 視界がぼやけている。



(二日酔い...?俺は一体...)



 焦点を合わせようとして――俺は、状況を理解した。



(...え?)



 柔らかい感触で察する。俺は、アピサルの胸の中にいる。

 それだけならよくあることなのだが、いつもと違うのは俺が包むもう一つの存在


 マリエルが俺の胸の中で、幸せそうな顔で目を閉じていた



(ちょ、ちょっと待て!?)



 脳内がパニックを起こす。

 アピサルの柔らかい感触が背中に。

 マリエルの温もりが胸に。


 挟まれている。

 完全に挟まれている。



(落ち着け、落ち着くんだ俺...!)



 深呼吸をしようとして――マリエルが、少し身じろぎした。



「ん...」



 その拍子に、マリエルの寝衣がずれる。

 白い肌。

 淡いピンク色の――



(いかん!)



 俺は慌てて視線を逸らそうとした。

 でも、逸らせない。

 美しすぎて、逸らせない。



(逸らせぇぇぇぇぇぇぇ!!)



 欲望と理性が激しく戦いあう


 その時――


 パチリ。


 マリエルの瞳が開いた。



「――!?」



 俺は、完全に硬直した。



「あ、いや、これは、その――」



 言い訳を必死に探す。

 でも、マリエルは何も言わない。

 ただ、じっと俺を見つめて――



「敵が来ます!」



 真剣な表情で、叫んだ。



「え?」


「主様、すぐに起きてください!」



 マリエルが、俺を引き起こす。



「あらあら、わらわの至福の時を壊すなんて...よほど地獄を見たいようね」



 アピサルの声が、冷たい。

 その声音に、背筋が凍る。



「ピィ...」



 ピー助も、まだ二日酔いのようで、ふらふらしている。



「マリエル、魔法を使ってあげて」


「はい!」



 マリエルが、俺とピー助に治癒魔法をかける。

 温かい光が、頭痛を消し去っていく。



「...っは」



 頭がクリアになる。

 俺は、すぐに状況を把握した。



「魔王討伐軍が...来たのか」


「ええ、そのようね」



 アピサルが、遺跡の外を見る。



「主様、ここは私たちに任せて――」


「いや、俺が出る」



 マリエルの言葉を遮り、俺は立ち上がった。



「危険です!」


「でも、俺が出なきゃ、アピサルたちが見つかる」



 俺は、念のため荷物をインベントリに仕舞いながら答える

 地球産のものを見られた時に何といえばいいかわからない

 そして最後に愛用している剣と盾を手に取る。



「アピサルが見つかったら、魔王と勘違いされる。そうなったら、全面戦争だ」


「そなた...」



 アピサルが、心配そうに俺を見る。



「大丈夫。俺は、ただの冒険者だ。やり過ごせるはずだよ」



 俺は、不安をかき消すように皆に微笑んでから遺跡の外へ出た。



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【アピサル】

 との絆が深まりました

 絆pt +3

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 遺跡の外に出ると、少し先から大勢の人間が歩いてくるのが見える

 俺は気持ちを落ち着かせるように何度も深呼吸をしながら彼らの到着を待った


 次第に全容がはっきりとしてくる


 黒と赤を基調とした統一感のある鎧に身を包んだ集団――聖騎士が10名

 全員が槍で武装していることから、聖騎士第二席、ディオンフレイムハートが率いる炎槍突撃部隊だろう


 聖騎士は聖騎士王ヴェルディア国王陛下を象徴の頂点に掲げ、実質のトップ聖騎士団長ガルバードヴォルフを筆頭に第一席から第十席までの精鋭が師団長となって率いる精鋭部隊で構成されている

 それぞれの舞台に特色があり、ヴェルディア王国に住む民の憧れの的である


 歴代最強といわれる今代の聖騎士団は団長のガルバードヴォルフが加護lv4師団長クラスはlv3が揃い圧倒的な力を有している


 その為灰の平原での戦に勝利し、神殿建設まであとわずかというところまで来ているのだ

 ヴェルディア王国の冒険者として生きていたころは、その存在を頼もしく思っていたが、こうやって敵対待ったなしの状況に置かれると、その存在が死に神の集団に思えてしまう


 彼らとアピサル達を合わせるわけにはいかない


 そしてその聖騎士に追従するように冒険者が30名程いる

 聖騎士には劣る冒険者といえど、魔王討伐軍に参加するからには加護と強力な戦闘スキルを有する精鋭だ、俺にとっては絶望的な存在であることに変わりはない



「おい、お前、こんな所で何してやがる?」



 先頭に立つ聖騎士、ディオンフレイムハートが俺に声をかけてくる。

 赤い髪、鋭い目。

 砕けた言葉遣いをしているが、その存在全てが、おかしな真似をすれば次の瞬間槍で串刺しにしてやると訴えているような気がした


 全身から、放たれる圧倒的な威圧感。



「何黙りこくってやがる。名を名乗れ」


「お、俺はヴェルディア王国所属冒険者、リュウトです」



 俺は、できるだけ冷静に答える。



「冒険者? こんな灰の平原で、何をしている」


「ガルド=イグノア様のために、少しでも貢献しようと...魔物を間引いていました」



 嘘ではない。

 実際、俺は魔物を狩っていた。



「ほう...灰の平原で狩りが出来るほどの存在なら魔王討伐軍への参加義務があるはずだが、なぜ参加していない」


「あの、俺は...」



 ディオンが、俺をじっと見る。

 その時――



「あいつを知ってる!」



 冒険者の一人が、声を上げた。



「ランザのところにいる寄生虫だ! 灰の平原で狩りなんてできるわけねぇ!」



 その言葉に、ディオンの目が鋭くなる。



「...どういうことだ?」


「あ、すみません見栄を張りました。俺が無能なばかりにパーティーをクビになって、悔しくて、それでも諦められなくて、灰の平原まで追いかけてきてしまいました」


「...それが真実だとしてどうやって生き延びた?ここには危険な魔物ウヨウヨいるはずだが」


「あはは、それが不思議と、魔物に遭遇しなくて、これも、ガルド=イグノア様のご加護ですかね...はは」


「怪しいな、遺跡の中を見させてもらうぜ」



 ディオンが俺の横を通り、遺跡の方へと進もうとする



「待ってください!」


「テメェ、その手は何のつもりだ」



 俺は無意識のうちにディオンの腕を取りその歩みを止めていた



「戦場において騎士の腕を塞ぐってことは、暗殺者と間違われても文句は言えねぇぜ?」



 ディオンは背中に背負った槍を片手でスムーズに構えながら、俺を突き飛ばし、その槍で俺を貫こうと切っ先を向けて――



 ドスドスドス!!



 ――勢いよく後ろに飛び下がった



「あぁ?どこの誰だ、この俺様に向かって舐めた真似しやがる奴は!?」



 先ほどまでディオンが居た位置には見覚えのある光剣が刺さっていた



「マリエル!?駄目だ!」



 そして俺が振り返るとマリエルとピー助が遺跡から姿を現し、討伐軍に向かって武器を構えていた



「天使...だと!?」



 そのディオンの形相に俺はとんでもない失態をしたことを悟ってしまった


 アピサルの余りの存在感にアピサルさえ隠しきれば大丈夫と思ってしまっていたが、この世界において天使とは――



「テメェ、教国の戦闘司祭か!?」



 ――ヴェルディア王国と争う列強の1つ

 ルミナス教国を司るルーメリア=アナステル神の加護を持つ戦闘司祭が召喚する眷属の事だった



「ゲリラ戦法しかしらねぇ卑劣な異端が!俺らの国民と偽って油断させる計画ってか!?」



 ディオンの目が赤く燃える。



「お前ら...こいつは我が神を裏切る異端であり卑劣な教国の糞!ってことはまだ伏兵が居るに違いねぇ!全包囲警戒しやがれ!」



 その言葉に、周囲の空気が一変した。



「「「「「ガルド=イグノア様の加護を!」」」」」


 聖騎士と冒険者達が、一斉に炎を纏い、周囲の温度が一気に上昇する


 聖騎士の生み出す炎は、エレメントの騎獣となり聖騎士たちを宙に浮かせる。

 戦闘態勢に入った冒険者は伏兵を警戒してか全方位に火柱を迸らせ、あたりを煌々と照らす

 ほんの一瞬の出来事

 廃墟と化した遺跡は神話の一ページへと変わった



「ピィ...」



 神聖を帯びた破壊と再生の炎の迫力にピー助が、冷や汗を流し、緊張の面持ちで盾を改めて構える。

 マリエルは瞬時に聖光魔法を発動し、俺のステータスを向上させた


 バフが無ければ一瞬で肺が焼けてしまっていたかもしれない

 マリエルに感謝を伝えたかったが、その発言をするために十分に呼吸するのが困難なほどの熱気


 ランザ達とパーティを組んでいた時には決して自分に向けられることの無かった加護の力を受け、その迫力に怯んでしまう


 今日を無事に乗り切れるのか

 そんな不安と絶望に飲まれそうになったその瞬間――



 ゴゴゴゴゴ...



 地面が、揺れた。



「な、何だ!?」


「地面に警戒!」


「加護の出力を最大にしろ!」



 絶対の力を宿す者たちが、動揺する


 そして――


 煌々と照らされていた筈の地面が一瞬で闇に染まった



 ――トプンッ――



 この遺跡に来た時に見た光景と同じ景色

 冒険者たちが瞬時に深淵に飲まれ、その姿も、圧倒的だった存在感も消える



 聖騎士たちは、炎のエレメンタルに乗って宙に浮いていたため、無事だった。



「アピサル!」



 俺は、振り返った。

 そこには――目を深紅に光らせ、不敵な笑みを浮かべる絶対者、深淵女王アピサルが立っていた。



「アピサル、出てきちゃダメだ!」


「敵対が確定したのに、隠れても意味がないわ」



 アピサルが、冷たい声で言う。



「それに...そなたを傷つけようとする者を生かして置けるわけがないでしょう」



 アピサルの迫力は、今まで体験してきたどんな瞬間よりも恐ろしく、肝が冷えた



「魔王...だと!」



 ディオンが、驚愕し叫ぶ。



(やはりアピサルが魔王と誤認されてしまった!)



 恐れていた事態が起きてしまい頭を抱えたくなる

 これで俺たちがヴェルディア王国と敵対する事が確定的になってしまった


 そんな俺の動揺をよそに、聖騎士たちは圧倒的優勢が一瞬で覆された事実と、目の前に現れた圧倒的存在に動揺している



「そんな馬鹿な!?」


「なぜこんなところに!?」


「教国が魔王を使役する御業を開発したとでもいうのか!?」



 動揺し陣形を乱す聖騎士たちをディオンが一喝する



「落ち着けテメェ等!伝令班は本体に急報! 魔王と教国が手を組んだ事実を確実に伝えろ!」



 その命令を受け2名の聖騎士が、撤退しようと踵を返し、加護の炎を噴き上げながら後方へと飛んでいく


 その瞬間――


 ――ドスドスッッ――


 誰も見切れぬ速度で放たれた深淵の槍が、聖騎士の脳天を貫いた。



「――!」

「あらあら、わらわから逃げられるわけがないでしょう?」



 クスリと妖艶に笑うアピサル

 その視線の先で、頭部を失った聖騎士の体勢がグラリと揺らぐ

 しかし――



 ゴォッ

 頭部を失った首が急に燃え上がり、炎の中から頭部が形成されていく

 次の瞬間には完全復活した聖騎士たちは、何事もなかったかのように全速力で後方へと飛んでいく。



「生意気な...!」



 驚愕の表情を浮かべたアピサルが再び深淵の槍を宙に生み出し、射出するが、その槍を他の聖騎士が身体で受け止める

 防御スキルも炎の鎧も貫いた深淵の槍だが、勢いは殺され、伝令の聖騎士には届かない


 そして、胸部や腕などを貫かれた聖騎士たちも次の瞬間には炎の中で復活する



「再生の炎...随分とやっかいな加護があったものね」



 アピサルが、悔しそうに呟く。

 更に――

 深淵に飲まれ消えたはずの冒険者達の一部が、地面に燃え広がった炎の中から復活し始めた



「これは...わらわの深淵では飲み込み切れない」



 力の制限。

 記憶の封印。


 様々な枷をハメられた状態だとしても、己の深淵魔法に絶対の自信を持っていたアピサルが、信じられないという表情でその様子を見つめる

 あの圧倒的なアピサルが出し抜かれるなんて思ってもみなかった俺も大きく動揺してしまう

 マリエルやピー助も動揺しているのが魂を通じて伝わってくる


 アピサルさえいればどんなことも乗り越えられる

 そう心のどこかで確信していただけに、目の目の状況がもたらした衝撃波計り知れない



「っへ、どうやらガルド=イグノア様の加護は今代の魔王と相性が最高らしいな」



 能力の優劣を悟ったディオンが得意げに炎の槍を振りまわしこちらに向かって構える



「冒険者共はそこにいる裏切りの異端者を殺せ!聖騎士は俺と連携して魔王をやるぞ!団長たちを待つまでもねぇ!ここで俺たちが魔王討伐の栄光をつかみ取る!ガルド=イグノア様に魂を捧げろ!」

「「「「「はっ」」」」」




 蘇った冒険者は5人

 恐らく加護lv1の者は深淵に飲まれ、lv2以上のリーダー格が復活したのだろう

 この場に残った聖騎士8名が宙から、冒険者が地を走りこちらに向かってくる

 人数が減ったとはいえ、国内最高峰の冒険者パーティーのリーダーが複数


 アピサルの表情が初めて焦った声を出す


「ご主人様を連れ離脱するのよ!」


「させねぇよぉぉぉ!!」



 こちらに向かてって来ようとするアピサルを遮るようにディオンの煌々と煌めく炎槍の一閃が振るわれる


 ジュッ


 と耳障りな音と共にアピサルの肌の一部が溶ける



「羽虫がぁぁぁ!」



 アピサルが瞬時に深淵の槍で応戦するが、ディオンはお構いなしに突っ込み、体の一部を削り取られながらも瞬時に回復しつつアピサルに突撃をする

 それと同時に残りの聖騎士たちもスキルや魔法を織り交ぜながらアピサルへ突撃を仕掛ける



「っく――」



 そんなアピサルの苦戦を横目に、俺の目の前には5人の冒険者が迫ってきていた



「聖光結界!!」



 マリエルが光の結界で冒険者と距離を取ろうとするが



「破砕!!」



 ジェット代わりにした加護の炎を大槌から噴射させ、すさまじい加速で突撃してきた戦士の一撃で破壊される

 そしてその瞬間に見越して槍から炎を噴き上げ突進してくる槍使いが俺の目の前に来ていた



「ピィィ!!」



 ピー助が得意のガードスキルによる衝撃波を放つ



「炎槍貫!」



 しかしその衝撃波が槍使いをはじく瞬間に、槍使いがスキルを使用

 ピー助の衝撃波を貫く



「ピィ!?」


「っは!タンカーがガードブレイク系統に対策なしとか、流石は異端者。雑魚すぎんだろ!」



 己の防御スキルが破られたことに驚愕するピー助と嘲笑する槍使い



「――残影一閃」



 そしていつの間にかピー助の背後に現れた双剣使いが、左右の手それぞれでスキルを発動し、ピー助をX字に斬る

 飛び散る血潮と黄色の羽


 それを見てマリエルが数本の光剣をこちらに飛ばしながらフォローに入ろうとするが



「炎鎖縛!」



 鞭使いから生み出された炎の鎖がマリエルを拘束し、飛行を妨害しつつ炎の継続ダメージを生み出す

 宙に飛んだ光剣も鞭によってかき消されていく



「ぐぅっ!癒しの光よ!」



 マリエルは回復系スキルを使って耐えようとするが、アピサル同様力が制限されている状態ではlv2の加護使いが使用する戦闘スキルを打破できないのか、拘束を振りほどけないでいる



(ピー助にマリエルまで!?俺に出来る事は一体!?)



 祝福の儀式で何の戦闘スキルも授からなかった俺には戦局を優位に運ぶための手段が何もない

 大体の者が1つ、優秀な者で3つほど授かるスキルは、その人間の戦闘力を大きく左右する

 魔王討伐軍に選ばれた冒険者パーティーのリーダー格だけあって、非常に優秀なスキルを有しているようだ


 いわゆる神に選ばれし者達


 バフで基礎ステータスが迫っただけの俺では何ができるとも思えない


 槌使いが結界を破壊し、槍使いが反射を防ぎ、双剣使いが制圧し、鞭使いが拘束し――



「邪教に死を――必中の矢」



 ――残る弓使いが、俺に向かって死の宣告をした



 ドスッ



 弓使いの放った矢は俺の胸を貫き――消えた



「え?」


「ビィ!」


 そしてなぜか次の瞬間にはピー助の体に矢が刺さっていたのだ



「ピー助!?」


「癒しの光!」



 即座にマリエルが治癒魔法をかけたことで、ピー助の傷が塞がっていく



「ッチ、支援型の天使に、自己犠牲持ちの魔物か。裏切り者は雑魚だ、先にそいつらから仕留めるぞ!」



 冒険者がその矛先をマリエルとピー助に向けた

 その瞬間



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 アピサルの叫びが聞こえた



(まさかアピサルが!?)



 慌ててそちらを見ると、全身を炎の槍に貫かれながらも、そんなこと全く気にせず、こちらを見て狂気の顔を浮かべるアピサルがいた



「わらわの愛しい人にぃぃぃぃぃ!!!!ゆるさなぁぁぁぁぁぁぃいいいい!!!」


「糞っ、こんだけやっても燃え尽きねぇのかこいつは!?」



 アピサルは己の負傷など気にも留めないといわんばかりの勢いで暴れまわり聖騎士を弾き飛ばす

 そしてその一瞬の隙をついて冒険者たちを再び深淵で飲み込む


 流石に二度目の攻撃に冒険者たちは炎を噴き上げながら宙に逃げる事で回避しようとする



「わらわの深淵領域から逃れられるとおもうなぁぁぁぁ!!!」



 アピサルが叫ぶと、地面に広がった深淵が膨張し、空間ごと飲み込んでいく

 冒険者たちは必死に逃げようとするが深淵の膨張の方が速度が速く、瞬く間に飲み込まれていった



「ご主人様を連れてきなさい!」



 アピサルの攻撃のおかげで拘束を解かれたマリエルがアピサルの指示で、俺とピー助を抱えて勢いよくアピサルの胸に飛び込む



「アピサル様!」


「逃げるわよ!捕まっていなさい!」



 アピサルが素早く飛び立ち戦闘区域から脱出する



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【初めての敗北】が行われました

 絆Lv +3

【アピサル】絆lv11→14

【マリエル】絆lv13→16

【ピー助】絆lv13→16

 絆pt +15


【マリエル】【ピー助】

【絆共鳴】が解放されました


 リュウトのスキルに【絆共鳴】が追加されます

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 敗北と同時にスキルが手に入った通知が届く

 それが何か調べようとしたら



「【回り込み】」



 いつの間に進行方向にディオンが待ち構えていた



「俺が偵察隊のリーダーやってんのはな、対象を絶対に逃がさねぇからなんだよ!【紅蓮の先鋒】【戦意高揚】【炎神の寵愛】」



 ディオンの存在感が急激に増していく

 単騎なのに軍勢を感じさせるほどの気炎



「喰らえやぁ!【炎槍突撃】ぃぃぃ!!」



 炎というよりは光に近い灼熱を槍の先端に纏わせ

 こちらに突っ込んでくる

 狙いはアピサルの心臓部

 俺たちごとアピサルを討ち取る気だ



「深淵よ!」


「聖光結界!」



 アピサルとマリエルが障壁を展開するが



「槍使いに障壁が効くかよ!――【貫通】」



 勢いを殺すことなくそれらを突破する

 このままではアピサルが致命傷を負ってしまう



(何でもいい、アピサルを、マリエルを、ピー助を、やっとできた愛すべき仲間を守る方法を!)


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【絆共鳴】を発動

 対象者を選んでください

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 そんな願いを浮かべる俺に、先ほど手に入れたよくわからないスキル発動の通知が届く



(絆共鳴!?なんだそれは、でも時間がない!)



 走馬灯のように引き延ばされた俺の感覚

 しかし着実に俺達を貫こうと迫るディオンの姿



(対象はマリエルかピー助だったよな!?)



 思い浮かぶのは、怪我を癒すマリエルと、難攻不落のピー助



(今必要なのは守る力!!)



 俺はピー助の事を心で強く思う


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【ピー助】と【絆共鳴】を開始します

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 その通知と共に

 ピー助と俺の間にラインが走った


 そして俺の心の中に「何が何でも守る」という鋼の意思が沸き上がる

 俺は、この命に代えても、背中に背負うものを守り切らねばならない


 ピー助から流れてくる『勇者』としての決意


 次の瞬間俺の全身は金色の武具に包まれていた



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【絆共鳴】発動

 対象: ピー助

 消費:20絆pt

 使用可能時間: 5分

 スキル:希望の盾

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 そしてディオンの槍が今まさに俺たちを貫こうとするした時

 背中にアピサルの鼓動を感じた


 その瞬間、俺の魂から無限の力が沸き上がる



 ――絶対、守る




「【希望の盾ぇぇぇぇぇ!!】」



 俺は解放されたばかりのスキル名を全力で叫ぶ

 すると俺の盾が光を放ち、俺が背負う全てのもの達を守り切る光の奔流となる


「何度やっても同じだ!槍は止まらねぇ――」



 ガガガガガガガガガガガッッ!!


 そしてこれまで全てを貫通してきたディオンの槍を受け止めた



「――はぁ!?【貫通】【貫通】【貫通】!!!」



 ディオンが何度叫ぼうとも希望の盾は突破できない

 スキル名を叫ぶたびにディオンから破壊のオーラが発せられるが

 俺にはこの防御は絶対に破られないという確かな確信があった


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 希望の盾: 背中に守る者が居る時発動できる絶対防御(あらゆる概念を無効化)

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「ピー助の!勇者の希望は!壊される事はない!!」



 これがピー助、勇者の本来の力

 俺が未熟なばかりに引き出すことができない仲間たちの本当の力



「うらああああああああああああ!!!」



 そして俺はディオンの槍を弾ききる



「――は?」



 信じられない、そんな顔をするディオン



 ――ブオン



 そこにアピサルの痛烈な尻尾による攻撃がクリーンヒットし



「グホッ――」



 ディオンは地表へと彗星のごとく落下していった



「...逃げるわよ」



 そしてその隙に俺たちは偵察部隊から今度こそ逃げ切ったのだった



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【アピサル】と【初めての共闘】が行われました

 絆Lv +3

 絆lv+14→17

 絆pt +5


【アピサル】との【絆共鳴】が解放されました

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「っぐ...」



 絆共鳴がとけた瞬間、

 全身を激しい脱力感が襲った


「主様!」


「大丈夫...ただ、すごく疲れた...」



 初めての本気の戦い

 特訓で強くなったと思っていた

 皆と力を合わせればどんなことも乗り越えられると思っていた

 しかしこの世界の精鋭たちはそんなに生易しいものではなかった


 仲間として背中から見るだけでは、神の加護があそこまで強力なものだとはわからなかった

 スキルと加護を駆使しこちらを仕留めに来る集団の強さを舐めていた


 それだけ仲間たちの力が絶大なものに感じていたのだ

 例え能力にロックがかかろうとも、ゆるぎないものだと


 何の事はない、俺が未熟すぎるから、全てが高くみえてしまい、正確に判断することができなかったのだ

 でも今日の絆共鳴を使って分かった

 やはり、一番の原因は皆の能力にロックがかかってい事

 皆が本来の力を取り戻すことさえできれば、今日の用な出来事は起きない


 俺にできる事は、皆との絆を深める事


 俺はメニュー画面を開く


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【絆ガチャシステム】

 現在の絆pt:113 現在の絆石:47

【絆ptガチャ】5pt/回

【インベントリ】卵×7

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 絆ガチャでは絆石の他に様々なアイテムや、強化用の特別な絆石が手に入ります

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 そして、強化用の特別な絆石...これを手に入れる


(絆を深めて強くなる...だったら今の俺に出来るのは絆を深めてとにかく沢山のガチャを回すことだ)



「もっと絆を深めよう、もっと一緒の時を過ごして、沢山のガチャを回そう」


「ふふ、そうね」


「はい!」


「ピィ!!」



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【アピサル】【マリエル】【ピー助】

 との絆が深まりました

 絆pt +9

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 魔王と間違われ、教国へ寝返った裏切り者の烙印を押された

 恐らく本隊にいるであろうランザにも伝わるだろう


 次の戦いはより熾烈を極めるだろうけど

 それでも俺たちには愛すべき仲間との絆という希望が残されていた



(全てを諦めるには早すぎる、俺はもうあきらめないって決めたんだ...強くなって、皆の誤解を解いて見せる)



 果てしない道のりを前に

 俺の胸は新たな挑戦への高鳴りを覚えていた





 ――遠く、地上


「ぐっ...」


 ディオンが、炎と共に復活した。


 全身ボロボロ。

 それでも、立ち上がる。


「あの能力...団長に報告しなければ...」


 ディオンは、本隊へと走り出した。


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 第7話 了

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