第4話 狩りの始まり

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第4話 狩りの始まり

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 朝日が昇る。

 俺は、遺跡の入口から外を見る。


 昨夜、遠くに見えた魔王討伐軍。

 朝になってもこちらの方には誰も来ていないらしい



「...よかった、鉢合わせせずに済みそうだね」


 魔王討伐軍がアピサルを魔王と勘違いする

 そんな最悪のシナリオを回避できた事に胸を撫で下ろす。



「さ、そうと決まれば朝ご飯だな」



 俺は昨日手に入れた携帯自炊セットに含まれた4合炊きの飯ごうを使い米を研ぐ

 測りはなかったが、手に入れた紙コップがちょうど180mlサイズだったので助かった

 この世界に転生して長い年月が経っても1号=180mlを覚えていた当たり、お米大好き日本人だったんだなと実感する


 おいしい米を作るためには水分を吸着させる必要があるためにそのまましばらく放置する


 その隙に皆に手伝ってもらい、手ごろな石を集めて、コの字の竈をつくる

 そして竈の中に腰から抜き放ったショートソードを突き刺す

 ショートソードの手前に固形燃料と割りばしを組み、そこにライターで着火する

 十分に水分を含んだ米が入った飯ごうを、ショートソードの柄と刃の間にある十字のガード部分に引っかけて吊るす


 乾燥した割りばしを使っていたからか、水分が蒸発するときになるパチパチ音を鳴らすことなく静かに燃えている炎

 この世界ではまず見ることの静寂の炎を見ると少なくない違和感を覚えた

 それが俺がこの世界に完璧とは言えずとも馴染んでいたことを感じさせ、何とも言えない不思議な気分にさせる


 やがてクツクツ、コトコトと飯ごうが懐かしい米の音を鳴らし始める

 横で作業を見ていたピー助が「ピッ♪…ピッ♪…ピッ♪」と炊飯音に合わせ体を小さく揺らしながら鳴いているのが可愛い

 最初は騎士の魂たる剣で何をしてるのか!?とでも言いたげに俺の脛をゲシゲシ蹴っていたのだが、ご飯の音が味への期待を膨らませたことで、それどころではなくなったらしい

 これで米の味が認められれば、ピー助の中の剣術のスキルの一つとして米炊きが追加されるかもしれない


 そろそろ頃合いかと、飯ごうを火からおろし、中の米を蒸す

 そして共に出てきたケトルに、ペットボトルから水を入れ、火の横に置き湯を沸かす


 そしてその傍ら、インベントリから和牛(肩ロース)1kgを取り出し、丁寧にスライスして、ケトルの横に並べ石焼にしていく


 お湯はカップ麺用で俺・マリエル・ピー助の3人用

 お米と和牛はアピサル用にする予定だ

 絶対足らないとは思うがこれが今できる最大限だ


 アピサル曰く、絆石による補給がシステムから行われた段階で空腹などは消えたので、食べなくても問題ないとの事だが、これは気分の問題だ

 ご飯は皆で食べる


 死ぬつもりだった俺には保存食のストックが無かったので、ガチャからのご飯の出現は素直にうれしかった

 この点は地球の神ガイアに感謝できる

 願わくばもう少し親切に教えてくれてほしいのだが、そこまで世話焼きではないらしい


 湧いたお湯をカップ麺に注ぎ、フルーツ詰め合わせのメロンと桃もカットしていく

 生肉を見る限り大丈夫だとは思うが、インベントリに時間経過があるかどうかの実験は済んでいない

 生ものは早く消化するに限るだろう


 湧いたお湯をカップ麺のに注ぐ様をまじまじと全員が見てるのにクスリと笑いながら、元々持っていた荷物の中から残りわずかとなった塩の結晶を削り、肉を味付けをする


 調味料もガチャから出る可能性が高い

 いつもだったらものすごく慎重に使う塩だが、今日は奮発してしまってもいいだろう

 只肉を焼いただけとはいえ、アピサルに振舞う初めての料理だ、少しでも美味しいものにしたい




「よし、できた!」



 アピサルの前にはステーキ1kgと米4合

 俺の前にはカップ麺青

 マリエルの前にはカップ麺赤

 ピー助の前にはカップ麺黄色だ


 黄色はカレー味なのでピー助には刺激があるかもと伝えたのだが、かたくなに黄色が良いと主張したためこの結果になった



(まぁ、カップ麺のカレーだし辛くはないから大丈夫か)



 アピサルに用意したご飯量ではグミ一粒くらいの満足度しかないだろうから非常に申し訳ないのだが、アピサルは自分の為に俺が用意したご飯というだけで胸がいっぱいになると、ことのほか喜んでくれていた



「それじゃあ、食べよう...我らが神ガルド――」



 そしてこの世界で刷り込まれた食前の祈りが口から出た時、もうその必要はないのにと内心苦笑してしまう



(加護を得ようと必死だったもんな...)


「そなた?大丈夫かしら?」



 俺の心の浮き沈みを感じ取ったのか、アピサルが心配そうに見つめてくる

 もうこの世界に馴染もうとする必要はなくなった。


 加護なんかよりずっと素敵な仲間が出来たから



(このご飯はこの世界の人たちが作ったものではない、だったら日本人として地球の生産者に感謝を告げるべきだよな)


「すまない、大丈夫だ。感謝の気持ちを胸に食べよう...いただきます」


「そういうことならわらわは、必要ないというのにわらわの為にご飯を用意してくれたそなたに感謝を告げ食すとしよう。いただきます」


「でしたら私は、全知全能なる神をも超える愛情をくださった主様への感謝を、いただきます」


「ピッピッピィィ~~」



 俺の意と言葉尻を汲んでくれる仲間たちに心が温まる

 そしてそのまま久々の箸をつかい、カップ麺を一気に啜る



「~~~~!!!!!」


(美味い!これだよこれ!大好きな仲間とキャンプして食べるカップ麺!最高過ぎる!!)


 マリエルは俺の動作から箸の使い方を完全にトレースし、長い桃色の髪を耳にかけながら、小さな口で麺をちゅるちゅと啜る


「...これは!?なんという事でしょう!?これがお湯を注ぐだけでできたというのですか!?これは何という神がおつくりになったのでしょう!?私、主様だけではなくその方への感謝を祈りたい気持ちでいっぱいです!」


「いや、これは神ではなく日本の大手企業が――」


「オオテキギョウ神様!素敵なお恵みに感謝します!」



 マリエルはカップ麺の味をかなり気に入ったようだ

 もしかしたら天使の世界は薄味が基本だったのかもしれない



「……」



 そしてカップ麺の中に起用にくちばしを突っ込んで咀嚼するピー助の目は真剣そのものだ

 中に含まれるすべてのスパイスの味を感じようとしてるのではないかと思えるくらい、ひと噛みひと噛みに重みを感じる

 これはしばらくは触れないほうが良いだろう


 そしてアピサルを見る

 アピサルは自分の分にはまだ手をつけず、カップ麺に感動する俺をじっくりと見ていたらしい

 そして俺の視線に気が付くと優しく微笑み、自分の前に置かれた肉と飯盒を見つめる

 アピサルの大きな手では食べにくいのかもしれないと、補助をする為に立ち上がろうとしたら、アピサルの口から長い舌が出てきた

 アピサルはその長い舌を起用に操り、飯ごうの中にあった米とステーキをまとめて救い上げ、口の中に運んでいく


(なんというか、エロい)


 前世で初めて牛タンのブロックを見た時、牛の舌はこんなにブッといのか!?と少し君が悪くなった覚えがあるのだが、アピサルの下はそれよりも太く、長いはずなのに、とても繊細で、すごくセクシーに見えた

 アピサルのすることがなんでも魅力的に見えてしまうのは魅了の効果だろうか


 俺がアピサルの挙動にドキドキしてるのが魂で通じたのか

 アピサルがこっちを見て、チロリと舌を出しながら悪戯っぽく笑った



「ピィィィィィィィィィィ!!!」



 突然ピー助が叫び声を上げた

 我に返ってそちらを見ると、空っぽになったカップめんの容器を見つめ全力で泣き崩れるピー助の姿があった


 まるで戦場で恋人を失ったかのような悲惨さに、どれほどの感動を覚えたのかと笑い声が漏れてしまう


「ピー助、あと少しだけど、俺の残り食べるか?」


「ピィィ!?」



 そのあまりの悲惨さについつい自分の分をあげようと声をかけると、救世主を見たかのように感動の視線を向けてくるピー助

 ピー助が俺の元に走ってきて、カップ麺にくちばしを突っ込む直前


 ――ふわり


 俺の体にアピサルの尻尾が絡みつき、宙に浮かび上がった



「ピィィィィ!?!?」



 この数日で何度か体験した浮遊感が止むと、アピサルの顔が目の前にあった



「ピー助、わらわをさしおいて、ご主人様と食べ物を共有しようだなんて、許されることではなくてよ?」


 そして泣き崩れるピー助と俺に見せつけるかのように、俺の手の中の容器に舌を伸ばし、中の全てを奪っていく



「ピィィィィ!?!?!?」



 先ほどドキドキした行為を目の前で見せつけるかのように行われて更にドキドキしてしまう俺の鼓動と、ピー助の悲痛な叫び。

 そして勝ち誇ったアピサルと、まだ小さな口でフーフーと麺を食べるマリエル


 そしてデザートにフルーツにも感動しながら

 何とも個性的な朝食が終わったのだった






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【初めての食卓】が行われました

 絆Lv +3

【アピサル】絆lv8→11

【マリエル】絆lv6→9

【ピー助】絆lv6→9

 絆pt +15

【アピサル】【マリエル】【ピー助】

 との絆が深まりました

 絆pt +9

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 因みに俺はアピサルのメロンの上でメロンを食べた

 凄くドキドキした

 とても甘酸っぱかったことをここに記しておく



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【アピサル】

 との絆が深まりました

 絆pt+3

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「よし、狩りに行こう!」



 腹も心も満たされた俺は皆に提案をする



「狩りですか?ですが今は魔王討伐帯が近くに居るので危ないのでは?」


「確かにそれはある、でも昨日アピサルが魔物を処理した後に絆ptに関する通知が出たんだ。それによれば単独戦闘ではなく、共闘をしっかりやればポイントが稼げるはずなんだ」


「あら、昨日の戦い方は失敗だったのね」


「いや、そのおかげで共闘による絆pt入手が確定したんだからむしろ良かったよ」



 ただ、アピサルの力は圧倒的過ぎて共闘に向かないだろう

 共闘がどこまでの範囲の事なのかはわからないが、いろいろと試してみるしかない



「マリエルは昨日の夜に遭遇した魔物クラスは何体まで相手取れそう?」


「力に制限がかかっている今の現状で、主様を完璧にお守りすることを考えたら、3体が精々といった頃でしょうか」


「俺を守らなくていいなら?」


「そういう事なら私は自分を癒しながら戦えますので、持久戦でよろしければ、100程度の群れでも問題ありません」


「ピー助は?」


 俺の質問にピー助は盾を構えて俺を庇うように背を向ける


「担当は攻撃じゃなくて防御ってこと?」


「ピッ!」


 ピー助はアタッカーではなくてディフェンダーという事か

 確かに昨日のじゃれ合いの中でも、正面からの攻撃であればアピサルの攻撃を完全にシャットアウトしていた

 こと防御にかけてはピー助は誰よりも強いのかもしれない



「それならマリエルが、俺へのバフを飛ばした後に、敵のヘイトを集める。そしてそれを確認した後に、ピー助が1匹だけ敵を引き付け、そして最後に俺が背後から魔物にとどめを刺すっていうのを繰り返すのはどうかな?」



 我ながら情けなくなるほど味方便りの戦法だが、そうでもしないと俺では灰の平原の魔物には太刀打ち出来ない

 絆ptを稼ぐには俺の参戦は必須だろうから、確実に稼ぐ為の苦肉の策だ


 作戦を考える端からかつての仲間に言われた「寄生」「お荷物」「厄介者」といった否定の言葉がよみがえり、もし皆に同じように思われたらどうしようという不安が沸き上がってしまう


 こういう風に思ってしまう事自体が、彼女たちの思いを冒涜することになると、頭ではわかっている

 しかし、実際に情けなさ過ぎる自分の実力を想うと、薄暗い感情が顔を出すのだ



 ◇◇◇



「居ました、オーク種が3匹」



 遺跡を出て、警戒しながら索敵を行っていると、マリエルが前方に敵を発見した

 今の布陣は先頭にマリエル、後方にピー助、真ん中に俺だ

 アピサルは万が一人間に見られた時に俺に迷惑をかけないようにと、俺達では認識できない程離れた場所から見守ってもらっている


 どうしようもないピンチの時には、昨日の夜見せてもらった深淵魔法で敵を問答無用で葬ってもらう予定になっている


 本気で気配を消したアピサルは、少し離れただけでマリエルですら見つける事は困難になる程のステルス性能を有していた

 魔王討伐軍に見つかることもないだろう、流石である


 マリエルの指さす方向に視線をやると、そこに居たのは頑強なフルプレートアーマーに身を包んだオークだった



「アーマーオークか...奴等は体から自由に鎧を生成することで脅威の防御力を誇るモンスターだ」


「防御一辺倒なんですか?」


「いや、スパイクアーマー化させて肉弾戦を挑んでくる武闘派だ」


「オークというより、オーガに近いですね」


 それはそうなのだが、オーガがプロレスラーなら、アーマーオークは相撲取りだ

 圧倒的なフィジカルが放つブチかましを食らうとlv1の加護程度ではミンチと化してしまうらしい


 あの巨体を見るとマリエルとピー助は本当に大丈夫か不安になってしまう



「ピッピ」



 そんな俺の不安を感じてか、ピー助があれくらい余裕だよ、とでも言いたげに何も気負った様子もなく、アーマーオークに向かって歩いていく



「ピー助!」



 思わず後を追おうとするが、その動きはマリエルの翼にさえぎられる



「主様が呼び出した私達の力を信じてください」


「でも、力の大半が封印されてるって――」


「それでも、ピー助はとある世界の勇者です。勇者とは世界を救う使命を帯びた者の称号、たとえどれだけ力を封じられようが、あの程度の魔物に後れを取ること等あり得ません」



 本来であれば1対2の状況を作るために、マリエルが最初に敵を引き付ける段取りだったのだが、俺の不安を解消するためだろう、マリエルとピー助は打ち合わせもすることなく予定を変更した。まずは一番か弱いと思われたピー助の力を見せる事を選んだようだ


 アーマーオークの1匹が、金色の鎧に身を包んだピー助に気が付き、餌がやってきたといわんばかりに興奮する

 そして残りのアーマーオークも雄たけびを上げ、ピー助を食らうべく我先にと高速のタックルを仕掛けてくる


 その圧倒的迫力が俺に向けられていたら間違いなく膝が折れている自信がある

 それでもピー助は「ヤレヤレだぜ」とでも言いたげに首をフルフルと振るった後、腰を落として、盾を正面に構える

 そしてアーマーオークのぶちかましが当たるその瞬間


「ッピ!」


 ぶちかましに対して完璧なタイミングで、盾から黄金の衝撃派をカウンターとして放った

 それはパリィというべきか、シールドチャージというべきか

 30cmの小さな体から発せられたとは思えぬほどの衝撃派は、アーマーオークの突進を完全にはね返し、3匹を同時に宙に浮かせる

 斜め下から救い上げるような反撃は、見事に顎を捕らえたようでアーマーオークは受け身を取ることなく地面にたたきつけられる

 鎧を着ているとは言え、かなりのダメージを負っている事だろう


 そしてピー助はこちらを振り返り、顔をクイっと振りながら「ッピ!」と鳴いた

 何ぼさっとしてんだ、こっからが本番だぞといわれているような気がして、俺は自分のショートソードとスモールシールドを握りしめた


「マリエル!ありったけのバフを頼む!」


「はい!お任せください!主様!」



 マリエルが祈りの姿勢をとると俺から光があふれる

 身体能力がかなり向上したのを感じる、これならさっきのぶちかましが来たとしてもかすめるくらいですむ回避は行えそうだ


 俺がアーマーオークの一匹に走っていくと、ピー助がそのアーマーオークの頭を蹴飛ばし意識を覚醒させる

 そしてアーマーオークが俺を認識し、不利な状況をひっくり返そうと寝た姿勢から即座にタックルを仕掛けてくる



(避けた隙に反撃を――っ)



 ギリギリのところでタックルを回避し、鎧の隙間にショートソードを差し込む

 そんな完璧なイメージをして、全力で横に跳躍した



(――行ける!躱せる!)



 そして攻撃の成功を確信した瞬間、アーマ―オークが急停止をした



「――え?」



 アーマーオークは先ほどのピー助による完璧なカウンターを学習し、急制動によるフェイントを入れてきたのだ

 ニヤリと不気味な表情を浮かべるアーマーオーク。その表情は勝ちを確信したもので、その巨体からは信じられない速度で張り手を放ってきた


 そう、上級の魔物は力や魔力だけではない、知恵も回るのだ

 何時も後方支援に徹していたからこその経験不足、俺はあっさりとアーマーオークの策に嵌った

 自分の上半身がはじけ飛ぶ未来に身体が硬直した次の瞬間



 俺の視界は黄色く染まっていた



「ピィィ!!」



 ピー助は、俺とアーマーオークの張り手の間にいつの間にか割り込んでおり、盾を振り上げアーマーオークの攻撃をパリィし、跳ね上げた

 驚愕に染まるアーマーオークの表情



「ピィィ!!」



 ピー助の今の鳴き声の意味ははっきり分かった

 正気に戻った俺は、俺はピー助の作ってくれた隙を活かすために一気に踏み込む



「はぁぁぁぁぁ!!!」



 そしてアーマーオークの脇腹にある鎧の隙間にショートソードを全力で叩き込む

 その一撃が、肺を貫き、そしてそのまま力強く鼓動する心臓を貫いたのを感じる



「ブオォォォォォォ」



 しかし、タフなオークは心臓を貫かれたくらいでは即死しない

 ただでは死なぬと俺につかみかかろうとするアーマーオークを睨みながら、俺は強化された腕力で力任せにショートソードをぐりぐりと動かし、アーマーオークの内部を破壊する



「ブフォォッ」



 アーマーオークは盛大に血を吐きながら倒れ込んだ

 脇腹にショートソードを突っ込んでた俺は、あやうく下敷きになるところだったが、ピー助が体当たりで弾き飛ばしてくれたおかげで、巻き込まれずに済んだ



「あ、ありがとうピー助。助かったよ」


「ピッ!」



 翼をグッと突き出してくるピー助

 俺はその翼に自分の握りこぶしをぶつける



「さんきゅう、相棒」


「ッピ!」



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【初めての共闘】が行われました

 絆Lv +3

【ピー助】【マリエル】

 絆lv9→12

 絆pt +10

【ピー助】【マリエル】と共闘を行いました

 絆pt+6

【ピー助】と完璧なる連携を行いました

 絆pt+2

【マリエル】に戦闘補助を受けました

 絆pt+2

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 共闘だけではなく、今みたいな連携でもポイントが入るらしい

 完璧には随分程遠い甘い査定だとは思うほど俺が助けてもらい続ける情けない結果なのだが、ポイントがもらえるのはありがたいので、ピー助のフォローが完璧すぎたという事で納得する


 嬉しい結果に俺は残ったアーマーオークに向かおうと視線を上げる



「ブフォ...」



 するとそこには涼しげな顔でアーマーオークに光る剣を差し込むマリエルの姿があった


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 共闘が確認できませんでした

 絆ptを獲得できませんでした

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「マリエル?」


「差し出がましいようですが、今日はこの辺で一度下がるべきと判断しました」


「そんな、それじゃあ絆ptが――」


「初日から無理をするべきではありません、死を感じる事は心に大きな負荷を与えます、幸い絆石には猶予があるのですから、今は主様の精神状態を優先すべきです」



 マリエルの気遣いはうれしいが、せっかくポイントを稼ぐチャンスだったのにと思ってしまう

 そしてそう思った瞬間に昨日のマリエルとの会話がフラッシュバックする


 ――私が主様にとって不都合なことをしてもですか?


 ――もちろんだよ、マリエルみたいに素敵な子がそんなことをするなら、原因は確実に俺のほうに在るだろうからね、俺が反省して改めるよ



(馬鹿野郎、昨日そう誓ったばかりなのに、目先のことに囚われて、大切な思いを無下にするつもりか)



 冷静に今の自分の状況を見てみると、確かに心臓の音も呼吸も高ぶり、妙な興奮状態にある


 それに、目をつぶれば、アーマーオークから感じた死の確信がフラッシュバックして、緊張状態に陥ってしまう


 確かにこれはまともじゃない。


 マリエルはそれを感じ取ってくれたんだ、感謝しこそすれ、文句をぶつける何てあってはならない



「ごめん、マリエル。確かに、すごく疲れてる、今すぐ横になりたいくらいなのに、焦ってしまった。止めてくれてありがとう」



 俺のその言葉に、無表情に近かった、マリエルがすごくホッとした表情を浮かべた

 一度神に捨てられたマリエルにとって、今の発言はかなり緊張した事だろう

 出来れば言いたくなかったはずだ

 それなのに、たとえ嫌われたとしても俺の為の発言をした


 マリエルはとても幼く見える。だけどその精神は誰よりも大人で、立派だった


 自分を犠牲にしたとしても正しい発言をする


 これは誰にでもできる事ではない



(俺も、見習わなくちゃな)



 オーク系の肉はおいしいことで有名なので、俺たちは今日の晩御飯にするためにアピサルに警戒してもらいながら、アーマーオークを丁寧に解体し、肉をはぎ取る

 切り分けた肉を汚さないように、ゴミ袋に入れて気が付いたのだが、なんとガチャから出たごみ袋に肉を入れた後だったら、ゴミ袋を再びインベントリに入れる事が出来た


 ゴミ袋1 ゴミ袋2...


 と表示されているので、中に何が入っているのかは表示上わからないという不便さはあるし、食材をゴミ袋に入れるのは気分的には良くないのだが、持ち運ぶことを考えたら利用しない手はなかった


 それが判明してから、俺たちはアーマーオークの肉を余すところなく回収した

 アピサルのご飯の事を考えると肉はいくらあっても困らない

 そして



「お...魔石だ」



 青く光る、拳大の石

 魔石は上位の魔物になる程持っている確率の高いもので、魔道具の燃料になる為そこそこの値段で取引されている

 魔石には優劣はなく、高位の魔物程持っている確率が高く、低位の魔物が持っていることはほとんどないという出現率の問題になる


 一部のコレクターは希少な魔物の魔石を集めているものもいるとか聞いたことはあるが、どの魔物から出ようが魔石に大差はない為、本当にその魔物から出た者なのか確かめるすべはない


 人里に行かない限り特に役に立たないのでこれもごみ袋に入れてからインベントリにいれるかと、魔石を持った手でメニューに触れる


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【システムメッセージ】

 魔石を絆ptに変換しますか?

 Y / N

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「え?魔石を絆ptに...?」


「共闘以外でも稼げるんですね!」


「どうやら、そうみたいだ」


 俺は、Yをタップ。


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 魔石×1個 → 絆pt +1

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「...1個で1ptか」



 少ないが、確実に手に入る。

 万が一皆が卵に戻ってしまって、絆ptを稼げない状況になっても起死回生の手段があると知って少しほっとした



「皆に狩りをして貰って魔石を稼ぐっていう方法も可能ではあるのか」


「魔石の出現率や、狩りに出る間の主様の安全、そしてその間に会話で手に入る絆ptを考えるとあまり有効には思えませんが」


 確かにマリエルの言う通りだ

 皆で一つの想い出を共有したほうが絆ptが多く手に入るのはこれまでの経験でわかってる

 とすれば



「ガチャで出る地球産のアイテムを金に換えて、金で魔石を買ってポイントに変換するという手もあるな」


「確かにそれは有効そうです」


「ピィ!?ピィ!?」


「わかってるよ、皆が欲しいものは売らないよ」


「ピィ~」



 今はまだ多くのアイテムがあるわけではないが、今後そういった活用方法が有効とされるアイテムも出てくるだろう



「まぁ、まずは人間の街に安心していけるようにならなきゃいけないんだけどね...」



 俺一人で行くことはできるが、単独行動という危険行為をマリエルやアピサルが許してくれるとは思えない

 卵から、強力な人間キャラクターが出てきてくれるのを待つしかないのかもしれない



(高く売れそうなアイテムが溜まったら卵を孵化させて人間の街に行く計画を立てるのはありだな)



 新しい発見をした俺は、意気揚々と拠点へと戻っていった



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【マリエル】【ピー助】

 との絆が深まりました

 絆pt +6

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 夕方。

 精神疲労がたまっていた俺はアピサルに寄りかかりながらメニュー画面を見ていた

 狩りで時間を共有できなかったアピサルが、しばらく俺を離してくれなかったのだ

 マリエル達に絆lvを抜かれたことにもかなりショックを受けていて、自分も共闘を行いたいと言い出し、マリエルの制止を振り切り数度狩りを下のだが、アピサルの初撃で決着がついてしまい、システムは共闘を認めてくれずlvは上昇しなかった

 そのことに癇癪を起したアピサルによって周囲の魔物が一掃される事件が起きたのだが、そのお陰で魔石も追加で2つ手に入った

 派手に暴れたため、偵察隊が来る可能性もあり、肉はあきらめて退散したのが悔やまれる


 流石にずっと胸の上にいるのは心の居心地が悪いので、アピサルにうつぶせに寝てもらい、顔を乗せてる腕に寄りかからせてもらっている


 マリエルは周囲の警戒をしてくれているので、今遺跡の中にいるのは、オーク肉を食べ過ぎて腹がはちきれそうになってダウンしてるピー助と、俺達だけだ


 アピサルはそのことがうれしいのか、尻尾を動かし、俺の頭をなでたり、頬をつついたりしている

 完全に愛玩動物になった気分である



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【アピサル】

 との絆が深まりました

 絆pt +3


 魔石×2個 → 絆pt +2

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 改めてシステム画面を確認する。


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【アピサル】絆Lv11

【マリエル】絆Lv 12

【ピー助】絆Lv 12

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「絆Lvって何の意味があるんだろう...」


「さあ...でも、悪いことではなさそうね」



 微笑アピサルに見つめられながらさらに画面を見ていくと


「おお...絆Lvが上がって...あれ?」



 そして、俺は気づいた。


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【アピサル】維持コスト:10→9絆石/日

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「維持コストが下がってる...!」


「あら、そうなの?」



 アピサルが、興味深そうに覗き込んでくる。



「ああ、絆Lvが上がると、維持コストが軽減されるみたいだ」


「それは...良いことね」



 アピサルが、少し寂しそうに微笑む。



「他の仲間が増えるのも時間の問題ね」


「大丈夫だよ、アピサル。どれだけ仲間が増えても、アピサルを大切に思う気持ちは減らないから」



 俺は、アピサルの頬に手を当てた。



「俺達の絆は減ることも消える事もないよ」


「...ええ、そうね」



 マリエルとピー助の絆lvはアピサルを越しているが、維持コストが減ることはなかった

 lvによる定数減少ではなく、割合減少なのかもしれない


 すぐに大きな変動があるわけではなさそうだが、今後のlvアップに期待が高まる


 絆石のストックがいっこうに増えないことで、召喚する日は来ないのではと不安になっていたもう一人のSSRの存在を見る日も、そう遠くないかもしれない



「これからもゆっくり絆を深めて、確かめていこう」


「ふふ、そうね、時間はたっぷりあるものね」



 アピサルに優しく包まれながら、俺の意識は遠のいていく。


 温かい夜。


 でも――


(明日からも...気をつけないと)


 遠くから、時折聞こえる戦闘の音。


 魔王討伐軍は、まだ近くにいる。


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 第4話 了

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