第3話生存の算段

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 第3話:生存の算段

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「ピ...ピィィ...」



 ピー助はよく頑張った

 マリエルの空中機動をアピサルが捕らえるたびに、光の幕を発生させ攻撃を防ぎ続けた


 これぞ勇者!とほめたたえたくなるくらいの見事なディフェンス

 ただ、相手が悪かったのだ


 マリエルも息を荒げ地面に膝をついているが、アピサルは涼しげな顔で勝ち誇っている

 新参者に上下関係を叩き込んだ事で、嫉妬心はひとまず落ち着いたといったところだろうか


 上機嫌に振られるアピサルの尻尾によって、地面に散らばったピー助の羽が再び舞い上がるのを見ながら、俺は何とも言えない感情でため息をついた。



「とりあえず、落ち着ける場所を探そうか」



 3人――いや、2人と1羽に提案する

 アピサル、マリエル、そしてボロボロのピー助。



「ピィ...」



 恨めしそうに鳴くピー助を、俺は優しく抱き上げる。



「ごめんごめん、もっと早く止められれば良かったんだけど」


「ピィ!ピィ!」



 そうだそうだ!と涙目で鳴くピー助に不覚にも癒される。



「アピサル、仲間に嫉妬なんかしちゃだめだよ」



 そして俺がピー助を抱きかかえた瞬間、視界の端で眉間にしわを寄せたアピサルにくぎを刺す

 アピサルは見透かされたことを恥ずかしそうに顔を背ける



「ではわらわが、その落ち着ける場所をさがしてくるとしましょう」



 アピサルが、6枚の翼を広げる。

 光に照らされた翼が、美しく輝く。



「飛べるのか!?」


「羽があるのだから飛べるに決まってるでしょう?」



 そういわれればそうなのだが、目の前の巨体が飛ぶところが想像できなかったのだ

 気品あふれるアピサルがドラゴンのようにバサバサと豪快な音で飛ぶのだろうか

 少しワクワクしてアピサルを見つめてしまう



「そんなに見つめられたら照れるわね」



 しかしアピサルは俺のイメージに反して、ふわりと、重力を感じさせない挙動で、静かにゆっくりと浮かび上がる。

 地を這う時も、空を飛ぶときも音を発さない、天性の狩人

 深淵界と呼ばれる場所がどんな場所かはわからないが、アピサルと敵対してた存在はきっとなすすべもなくやられていったのだろう



「行ってくるわ」


「あぁ、アピサル、気を付けてね」


「あらあら、心配されるなんていつ以来かしら?」



 アピサルはブンブンと尻尾を振り回すことで静寂を破りながら上機嫌で飛び立って行った



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【アピサル】との絆が深まりました

絆pt +3

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 ◇◇◇


 日が沈みかけたころアピサルが戻ってきた


「北に、古い遺跡を見つけたわ」


「遺跡?」


「ええ。わらわが入れる大きさもありそうだし、人の気配もなし、休むには丁度良さそうよ」



 きっとどこかの国が灰の平原進出のために作った前進拠点の跡地だろう

 大体は他国に攻め滅ぼされる時に跡形もなく消滅するらしいのだが運良く残っていたらしい



「ありがとうアピサル!早速そこに移動しよう!」



 移動を始めようとした時、アピサルが俺の前にしゃがみ込む。

 いや、正確には上半身を下げる。



「さ、乗りなさい」


「え?」



 普通乗るというのは、手のひらや、背中ではないのだろうか

 なぜにその立派なソファーをこちらに差し向けるのか



「そなたの足では時間がかかるわ」


「でもそこは乗る場所ではないというか」


「あらあら、今朝は気持ちよさそうに眠っていたのにね?」



 俺は、今朝の感覚を思い出し、急に恥ずかしくなる



「そ、それは!」


「わらわはがそなたを守りたい。それにそなたの鼓動を肌で感じるのは私も幸せなのだし、遠慮は無用よ」



 アピサルの尻尾が、ピー助を抱えた俺を優しく巻き上げ、胸に乗せる。



「うわっ!」



 柔らかい。

 そして、温かい。

 アピサルの手が、俺を包み込む。

 まるで、大切な宝物を抱きしめるように――

 いや、もっと強く。二度と手放さない、とでも言うように。



(...やっぱりマリエル達の登場で不安にさせちゃったかな)


「アピサル」


「なにかしら?」


「出会ってからずっと、俺の事を気にかけてくれてありがとう、メンバーが増えても、君は俺にとってかけがえのない存在だよ」



 想いは伝えてこそ意味がある。少し気恥ずかしいが、改めて真っすぐに言葉に出して伝える



「...そなたはわらわのご主人様。尽くすのは当然の事だわ」



 そして帰ってくる嘘偽りない感情がすごくうれしくて、俺は心も体もアピサルの胸にゆだねた



「では、行くわよ」



 アピサルの体がふわりと浮く。



「すごい...飛んでる...」



 夜空を、滑るように飛ぶアピサル。

 横では、マリエルも翼を広げて飛んでいる。

 しかしアピサルの速度についていくのは小柄なマリエルではきつくはないのか不安になる



「マリエル、大丈夫か?」


「はい、主様!私は戦天使ですので、飛ぶのは得意なんです」



 そう言って、マリエルが起用に空中で胸を張りながら微笑む。

 それなら一安心と、俺は移動中でも絆ptを稼ぐべくそのままマリエルに話しかける。



「そういえばマリエル、君も記憶がないのか?」



 マリエルが、少し困ったような表情を浮かべる。



「はい...断片的には覚えているのですが、大切なところが抜け落ちているようで」


「どんなことを覚えているの?」


「私が戦天使で、神に仕える存在...という事くらいでしょうか。戦い方等に関しては問題ないのですが、どのような戦いに参加していたのかまでは思い出せません」


「思い出せなくて苦しくはないの?」


「いえ...それは大丈夫なのですが...」



 マリエルが、自分の胸に手を当てる。



「神に不必要と判断され、虚無の世界へ落とされた絶望だけははっきりと覚えています...天使は神に尽くす者。あの絶望は二度と味わいたくはありません」



 マリエルも、アピサル同様、己が否定されることに強い不安を抱えているみたいだ

 出会ってからずっと明るく振舞っている彼女の心にも闇があるとは思わなかった



(気づかせない気遣い、それがマリエルのやさしさか)



 でも召喚し、主になったものとして、そのやさしさに甘えているようではだめだと思った



「俺は、何があってもマリエルの事は見捨てないから、安心してね」


「私が主様にとって不都合なことをしてもですか?」


「もちろんだよ、マリエルみたいに素敵な子がそんなことをするなら、原因は確実に俺のほうに在るだろうからね、俺が反省して改めるよ」


「そんな!?一天使の為に主様があり方を変える必要など!?」


「皆の誇れる主でありたい、それが今の俺の在り方だよ」


「...感謝いたします」



 マリエルは自分の胸に手を当て祈りをささげる

 本来であれば神に感謝すべきところなのだろうが、神に捨てられた今、彼女の祈りは何処へ向かうのだろうか


 それにしてもマリエル程献身的な存在を捨てるなど、神というものは本当に傲慢な存在らしい

 現代知識がある俺にとって神という存在は馴染みにくく、それがこの世界での孤独を招いたことにも繋がり、自分の不敬な心を嘆いたこともあるのだが、マリエルの話を聞いて、神なんか信じなくてよかったと思えてしまう



「それにしても神にとって不都合な事か...」


「詳しくは思い出せませんが...今は主様を神と仰ぎ、主様にお仕えすることが、私の使命です」



 そう言って、マリエルが微笑む。

 他の天使の存在を知ってるわけではないが、マリエルを超す天使なんてこの世に存在するのだろうか?いやしない、俺は心の中でそう断言した



「ピィピィ~」



 風圧でモコモコの毛をたなびかせながら、やれやれだぜ、とでもいいたげに鳴くピー助。

 こいつは俺の心の中を読めてるのだろうか?



「そういえば、ここはどのような世界なのですか?」


「どんな世界......難しいけど、今俺たちがいるのは灰の平原っていうんだ」


「灰の平原随分不穏ですね...?」


「あぁ、この大陸には大きく分けて4つの国があるんだけど、それぞれの国を別々の神様が守護してるんだ。そしてその国の民たちは、己を守護する神こそ世界一と考えてる。」


「それは争いが絶えない価値観ですね」


「あぁ、特に厄介なのがこの灰の平原の中央にある聖地に、自国の神殿を立てる事に成功すれば、その神はこの世界で唯一の神になるって言われてる。」


「つまり4柱の神の代理戦争を永遠に繰り返してる世界という事ですか...なんと野蛮な」



 神が当たり前にいて、誰もが神の為に戦争を行うことを正しい事と感じている

 人を救う神ではなく、人を死へといざなう神

 そんなところが、俺に神に対する疑問を抱かせ、加護を得られない結果を生んだのだろう



「それにしても複数の神に唯一神...何とも不思議なシステムですね」


「勿論、歴史上一度も成功したことがないんだけどね」


「それだけ長く戦争していれば何れかはどこかの国が勝ちそうなものですけど」


「そうなんだけど、神殿建設がうまくいきそうになると、必ずといっていいほど魔王が湧くんだ」


「ピィ!?」



 魔王という単語に激しく反応したのはピー助

 やはりヒヨコとはいえ勇者、魔王の存在には人一倍敏感なのかもしれない



「魔王が湧く?」



 天使のマリエルにとっても魔王が沸くという言葉は聞きなれないことなのか、飛びながらコテンと首をかしげる

 魔王とは魔界に君臨する中で最も強い存在というイメージなのだが、この世界では魔王は定期的に灰の平原の中央部に突如として湧くのだ


 神が求める争いの地で、争いが決着しそうになると盤面をリセットするかのように現れる魔王

 どうしても作為的なものを感じてしまう


 この世界の人たちは、神を邪魔する存在による最後の試練の様なものとしてとらえ、魔王討伐に全精力を傾けるのだが、魔王の強さはその国の総戦力とほぼ等しくなるのか、相打ちに近い状況で決着がつく


 そして国力が低下した国は灰の平原の神殿建設を維持できず、魔物か、他国においやられるのだ



「今は、俺が居たヴェルディア王国が神殿建設に王手かけてるんだ...」



 俺とランザのパーティーが駆け出しのころに起きた、灰の平原の覇権をめぐる大きな戦

 この戦で、俺の両親を含む多くの人達が神の名の元戦い、そして散っていった

 俺はそのことを苦しく思っていたのだが、ランザや他のパーティーメンバーは誉高き聖戦に対し目をキラキラさせつつも、力不足で聖戦に参加できなかったことを悔やんでいた


 そんな彼らだからこそ、今回の魔王討伐隊に選ばれたことを誇りに思っており、その本気度ゆえに、俺をクビにしたのだろう



(ランザにとっては、ずっと待ち望んでいた夢の戦い...だから俺が捨てられたのは仕方のない事、頭ではわかってるんだけどな...)



 アピサル達によって傷は埋められつつあるとはいえ、ずっとともに夢見た友に捨てられた事実はまだ俺の心を蝕んでいる


 そんな俺の心境が、魂のつながりを介して伝わったのか、アピサル身体をくねらせ俺の体を優しく包む



(...ありがとう、アピサル)



 直接言葉にしたかったけど、うまく感情の整理ができず、俺はアピサルの体を感謝の気持ちを込めて撫でる事で返事をした



「争いが絶えない世界なんですね」



 絆lvの差か、俺の心の浮き沈みを感じ取っていない様子のマリエルは、この世界の事実に思いを馳せている

 天使であるマリエルは戦争が終わらないこの世界をどう思うのだろうか

 もし彼女にとってこの世界の常識が苦しいものであった場合、主となった俺がやるべきことはなんなのだろうか

 そんなことを考えていると――



「うふふ、面白そうな世界じゃない?」



 ――頭上から楽しそうな声が聞こえてきた



「いっそのことわらわが魔王も、そなたを見捨てた国も討伐して、そなたの神殿を立ててしまえば、そなたがこの世界の神という事になるのではなくて?」



 そして、かなりぶっ飛んだ発言をしだした



「それは素敵ですね!主様が神になる!なんとも心躍ります!」



 そして正気とは思えない発言に目を輝かせるマリエル。



「やめてよ!そんな大それたこと望んでないし、そんな事しようものなら世界を敵にまわしちゃうよ」


「あら?深淵の全てを支配下に置いたわらわのご主人様ともあろうものが世界征服ごときを恐れるのかしら?」


「それとこれとは話が違うの!」


「ふふ、そう怖い顔をしないで」



 アピサルが、俺の頬に手を添える。



「わらわは、そなたが望むようにするわ。そなたのためなら何でもする、何でもしてあげたい、そんな気持ちなの、だから」



 その笑顔は優しかったが――



「そなたが望むのなら、世界すら滅ぼして見せるわ」



 ――瞳の奥は何処までも深い深淵を宿していた



「アピサル?」


「うふふ、冗談よ、冗談」



 俺が不安に駆られた声は、アピサルの楽しそうな笑い声にかき消されていったのだった。


(...大丈夫だよな)


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【マリエル】【アピサル】との絆が深まりました

 絆pt +6

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「ついたわ」



 やがて、降り立ったのは古びた石造りの建物。

 月明かりに照らされ、神秘的な雰囲気を放っている。



「ありがとう、アピサル」


「どういたしまして」



 そう言って、アピサルが俺とピー助を下ろす。

 そして遺跡の入り口に近づこうとした時――



「グルルル...」



 周囲の茂みから、魔物たちの気配。

 5体、いや、10体以上

 それを認識したマリエルが瞬時に両手から光の剣と盾を生み出す

 ピー助も、俺の腕の中から飛び降り、黄金の武具を凛々しい表情で構える


「アピサル様!?索敵を怠ったのですか!?」


「ピィッ!?」



 灰の平原はこの大陸で一番危険な魔物たちの生息地

 目の前の魔物はその中でも上位の魔物だろう、圧倒的強者のオーラを醸し出している



「――っく、力が万全であればこの程度何も問題が無いというのに...勇者ピー助!必ず主様をお守りするのです!」


「ピィ!」



 マリエルの手から生み出された武具が敵を照らし出す

 しかし、闇夜に紛れた魔物たち全てを捕らえる事は出来ない

 普通なら生存は即座にあきらめるべき状況



「あら?何を言ってるの?ここは安全よ?」



 そんな中でもアピサルはいつも通り優雅だった

 状況にそぐわぬ発言にマリエルが声をあらげる



「何を言ってるのですか!?上位の魔物が複数いては主様が――」




 ――トプンッ――




「――え...?」



 マリエルの発言にアピサルが優しく微笑んだ

 ただそれだけの行為で、死を運んできた魔物たちが、沈んだ

 己の影に引きずり込まれるように、一切の抵抗を許さず

 これが魔物の回避スキルなどではないことは、妖艶な笑みを浮かべたアピサルを見ればわかる

 間違いなくアピサルが何かをし、魔物が瞬殺されたのだ



「ね?安全でしょう?」


「すごい...」


(これが創成級の深淵魔法...でも力がロックされてるって言ってなかったっけ...)



 アピサル曰く、2、3割の力しか出せない状況で、絶体絶命を安全に書き換える

 これがランク創成級

 世界を相手取るという言葉を自然に言える存在

 俺は改めてとんでもない存在を仲間にしたんだなと実感する


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 共闘が確認できませんでした

 絆ptを獲得できませんでした

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 ◇◇◇



 遺跡の中は、意外と広い。

 天井も高く、アピサルも自由に動ける。

 俺は、周りの安全を確認し、手荷物を広げ野営の支度を整える


 前世ではキャンプが好きだった事もあり、野営の支度には人一倍のこだわりを持っていた

 パーティーメンバーも最初はその事を喜んでくれていたのだが、地位が上がると共に、金の力でおいしい保存食も携帯に便利な寝具や魔道具も買えるようになり、俺の価値は相対的に薄れていった



(故郷を出て間もないころ、ランザと二人で焚火を囲みながら夢を語った...あの時間は俺にとってかけがえのないものだった...)



 それは、もう戻れない日への懐古の念

 辛い日々を乗り越えるための大切な思い出



(...いけないな、過去を懐かしむなんて、前世の記憶があろうが今の俺は若いんだ、過去より未来を見るべきだろう、過去を超える思い出を、アピサル達と作っていこう)



 想いをかき消すように荒れた遺跡の環境を整え

 あとは寝るだけ、という状態を作ってから、ガチャ画面を開く。



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 現在の絆pt:73

 現在の絆石:0

 維持コスト:15絆石/日

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「73pt...ガチャを14回、さらにあと少し絆を深めれば15回回せる」



 相変わらず、絆石の期待値は不明だ。

 10回以上回せるのだが、10連でレア度アップ等のシステムはないので、回せる回数に不安を覚えてしまう

 今日中に絆石を確保できなければ、アピサルを悲しませてしまう



「大丈夫よ」



 俺の不安を感じ取ったのか、アピサルが、俺の肩にそっと手を置く。



「ダメならまた絆を深めてポイントを貯めればいいわ」


「ピー!」


「はい、いくらでもお話相手を務めさせていただきます!」



 3人のまっすぐで暖かな視線。



「...ありがとう」



 嘗ての仲間たちが俺に向けることの無くなった親愛のまなざしに、心が温かくなる。



「よし、行くぞ」



 俺は、意を決して絆ガチャをタップする

 すると目の前に前世でよく見たカプセルマシーンが現れる



「おぉ、卵とはシステムが違うのか...」



 前世でもゲームではない実際のガチャガチャが好きだったなと思いだしながらマシンを見る


 マシンの中にあるカプセルは中身が見えるタイプなのだが、その中は靄に包まれており中身を認識する事が出来ない

 横から覗き見る事で次出るものを予想する遊び方は出来ないらしい


 また、コインを入れるような場所はなく、絆ptをどのようにして使用するかもわからない



(結構不親切なんだよな、ガイアっていう地球の神様)



 相変わらず少し不親切なシステムに心の中で文句を言いながら、とりあえずガチャの取っ手に手をかけると、メニュー画面上に表示されていた絆ptが消費される

 あとは回せばいいらしい



「頼む!」



 そして絆石への願いを込めてガチャを回す



 ――ガチャ、ガチャ



 ガチャならではのからくり音が鳴る

 するとガチャマシン本体が光に包まれ、取り出し口にカプセルが一つ出てくる

 緊張し、震える手でカプセルをマシンから取り出し開けると――


 ボンッ

 カプセルから煙が出てきて――


【N:石鹸×5】


 ――煙が収まると俺の手の中には、前世でよく見た石鹸が残っていた

 まさか異世界ガチャに前世の日用品枠があるとは驚きだった


 絆石の獲得は思ったよりも難易度が高いかもしれない



「主様!それは何に使うんですか!?」」



 マリエルのキラキラした視線が痛い

 出てきた石鹸を手に持ち色々な角度から眺めている


「お風呂で身体を洗ったり手を洗ったり...かな?」


「こんな石で汚れが落ちるんですか?」


「ピィ?」


「汚れ落とすときに天使は使わないの?石鹸」


「?汚れは聖力があれば自然と浄化されますので」


「それもそうか...前世じゃお風呂とかで汚れを落とすのに使ってたんだよ。まぁ、灰の平原じゃ使う機会もないとは思うけど」


「ではお風呂を用意出来た際には、私が主様のお身体をお清めさせていただきます!」


(それは、一緒に風呂に入るという事か?意味わかっていってるのか?マリエル?)



 ついよぎる邪な思考、マリエルの翼が小刻みにパタパタと揺れている。やはり分かったうえの――



「!?!?」



 ゾクリと、一瞬背筋に冷ややかなものを感じる、ふと目をやると、こころなしかアピサルの目が険しくなっている気がする

 魂で繋がっているとはいえ、俺の思考までは読めないはずなのに、アピサルが鋭い


 俺は慌てて思考を振り払う

 相変わらずマリエルのキラキラした視線が痛い



(入るとしたらアピサルとか?しかし、アピサルと風呂に入る場合、どれだけ大きなお風呂を用意する必要があるんだ?というか石鹸何個あれば洗えるんだ?)



 出た瞬間は、石鹸5個もいらないと思ったけど、アピサルや、インベントリに控える巨大なSSR卵を想うと、いくらあっても足りない気がしてきた


 ガチャキャラの中でアイテム使用頻度を変えてしまったらアピサルは傷つくかもしれないし、そうなると完全に俺専用にするほうが角が立たないが、皆で築いた絆ptを使ったガチャのアイテムを俺だけが独占するのも心苦しい


 地球の神ガイアは俺を悩ませることに喜びを感じる下種なんだろうか

 思わずそう勘繰らずにはいられない



「だぁもう!考えても無駄だ...次!次こそ絆石を引くぞ!」


「はい!頑張ってください!」



 俺は再び絆ptを消費しガチャを回す


 ボンッ


【N】カップ麺×3個



「お、食料!ってカップ麺!?」



 気が付けば、前世のコンビニでよく買っていた国民的カップ麺が赤青黄の三食がひとつづつ地面に置かれていた

 石鹸といい、カップ麺といい、ガチャで出てくるのは地球産のものがメインらしい

 流石は地球の神ガイアがくれたスキルという事だろうか


 まぁとにかく、人の居ない灰の平原において、地球文明のハイカロリーアイテムは嬉しい


 それに夢にまで見た前世の味が楽しめる

 ガチャが示すレア度はN(ノーマル)だが、現実の価値的にはR(レア)といっても過言ではない



「これは...ちょっとうれしいな」



 先ほどまでは絆石以外が出る事を心苦しく思っていたのに、今はすごくうれしい

 我ながら情けない

 だがこれを食べるにしても、やはりみんなと分け合うにはとんでもない量が必要になる



(絆pt...どんだけ稼げばいいんだ!?)


「これが食べ物なんですか?」


「あぁ、それも魔法のように簡単にできて、めちゃくちゃおいしいんだ」


「ピィィ!!」



 おいしいという言葉にピー助が過剰反応し、カップ麺の容器をコロコロと転がしだす

 どうやらおいしい食べ物に目がないらしい

 どうやれば食べられるのか、必死に観察している



「こらピー助!主様の食料を欲しがるなどはしたない真似はダメですよ」


「ピィ!?」



 早速マリエルに怒られているが、皆との絆で手に入れたアイテムだ、できればみんなで分かち合いたい。その為にも多くガチャを回さなければ



「皆にもしっかり食べさせてあげるよ、Nってことはガチャをやれば又出てくるはずだし」


「主様!?よろしいのですか?」


「あぁ、それにご飯は皆で食べてこそおいしいんだからさ」


「ピィ!ピィ!」



 俺の提案にはしゃぎだすピー助。

 モフモフが喜ぶ姿に早く食べさせてあげたい気持ちになる


 今後もこの手のかさばるアイテムが出てき続けると身動きがとりにくくなるなと思い画面を弄っていたら、石鹸もカップ麺も、卵同様インベントリに出し入れする事が出来た

 そこら辺に落ちている石などは入らなかったのだが、どうやらガチャ産の物であればインベントリを使えるらしい

 インベントリ系統の運搬チートは出来なさそうだが、これから沢山のアイテムを手に入れる事を考えたらこの機能だけでも十分にうれしい


 かさばるアイテムへの不安も消えた俺は、再びガチャに手をかける


 ボンッ

【R】絆石×1、和牛(肩ロース)1kg


 3回目にしてようやく絆石が出てきた

 どうやらR以上のレアリティから絆石がついてくるみたいだ



「おめでとうございます!」


「ピィ!」


 マリエル達は喜んでくれるが、俺としてはあまり喜べない事態だ


「Rで絆石1つってことはNじゃ絆石は出ないのかもしれない。まだ確立はわからないけど一番多いはずのNで出ないなら厳しいかもしれない...」



 残り12回、同じ確率であと4つ手に入れたとしても絶望的に足りない


(最初からアピサルみたいな強キャラを孵化させるのは無しってことなのか?マリエル達を追加で孵化させたのは間違いだったのか...)



 弱気になる心

 取り返しのつかない状況、つい自分の判断を疑ってしまう



「主様!頑張ってください!」



 落ち込む俺に、マリエルが祈りの姿勢をとると、柔らかな光が溢れ、優しく俺を包み込む



「これは?」


「気休めですが、運が向上すればと、ステータスアップの聖光魔法をかけました」



 確かに少し体が軽くなった

 ランザ達の加護による身体能力ブーストに近いのかもしれない



「ピィ!」



 そしてピー助からも光が降り注ぐ



「凄いなピー助もバフを飛ばせるのか」


「ピッピィ!」



 モコモコの胸をはるピー助

 その姿に、どことなく追い詰められていた俺の心は軽くなる



(そうだ、この選択が間違いなわけない、間違いなんかにさせてやるもんか)


「わらわにはそのような魔法はありませんから、精一杯寄り添わせてもらいますわ」



 アピサルが大きな体を寄せてくる

 もう俺の心に不安はなかった



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【アピサル】【マリエル】【ピー助】

 との絆が深まりました

 絆pt +9

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 これで残りが67ptになり引ける回数が残り13回に増えた



(大丈夫、絆ptは稼げる、絆石も手に入る!)


「皆の期待に応えて見せる!行くぜ!!」



 俺は勢いよく連続でガチャマシーンを回していく

 ボンッ!ボンッ!ボンッ!


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【N】ミネラルウォーター2L×3本

【N】ライター×3個

【N】割り箸×100膳

【N】固形燃料×10個

【N】紙コップ×50個

【R】絆石×1、ブランド米10kg

【N】ゴミ袋×50枚

【N】マッチ×10箱

【SR】絆石×3、包丁3本セット

【N】トイレットペーパー×12ロール

【R】絆石×1、国産果物詰め合わせ(メロン・桃)

【SR】絆石×3、携帯自炊セット

【SSR】大絆石×10

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「うおおおお!やったぁ!SSR!!......って大絆石ってなんだ?」



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 大絆石:絆石10個分のリソース

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「ってことは100個!?やった!これで数日はやり過ごせるぞ!」


「ピィィ!」


「やりましたね主様!」



 Rは絆石確定で1つ、SRは確定で3つ、そして運が良ければSSRで100個という情報

 さらには絆石だけではない、灰の平原で手に入れるのが難しい水や追加の食料迄

 まだ確立がわかったわけではないが、約1週間分の絆石と追加物資を得て、俺の心を占めていた不安が解消され、俺は大きく胸をなでおろす



「これでわらわも卵に戻らなくてよさそうね」



 俺に心配かけまいと常に微笑んでいたアピサルだが、やっぱり卵に戻るのは不安だったのだろう

 その発言には心からの安堵が含まれていた


 大きく強いアピサルだか、その心はとても繊細だ

 自分の不安を隠し、俺を一身に気遣う優しい悪魔

 俺は改めて目の前の彼女を守らなければならないと思った



「みんな、ありがとう」


「ピー!」


「主様のお役に立てて、光栄です」


「ふふ、よかったわね」



 猶予を得たとはいえ、これから積極的に絆ptを貯めていかなければ1週間後には皆が卵に戻ってしまう

 安心するにはまだ早い



「明日からもどんどん絆ptを稼がないと」


「大丈夫よ。わらわたちがいるもの」



 アピサルが、俺を抱きしめる。



「そうです。私たちが、主様を支えます」



 マリエルも、俺の手を握る。



「ピーピー!」



 ピー助が、俺の肩で元気に鳴く。



「...ありがとう、みんな」



 ◇◇◇



「さて、今日はもう休もう」


 俺は、地面に座る。

 疲れが、どっと出る。



「主様、こちらへ」



 マリエルが、自分の膝を叩く。



「膝枕...?」


「はい。お疲れでしょう?」


「いや、でも...」


「天使は眠りません。主様がお休みの間、お傍で警護するのも私の役目ですから」



 そう言って、マリエルが微笑む。



「...じゃあ、お言葉に甘えて」



 俺は、マリエルの膝に頭を乗せる。

 柔らかい。



「ピー...」



 ピー助が、俺の胸の上で丸くなる。



「ふふ、みんな仲良しね」



 見張りを買って出てくれていたアピサルが、少し距離を置いた場所から見守っている。



「アピサルも、こっち来ないか?」


「あら、わらわも?」


「みんな、仲間だからさ、それとも一緒に居たら見張りできないかな?」


「...ふふ、嬉しいことを言ってくれるわね、大丈夫よ、少し魔力を垂れ流せば、有象無象は近づく事すらできないわ」



 アピサルが、優しく微笑むと、大蛇の下半身を動かし、滑るように音もなく近づいてくる。

 そして、俺たちを優しく包み込むように、自分の蛇体で囲む。



「これで世界で一番の安全を保障するわ」



 温かい。

 安心する。



「...ありがとう、みんな」


「おやすみなさい、主様」


「ピー...」


「おやすみなさい」



 3人の声を聞きながら、俺は目を閉じる。


(明日から、また頑張ろう...)



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【アピサル】【マリエル】【ピー助】と絆が深まりました

絆pt +9

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 ◇◇◇



 ――深夜


 遠くから響く物音で俺は目を覚ます



「主様、起きてしまわれましたか」


 俺の体はマリエルの羽によって優しく包み込まれていた

 マリエルは手をほんのりの光らせながら俺の頭をなでていた

 その手から伝わってくるぬくもりに何とも言えない安らぎを覚える

 俺がよく眠れるようにマリエルが癒しの魔法を使っていてくれたのかもしれない


 現にマリエルが手をどかした途端に、そこはかとない疲れと、何でこんな中で暢気に寝ていられたのかと突っ込みたくなるほどの騒音が聞こえてきた


 俺は申し訳なさそうな顔をするマリエルに何が起きているのかを聞く



「遠くで人間の軍隊と魔物が争いをしているようです」



 マリエルの言葉を受けて俺は遺跡の外に出る

 そこには、体を伏せながら、険しい表情で遠くを見つめるアピサルの姿があった

 アピサルの視線の先を見ると、そこには深夜にもかかわらず煌々と輝く一帯が見えた

 マリエルが俺が状況を把握できるように身体能力向上のバフをかけてくれる



「魔王討伐隊、前進!」

「灰の平原はガルド様のものだ!」



 かなりの距離があったがかろうじて彼らのやりとりを感じる事が出来た

 冒険者の重厚な足音。炎のエレメントに跨り空中機動を行う聖騎士

 魔法の破裂音、金属のぶつかり合う音。

 そして魔物の断末魔


 戦神であり炎をつかさどるガルド=イグノアの加護は遠目で見てもわかりやすい

 あの一団は間違いなくヴェルディア王国の魔王討伐軍だろう



(ランザも...いるのか...?)



 胸が、ざわつく。

 でも――



「主様?」



 マリエルが、心配そうに俺を見る。



「...大丈夫。何でもない。アピサル、彼らはこっちに来るかな?」


「進路は違うようだけど、彼らが休憩するためにあたりを探索したら、どうなるかわからないわね」


「そうか...」


「動きがあれば起こしてあげるし、問題が起きてもわらわが何とかする。だからそなたはもう少し眠りなさい」


「...あぁ、そうさせてもらうよ」



 深夜に起こされたのもあるが、この灰の平原に来るまで限界に近い生き方をしていたせいか、寝てもあまり疲れが取れてない


 今は皆に甘えてもう少し寝かせてもらおう

 俺は、再び横になる。

 ガチャスキルのロックが外れた時、力を手に入れ、ランザ達の元へ戻る未来もよぎった



(だけど、奴等にアピサルを見られたらどう思われるかは考えなくてもわかる。今は...皆と絆を深めて、皆を救うことだけ考えよう)



 遠くで響く、戦いの音。

 それを聞きながら、俺は静かに目を閉じた。


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 第3話 了

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