第二十一章 総力戦
魔王軍との戦いは、大陸南部の平原で始まった。
王国軍の総兵力、三万。対する魔王軍は、推定五万以上。数の上では、圧倒的に不利だった。
だが——
「——全軍、陣形を維持しろ! 崩れるな!」
騎士団長グラハムの声が、戦場に響いた。
最初の衝突から、三時間が経過していた。魔王軍は、圧倒的な数で押し寄せてきた。だが、王国軍は持ちこたえていた。
「報告! 前線の武器消耗、通常の想定範囲内!」
「補給は順調! 物資は十分に届いています!」
「魔道具の故障、ゼロ! 通信機、全て正常稼働!」
報告が、次々と入ってきた。
セイは、後方の司令部で、全体の状況を把握していた。
「——うまくいっている」
傍らのリーナが、緊張した声で言った。
「武器が折れない。補給が途切れない。通信が繋がっている。当たり前のことだが——」
「当たり前のことが、戦場では当たり前じゃなかった」
「そうだ。今までは——」
リーナの声が、震えた。
「武器が折れて、補給が遅れて、連携が取れなくて——だから、負けてきた。だから、仲間が死んできた」
「——」
「でも、今は違う。お前のおかげで——」
「僕だけの力じゃない」
セイは、静かに言った。
「みんなの力だ。標準作業を守ってくれた職人たち。補給を管理してくれたフィオナさんのチーム。魔道具を改良してくれたクロードさん。みんなが、自分の役割を果たしてくれたから——」
「——」
「品質は、一人では作れない。みんなで作るものだ」
戦いは、三日間続いた。
王国軍は、数的不利を覆し、魔王軍を押し返していった。
「——信じられん」
グラハムが、呆然と呟いた。
「三日間の激戦で、武器の破損がほとんどない。通常なら、二割三割は使い物にならなくなるはずだ」
「品質保証の成果です」
セイが、答えた。
「全ての武器が、厳しい基準をクリアしています。戦場の過酷な条件でも、壊れないように設計されています」
「——大したものだ」
「それだけではありません。補給も順調です。前線の要求に応じて、必要な物資が、必要なタイミングで届いています」
「確かに——以前なら、三日目には物資が枯渇していたはずだ」
「後工程引き取り方式です。現場が主導権を持ち、後方がそれに応じる。無駄のない、効率的な補給」
グラハムは、セイを見つめた。
「お前は——本当に、この国を変えたな」
戦いの転機は、四日目に訪れた。
「——敵の補給線を、発見しました!」
偵察隊からの報告だった。
「魔王軍の補給拠点が、南方の森にあります。そこを叩けば——」
「敵は、立ち往生する」
グラハムが、決断した。
「精鋭部隊を、補給拠点に向かわせる。リーナ、お前が指揮を取れ」
「了解」
リーナは、百名の精鋭を率いて、敵の補給拠点に向かった。
そして——
「——補給拠点、制圧成功!」
勝利の報告が、戦場に響いた。
補給を断たれた魔王軍は、急速に崩壊していった。
武器が足りない。食料が足りない。統制が取れない——。
「——撤退だ! 撤退!」
魔王軍の指揮官たちが、叫んだ。
だが、もう遅かった。王国軍は、勢いに乗って追撃を開始。魔王軍は、壊滅的な打撃を受けた。
五日目の朝。
戦いは、終わった。
「——勝利だ」
グラハムが、疲れ切った声で宣言した。
「我々は——勝った」
戦場には、静寂が訪れていた。
セイは、その光景を見つめながら、深く息をついた。
「——終わったか」
「ああ」
リーナが、隣に立っていた。
「終わった。でも——」
「でも?」
「これで、本当に終わりなのか。魔王軍は、また来るかもしれない」
「——かもしれない」
セイは、南の空を見つめた。
「でも、僕たちは準備ができる。品質管理を続けて、武器を改良して、兵站を強化して——」
「次に備える」
「そう。『改善』に終わりはない。常に、もっと良くできる」
リーナは、かすかに笑った。
「——お前らしい言葉だな」
「そうかな」
「ああ。戦いが終わっても、休む気がないんだろう」
「休むよ。少しは」
「嘘つけ」
二人は、笑い合った。
戦場に、勝利の歓声が響いた。
だが、セイの心には、静かな決意が宿っていた。
これで終わりではない。これからも、改善は続く。品質を守り、命を守り、未来を守るために——。
品質保証部員の魂は、異世界でも、燃え続けていた。
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