第十四章 納入、そして証明

納入当日。


百本の短刀が、騎士団本部に届けられた。


「——これが、お前たちの製品か」


騎士団長グラハムは、整然と並べられた短刀を見下ろしていた。


「はい。一か月で百本。全て、同じ規格で製造しました」


「ふむ——見た目は良い。だが、見た目だけでは分からん」


グラハムは、一本の短刀を手に取った。


「テストを行う。異論はないな」


「ありません」


「よし。では、始めよう」


テストは、過酷を極めた。


まず、耐久テスト。同じ短刀で、藁の束を千回斬る。刃こぼれ、曲がり、折れがないか確認する。


「——問題なし」


検査官が報告した。


「刃こぼれなし。曲がりなし。折れなし。全ての短刀が、基準を満たしている」


次に、強度テスト。短刀を固定し、側面から荷重をかける。どれだけの力で曲がるか、折れるかを測定する。


「——基準の三倍の荷重でも、折れません」


検査官の声に、驚きが混じった。


「通常の武器なら、基準の1.5倍程度で破損します。この強度は、異常です」


「異常——?」


グラハムが、眉をひそめた。


「良い意味で、です。これほど強度の高い武器は、見たことがありません」


最後に、寸法検査。百本全ての短刀の寸法を測定し、規格値との差を確認する。


「——全て、規格内です」


検査官が、データシートを差し出した。


「刃の長さ、200ミリ±2ミリの規格に対し、実測値は199.5ミリ〜200.5ミリ。ばらつきが極めて小さい」


「重さは?」


「350グラム±5グラムの規格に対し、実測値は348グラム〜352グラム。こちらも規格内」


グラハムは、データシートを見つめながら、長い沈黙を保った。


「——セイ」


「はい」


「お前は、本当に十五歳か」


「何度も聞かれますが——はい、十五歳です」


「十五歳が——これだけのことをやったのか」


グラハムは、短刀を手に取り、光に透かした。


「見事だ。これは——革命だ」


「ありがとうございます」


「だが——」


グラハムの声が、厳しくなった。


「お前の敵は、これで引き下がらないぞ。ヴァルザーク公爵は、お前の成功を許さない」


「分かっています」


「覚悟はあるか」


「あります」


セイの目は、真っ直ぐだった。


「品質で勝負すると、決めました。正々堂々と——それ以外の方法では、意味がありません」


「——良い目だ」


グラハムは、かすかに笑った。


「お前を、騎士団の新規サプライヤーとして認定する。今後、ハンマーフェル工房連合は、王国騎士団への武器納入資格を持つ」


その言葉に、セイは深く頭を下げた。


「ありがとうございます。この信頼に、応えてみせます」


その夜、ガルドの工房では、ささやかな祝宴が開かれた。


協力工房の親方たち、リーナ、クロード——一か月の戦いを共にした仲間たちが集まった。


「——やったな」


グスタフが、杯を掲げた。


「騎士団への納入資格。これは、俺たち全員の勝利だ」


「まだ、始まったばかりです」


セイは、静かに答えた。


「納入資格を取っただけ。これから、継続的に品質を維持しなければ——」


「分かってる。だが、今日くらいは、素直に喜べ」


ガルドが、息子の肩を叩いた。


「お前は、ずっと前を向いてばかりだ。たまには、後ろを振り返れ。どれだけのことを成し遂げたか」


「——」


「三年前、お前が『品質管理』の話を始めたとき、俺は半信半疑だった。それが今、騎士団を動かすまでになった。それは、誇っていいことだ」


セイは、父の言葉を噛み締めた。


確かに、ここまで来るのに三年かかった。標準作業、測定技術、工程能力管理——一つ一つは小さな進歩だったが、積み重なって、大きな成果になった。


「——ありがとう」


セイは、杯を掲げた。


「皆さんのおかげです。これからも、よろしくお願いします」


「おう!」


「乾杯!」


歓声が、工房に響き渡った。


しかし、その喜びも束の間だった。


祝宴の翌日、不穏な知らせが届いた。


「——審査会だと?」


セイは、リーナからの報告を聞きながら、眉をひそめた。


「ああ。ヴァルザーク公爵が、王に直訴したらしい。『正式な審査なしに、騎士団への納入を認めるのは不当だ』と」


「正式な審査——」


「騎士団長の判断だけでなく、王の前での公開審査を求めている。お前の製品と、既存サプライヤーの製品を比較し、どちらが優れているかを決める、と」


「——なるほど」


セイは、考え込んだ。


これは、罠だ。公開の場で審査を行えば、ヴァルザーク派は様々な妨害ができる。審査基準を恣意的に設定したり、検査員を買収したり——方法はいくらでもある。


だが、逃げるわけにはいかない。


「受けて立ちます」


「本気か?」


「本気です。正々堂々と、勝負します」


セイの目には、揺るぎない決意が宿っていた。


「公爵が何を企んでいるか知りませんが——品質で勝負するなら、負けません」


「——分かった」


リーナは、頷いた。


「私も、できる限りの支援をする。王女殿下にも、状況を報告しておこう」


「ありがとうございます」


「礼は要らん。これは、私自身の戦いでもある」


リーナの目が、鋭く光った。


「マルクの仇を——取るために」


審査会は、一週間後に設定された。


場所は、王宮の大広間。国王、貴族、騎士団幹部——王国の要人たちが一堂に会する、最高の舞台だった。


「——いよいよだな」


審査会の前夜、ガルドがセイに言った。


「ああ」


「緊張してるか?」


「少しだけ」


セイは、窓の外を見つめた。


「でも、不安はない。やるべきことは、全てやった。結果は——天に任せる」


「——良い心構えだ」


ガルドは、息子の背中を見つめた。


「明日、何が起きても——俺は、お前を誇りに思う」


「父さん——」


「眠れ。明日は、長い一日になる」


審査会の朝が、明けた。

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