第十二章 協力工房連合の結成

審査会場を出たその日のうちに、セイは協力工房の代表者たちを招集した。


集まったのは、五軒の工房の親方たち。過去三年間、セイの「品質会議」に参加し、標準作業や工程管理を導入してきた仲間たちだった。


「——状況は聞いた」


最年長の親方——ベルナール・アイアンワークスのグスタフ——が、渋い顔で言った。


「一か月で百本。しかも、不良ゼロ。無茶な条件だな」


「無茶ですが——」


セイは、テーブルに地図を広げた。


「やり方次第で、可能だと思っています」


「やり方——」


「今日、皆さんに提案したいのは、『工房連合』の結成です」


「工房連合?」


「はい。各工房が得意な工程を分担し、全体で一つのサプライチェーンを形成する。そうすれば、一軒の工房では不可能な生産量を、短期間で実現できます」


セイは、地図上に工房の位置を示しながら、説明を続けた。


「まず、鋼材の調達。これは、グスタフさんの工房にお願いしたい。グスタフさんのところは、鉄鉱石の品質管理に優れていますから」


「ふむ——確かに、うちの強みではあるが」


「次に、鍛造。これは、父——ガルドの工房が担当します。刃の形状を整える工程は、うちが最も安定しています」


「それから——」


セイは、順番に工程を割り振っていった。


研磨はA工房、柄の製作はB工房、鞘の製作はC工房、最終検査と組み立てはガルドの工房——。


「各工房は、自分の得意な工程に集中する。そうすれば、効率が上がるし、品質も安定する」


「理屈は分かる」


グスタフが、腕を組んだ。


「だが、工房間の受け渡しはどうする? ここからそこへ運んで、また戻して——時間がかかりすぎないか?」


「そこは、計画で対処します」


セイは、別の紙を取り出した。そこには、詳細なスケジュールが書かれていた。


「全体の工程を逆算して、各工房の作業タイミングを決めます。グスタフさんの工房が鋼材を出すのは何日、父の工房が鍛造を終えるのは何日——全てを連動させて、待ち時間を最小化する」


「——」


親方たちは、セイの説明を聞きながら、顔を見合わせた。


「こんな計画——今まで、見たことがないな」


「だが——理にかなっている」


「うまくいけば、確かに——」


議論は、深夜まで続いた。


最終的に、五軒の工房全てが、「協力工房連合」への参加を表明した。


「——本当にいいのですか」


セイは、親方たちに確認した。


「これは、騎士団への挑戦です。失敗すれば、皆さんの評判にも傷がつく」


「分かっている」


グスタフが、静かに言った。


「だが、お前の話を三年間聞いてきて——俺たちは、変わった。品質を数字で管理し、ばらつきを減らし、お客さんに『良い製品を約束する』という考え方——それは、俺たちが長年求めていたものだった」


「グスタフさん——」


「俺たちは、単なる『下請け』じゃない。『ものづくり』のプロフェッショナルだ。その誇りを取り戻させてくれたのは、お前だ」


他の親方たちも、頷いた。


「この挑戦に乗る。失敗しても、後悔はしない」


「——ありがとうございます」


セイは、深く頭を下げた。


「絶対に、成功させます」


翌日から、「協力工房連合」は全力稼働を開始した。


セイは、「プロジェクトマネージャー」として、全体の進捗を管理した。毎朝、各工房から報告を受け、問題があれば即座に対応する。


「——鋼材の一部に、不純物が見つかりました」


プロジェクト開始三日目、グスタフの工房から連絡が入った。


「量は?」


「全体の約5パーセント。使えないわけではありませんが、品質のばらつきが大きくなる可能性があります」


「その分は、除外してください。代わりの鋼材は——」


「すでに手配しました。明日には届きます」


「ありがとうございます。さすがです」


問題は、次から次へと発生した。


鍛造中に予想外の歪みが出た。研磨の際に微細な傷がついた。柄の木材が乾燥不足だった——。


一つ一つの問題を、セイは冷静に分析し、対策を講じていった。


「なぜ、この歪みが出たか——」


「鋼材の冷却速度にばらつきがあった可能性があります」


「じゃあ、冷却の条件を統一しよう。水温は何度に設定する?」


「クロードさんの温度計で、二十度±二度に管理します」


「よし。それを標準作業に追加して、全員に周知」


測定技術と標準作業が、ここで真価を発揮した。


問題の原因を数値で特定し、対策を標準化して全員に共有する。そのサイクルを回すことで、同じ問題の再発を防ぐ。


プロジェクト開始二週間目。


生産は順調に進んでいたが、予想外の事態が発生した。


「——妨害だ」


リーナが、険しい顔でセイに告げた。


「妨害?」


「鋼材の供給元——お前たちが契約している業者——に、『圧力』がかかっている」


「圧力——」


「『ハンマーフェル工房との取引をやめろ。さもなければ、今後一切の商取引から排除する』という脅しだ」


セイの顔が、こわばった。


「誰が——」


「言うまでもないだろう。ヴァルザーク公爵系の工房だ。いや、おそらく公爵家そのものが動いている」


「——」


「お前の供給元の業者は、怯えている。取引を続けるかどうか、迷っているそうだ」


これは、予想していなかった事態だった。


品質で勝負するつもりだったが、敵は土俵に上がる前に、セイを潰そうとしている。サプライチェーンを断つことで、物理的に生産を不可能にしようとしているのだ。


「——対策は」


セイは、考えを巡らせた。


「供給元が一社だけなのが、問題だ。複数のルートを確保しなければ——」


「今から? 残り二週間で?」


「時間がない。でも——」


セイの脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。


「ドワーフだ」


「ドワーフ?」


「北の山岳地帯のドワーフ族。彼らは、高品質の鋼材を持っている。もし、彼らと取引できれば——」


「だが、ドワーフとの交易は規制されている。王室の許可がなければ——」


「アリシア王女」


セイは、決断した。


「王女様に、会いに行きます」

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