第2話
気付いたら俺は、石造りの暗い部屋に全裸で監禁されていた。
やはり睡眠薬が盛られていたのか、ちょっと頭も痛い。火球を放つ女騎士が公然と存在する異世界のようだから、ラリホーとかラリパッパとかいう呪文もありそうな気もするが……イリーナは催眠系の魔法は使えないのかもしれない。
それからめそめそとすすり泣く声も聞こえてきた。
ごく一般的な成人向け作品に通じた読者諸氏であれば、哀れにも奴隷として売り飛ばされてしまった少女などが、己が運命を儚んで涙している様を想像するだろう。しかしここではACジャパンのテレビCMを思い出し、無意識の偏見を改めねばならない。実のところ、聴こえてくる声は低かった。つまり情けなく泣いているのは、自分と同じ男なのだ。
「終わりだ、あのケダモノの慰みものにされるんだ……」
「大丈夫、大丈夫だから」
雰囲気からして兄弟だろうか。同じように真っ裸の若い男が2人、部屋の片隅で肩を寄せ合い震えている。
ぶっちゃけキモい。何なんだこの最悪な光景は。これが見目麗しい姉妹だったら、凌辱系のアダルト作品っぽさがある。あるいはNHK教育テレビが誇る性癖破壊アニメ『ジーンダイバー』の、DVD第6巻のジャケットを思い浮かべてもいいかもしれない。しかし男同士のそれなんて、これっぽっちも見たくないっての。
それともこれからガチムチの六尺兄貴が出てきて、俺達全員の菊門が穿たれるとでもいうのだろうか。
いや、それだけは絶対に勘弁願いたい。俺も某有名ホモビくらいは見るし、何なら下北沢某所まで足を運んでみようかと思ったこともあるが、別にローマ字を並べたような特殊性癖のどれかではないからだ。ただ自分を監禁したのはどう考えてもイリーナであったし、ケダモノというのも彼女を指しているようである。慰みもの? あんな美人なら幾らでも、それこそ肢体の隅々まで、徹底的に慰めまくってやりたいだろう、常識的に考えて。
「これもうわかんねえな」
困惑に満ちた声を漏らしつつ、俺は少しばかり思案する。
状況から察するに、ここは世に言う貞操逆転系世界なのではないか? 要するに男子高校生並の性欲を持て余す女子高生とかが出てくる、ご都合主義全開のワールドだ。自分の知人にそういうアホエロコメディ小説(何故かミリタリー要素多め)を書いているのがいたし、実は頼まれて校正をやったこともある。
そうして卑猥なる期待に胸と股間を膨らませながら、めそめそ兄弟の話に耳を傾ける。
どうやら女騎士然とした外面、謹厳実直な軍人としての体面とは裏腹に、イリーナは有力貴族の嫡子という地位を濫用し、好みの男を屋敷に連れ去りまくっているのだとか。なるほど流石はニンフォビッチ。ヤる気ももりもり湧いてくる。そちらが強姦もとい強𪟧してくる心算なら、徹底的に返り討ちにしてわからせてやる。地球人舐めんなファンタジー! そう意を固めた辺りで、固く閉ざされた扉がぎりぎりと音を立て始めた。
「こんばんは肉張形の皆さん、元気にしてたかしら?」
下卑た感じの姦しい声とともに、イリーナが部屋へと姿を現した。
相変わらず露出狂すれすれの装束を纏っていて、艶めかしくしなやかな肢体に思わず視線が釘付けになった。いきなり薬盛って監禁してくる最悪な人格はともかく、見た目はやっぱ生唾ものだ。無論のこと彼女も、こちらを値踏みするような、酷くねっとりした視線を送ってきた。
ところで張形というのは、古来より伝わる性的玩具の一種であり、女性が自ら楽しむため用いられる。
とすれば肉張形という言葉の意味も自ずと分かってこよう。肉便器などという言い回しがエロ漫画界などには存在するが、その対義語に違いない。よしよし、それなら俺なしで生きていけない体にしてやる。そんな風に確固たる意志を滾らせ、睾丸を大きくしていると、めそめそ兄弟が声を上げて嘆き始めた。
「何、もう、相変わらずピーピーうるさいですわね」
それについては同感だ。耳が腐る。
「助けなんか永遠に来ないのだから、いい加減諦めたらどうなのかしら。むしろこの尊き生まれの私が、両親に貞操帯ひとつ買ってもらえなかった根無し草のあなた達を、専用の肉張形として選んであげたのよ? ニンフォビッチ家次期当主の肉欲に奉仕できるのだから、それを身に余る光栄と思ったらどう? 精液と生命が尽き果てるまで、存分に可愛がってあげますわよ」
「お願いだ、彼等を解放してやってくれ」
俺はイリーナの許へと詰め寄り、めそめそ兄弟を庇う振りをする。
ところで両親に貞操帯を買ってもらう? 何だその意味不明過ぎる文化は? ああでも貞操逆転世界だってのなら、一応の説明はつくのかもしれない。多分男の性欲を矯正するためでなくて、眼前の発狂マニアックみたいなのに襲われないよう装着するのだろう。すると俺が監禁されたのも、貞操帯をしていなかったからなのか? 我ながら想像力豊かだと呆れてくるが……とにかくバカバカしい抗議を継続する。
「あんなに嫌がっているじゃないか」
「あらあら。刹那の間に、そこの兄弟に絆されでもしたのかしら?」
どちらかというと、めそめそ兄弟にお前様を取られたくないからですね、はい。
「見ず知らずの哀れな男達の貞操を守るため、あなたが身代わりになるとでも? どちらかというと我が身可愛さから、お互いがお互いを売り渡そうとする様を眺める方が好みだけど……私、そういうのも嫌いじゃなくってよ。勇気を振り絞って自己犠牲を買って出たあなたの健気な顔が、何度も精を搾られるうちに絶望へと変わり、もうやめてくださいと三跪九叩で懇願する……それを蹂躙する様を想像するだけでゾクゾクきちゃうわね」
「お前なんかに負けない」
「ぷぷっ、なぁにそれ。いいわよ、あなたの精液を一滴残らず搾り取ってあげるわ」
「やってみろ」
強がっている風を装いながら、俺は啖呵を切った。
本当にただの役得なんだが。既に下心は完全に熱暴走中で、早くまぐわいたくて仕方がない。程よく豊かな乳房を揉みしだき、上の口から下の口、足の指先に至るまで柔肌を舐め回し、淫靡に塗れた恥部を我が槍にて貫いてヒーヒー言わせてやる。息子は撃ち方はじめの号令を待ち侘びながら天を衝き、それを目撃したイリーナの相に、好色以上の驚異が浮かんだ。
そして存分に発散されし雌の香を堪能しながら、少しばかり首を傾げる。
この性格破綻美女を抱いたって死ぬ訳でもなかろうに、望まぬ子を孕まされる訳でもなかろうに、どうしてあのめそめそ兄弟は、この世の終わりとばかりの態度を取っていたのやら。ここが貞操逆転系世界だとすると、文化的にどうこうってのがあるのかもしれないが……流石に怖がり過ぎだろ。放精したら数日で死ぬシャケかっての。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます