04.白くて柔らかくて温かい拾い物
「あれはなんだ?」
仮眠を終えて身を起こしたのは、まだ日の高い時間だった。か細い鳴き声に惹かれ、茂みの陰を探る。と……小さな獣がいた。獣というより、毛物か? ふわっふわの毛皮を纏う白い生き物は、ぶるぶると震えながら鳴く。
キュー! その鳴き声は細く、今にも消えそうだった。手を伸ばそうとして、別の気配に気づく。顔を上げた先に、色違いの獣が三頭いた。灰色の獣達は、犬に近い。牙を剥いて唸る姿に、短剣を引き寄せた。襲い掛かるようなら、反撃しなくてはならない。
できれば無用な殺生はしたくない。睨む私の意図を察したのか、じりじりと灰色の獣が下がった。二頭は下がるが、一頭は白い獣を威嚇し続ける。外見から同種のようだが、白い獣は群れから疎まれているのだろう。丸くなって震えるだけで、反撃はしなかった。
「要らないなら私がもらう。だから引け」
口を開いた私に驚いたのか、灰色の獣は動きを止めた。じっと私を見つめたあと、踵を返す。三頭一緒に逃げたので見送り、白い獣に手を伸ばした。犬に近いが……違う動物のようだ。額の中央に角が生えていた。
灰色の獣は真っすぐな一本だったが、この白い個体だけ捻じれている。これは生まれながらの変種か? 伸ばした手に唸るが噛みつかない。なかなかに賢い子のようだ。
「おいで」
領地へ戻ったら、屋敷で飼おう。軍の施設では犬を飼っているが、正直、羨ましかったのだ。もふもふとした毛皮はもちろんだが、頭をすり寄せて甘える姿に憧れた。私が近づくと威嚇するのも可愛くて、自分だけに懐く相棒が欲しかったのだ。
願いが叶う可能性が目の前にあれば、時間をかけても懐柔する! 姿勢を低くして、四つん這いの獣の姿勢を取った。視線の高さを合わせて距離を詰める。
ぐるる……う、ぅ? 唸る声が変わり、くんくんと鼻先が匂いを嗅ぐ仕草を見せた。ぺたんと腹ばいになり、灰色の瞳が大きくなる。これは心を開いたのだろうか。嬉しくて背中に手を置き、顔のほうへ指先を近づけたら……噛まれた。
「うわっ……」
「どうしたの? 姉上」
ひょいっと後ろから覗いたシルベストレが、嫌そうに鼻に皺を寄せる。
「変な格好して……噛まれたとか?」
口にしないが「どんくさい」と言わんばかりだ。私だって戦闘モードなら避けられたぞ? だけど今は違う。前に物語で読んだんだ。野生の獣は不安で噛むから、その時に「大丈夫、私はお前を傷つけない」と話しかける。あれに憧れていたんだが……。
噛まれると「きゃぁ」なんて可愛い声は出ないんだな。普段から練習が必要だったようだ。噛んだ白い獣のほうが驚いた様子で固まっていた。
「父上、母上! この子を飼いたいのだが」
指を噛んだまま固まる子を抱き上げ、身を起こした。牙が刺さった手ごと翳して、両親に声を掛ける。出発の準備をしていた父母は顔を見合わせた。
「構わんが、治療はしておけ」
「あらぁ……可愛い見た目で勇ましいこと。いいんじゃなくて?」
あっさり許可が出たため、私は白い獣を顔の前に持ち上げた。
「よかったな、今日から私の子だ」
うちの子ではない。私が飼う私の相棒だ。その意味で口にした言葉だが、周囲の騎士がぎょっとした顔で振り返った。欲しいのか? やらんぞ!
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