05.名前はルカにしよう!

「ルカにしよう!」


 名前はあっさり決まった。裏返して確認したところ、オスだ。馬車の一行は後追いのため、先行する私達には馬しか移動手段がなかった。当然、まだ馬と並走できる大きさではない。うっかり踏まれるのがオチだろう。


 着替えのシャツに入れ、落ちないよう包む。シャツの袖を腹に巻きつけた。これなら結びやすいし、落ちる心配もない。ルカ本人も居心地がよいのか、尻尾を振ってご機嫌だ。シャツのボタンの間から顔を覗かせ、きょろきょろと周囲を見回した。


「行くぞ」


 きゃん!


 甲高い声で返事をするルカの頭を撫でる。白い獣はふかふかして、とても温かかった。それはもう眠くなるほどだ。


 子供だから体温が高いのか、この獣自体が温かいのか。初めて見る獣だったので判断がつかないものの、砦に到着すれば祖父がいる。豊富な知識を持つ祖父なら、この子の種類がわかるかもしれない。走る馬の揺れに誘われるのか、ルカはうとうとと眠って過ごした。


 休憩のために馬から降りれば、周囲をちょこまかと走り回る。出がけに干し肉を与えたら、気に入ったようだ。欲しがって足に絡むように歩いた。


「こらっ、踏まれるぞ」


 注意してもどこ吹く風、きゃんきゃんと存在を主張しながら走る。道中、狩りが行われた。昨夜はずっと馬を走らせ、朝方に休憩を入れる。仮眠は短く、昼前には出発する。代わりに、夕暮れ前に狩りの時間を入れたのだ。


 分家がこぞって森に突入し、出遅れた私はルカを抱いて待っていた。正直、ルカのお陰で眠い。腹部の温もりがあれほど眠りを誘うとは……それもルカ自身は気持ちよさそうに眠っていた。馬の揺れも手伝い、よく落馬しなかったと思う。


「姉上、ルカは肉食獣なのかな?」


「おそらくな。干し肉に執着していた」


 ならば足も太いし、大きくなるかもしれないな。雑談をしながら待つこと半刻、狩りに出た者達が戻ってきた。半数は火熾ひおこしや野営地の確保で残っている。王都からの追っ手の心配はなかった。ウルティア一族に比する速度で追える騎士がいれば、スカウトしたいほどだ。


 そもそも私も弟シルベストレも強いので、護衛自体が不要だった。母上も槍に関してはかなりの腕前なのだ。うっかり襲撃する者がいれば、血の気の多い分家の若者達が迎撃するだろう。盗賊も我々の噂を知っていたら、絶対に近づかない。


 領地まであと半日か。久しぶりに帰る辺境伯領が懐かしく思い浮かぶ。帰ったらベッドでぐっすり眠り、小川で釣りをしようか。いや、裏山で狩りもいい。その前にルカの首輪も手配しよう。祖父上への挨拶も大事だな。


 王都での絢爛豪華な夜会より、領地で好きなことをしたい。綺麗に着飾った従姉妹達を愛でたり、美しい絹のリボンを選んだり。楽しみに口元が緩んだ。


「ベアトリス様、肉の下処理が終わりましたぜ」


「ああ、悪いがひと切れくれるか……生でいい」


 声を掛けた子爵家の当主に頷き、肉を分けてもらった。目の前へ持っていくと、くんくんと匂いを嗅いだルカが盛大に尻尾を振る。狐に似た大きな尻尾が、綿のようだった。ここにリボンを結んでも可愛いな。そんなことを考えていると……。


 きゅー、甘えた声でルカが肉を強請る。焦らしていると思われたらしい。短剣で肉を小さく切るか迷い、そのまま差し出した。がつがつと食らう姿に、問題なさそうだと胸を撫でおろす。口の周りを赤く染めたルカを拭きながら、もふもふの毛皮を堪能した。


 早く帰って、大量にコレクションしたリボンでルカを飾ろう。気合いを入れ、料理に参加した。といっても、削いだ肉を焼くくらいだが……。

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