03.野営もお手の物だ
走り出した本家に続き、分家が後を追う。どの家も使用人は馬車で追いかけるため、貴族家の当主や夫人、子女ばかり。女性であっても乗馬服を完全装備している。ウルティア一族で馬に乗れない者はいないと言われるほど、その技術は高かった。
「行くぞ!」
先頭で声を上げる私に「おう!」と応えがある。気分を良くして、王都の外へ飛び出した。夜会は夕食時から開始され、月が頂点から傾く深夜に終わる。顔を出してすぐに言い渡されたので、王都の外はまだ商人達の馬車が行き来していた。
「先触れの栄誉を」
「任せる!」
追いついて名乗り出たのは、弟のシルベストレだ。黒毛の愛馬で前に出ると、商人の馬車を端に寄せた。大声で「辺境伯家の緊急事態である!」と叫ばれたら、国家の大事と考える。さっと道が空いた。まだ辺境伯家の離反が知らされていないので、非常に協力的だった。
正直、助かる。馬車を避けて走るのは、馬達が無駄に疲れるからな。金髪を
「追っ手はまだないな」
「奴らにそんな迅速な対応が出来るなら……今頃、俺はお役御免だ」
騎士団ではなく国ごと無能と言い切った父が、馬首を並べる。朝日が出るまで走り、明るくなったところで森に入った。街道から少し外れただけだが、木陰は暗く姿を隠してくれる。
「休憩だ」
森の小川で馬を休ませ、携帯食を茹でる。斜め後ろを追いかけた騎士の鎧を解いて、複数の鍋を作った。野営で鍋として使用できるよう、特注で作らせた鎧が役に立つ。もちろん鎧としての装飾や実用性も手を抜かなかった。
「これも入れよう」
野営では御馳走の香辛料の玉を溶かす。私はこの状況を心から楽しんでいた。ようやく自由になったうえ、今後は面倒な王子妃教育も要らない。実力もないのに粋がるイラリオ王子との婚約が消えたことで、自然と笑みが浮かんでしまう。
「姉上、嬉しそうですね」
言葉に「僕も嬉しいです」と滲ませる弟は、まだ小柄で可愛い。と言っても、一族基準だ。四つ下の十三歳のシルベストレは、一般兵士なら十七、八に見える。身長と見合う立派な筋肉が、肩や太ももを飾っていた。
見下ろされるようになったのは、昨年のことだ。イラリオ王子は、背が高くなったシルベストレに「不敬だ」と騒いでいたな。あれは身長を抜かれたことへの不満か。本当に器の小さな男だった。過去にして語りながら、私は美味しそうな匂いに目を細める。
「うまそうだ」
「干し肉も提供します」
シルベストレが、背中に括った小型バッグから干し肉を取り出す。固まりをナイフで削りながら入れ、他の鍋も回り始めた。分家の数人も干した魚やら乾燥野菜を提供し、鍋は驚くほど豪華だ。
「簡易ではあるが、王都脱出とベアトリスの自由を祝って!」
「「「ウルティアに栄光あれ!!」」」
野営用の包みに必ず入れるフォークと椀を打ち鳴らして騒ぐ。逃亡者ではなく、領地へ戻る凱旋の途中という認識が強かった。さっと椀によそい、熱い汁を啜る。麦に似た米が汁を吸って、柔らかく煮えていた。アルダ王国では食べないが、隣国では米は人気の食材だ。
一気に食べる。その間はしんと静まった。聞こえるのは汁を啜る音くらいだ。食べ終わると器の底を丁寧にふき取り、バッグにしまった。
代々受け継がれた知識と技術は、野営時に役立つ。騎士のマントには特殊なボタンが縫い付けられ、三枚繋げれば簡易テントになる。晴れているのでテントは作らず、各自ごろ寝を決め込んだ。
明後日には領地に入る。追っ手次第だが、楽しい旅になりそうだった。
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