第二章:エネルギーの奔流を求めて
ワープゲートのお披露目会から数日後、タケルと権三村長は、緊張した面持ちで県庁所在地にある東北電力ネクストの立派なオフィスビルを訪れていた。
ワープゲートの心臓部とも言える電力供給の問題を解決するため、地域担当役員である遠藤正義氏との面談にこぎつけたのだ。遠藤氏は、年の頃55歳、シャープなスーツに身を包み、いかにも切れ者といった印象の人物だった。
応接室に通された二人は、遠藤氏に対し、ワープゲートの概要と、それが波音村、ひいては地域全体にもたらすであろう多大な利益について熱心に説明した。そして、その稼働に必要な電力の供給を正式に要請した。タケルは、自作の資料を広げ、試算した電力消費量や、将来的な展望について、言葉を尽くして語った。
しかし、遠藤氏の表情は硬かった。彼は腕を組み、タケルの説明を黙って聞いていたが、やがて重々しく口を開いた。
「浜崎さん、村長さん。お話はよく分かりました。そのワープゲートとやらが画期的な発明であることは理解できます。しかし、正直に申し上げて、これほど膨大な電力を、しかもこれほど不安定な需要に対して供給するというのは、前例がありません。送電網への負荷、供給の安定性、コストの問題。クリアすべき課題が山積みです」
その言葉は、タケルと権三村長の期待に冷や水を浴びせるものだった。権三村長が食い下がった。
「遠藤さん、そこを何とかお願いできませんか。これは、我々の村の存亡がかかった話でもあるのです。過疎化に歯止めをかけ、若い世代を呼び戻す起爆剤になり得ると信じております」
「お気持ちは察しますが…」
遠藤氏は言葉を濁した。
「企業として、リスクの大きすぎる投資はできません。現時点では、電力供給のお約束は致しかねます」
タケルは唇を噛んだ。やはり、そう簡単にはいかないのか。しかし、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「遠藤さん、どうかもう一度ご検討いただけないでしょうか。この技術は、必ずや社会の役に立つと信じています。波音村の住民も、皆、このワープゲートに夢を託しているんです!」
タケルの声には、切実な響きが込められていた。遠藤氏は、タケルのその真摯な眼差しに一瞬心を動かされたように見えたが、それでも首を縦には振らなかった。
「…持ち帰って検討はしますが、過度な期待はなさらないでください」
重い足取りで波音村に戻ったタケルは、研究室に閉じこもり、頭を抱えた。最大の壁である電力問題。その解決の糸口すら見えない。海の淹れてくれた温かいお茶も、喉を通らなかった。「やっぱり、無理だったのかな…」弱音がこぼれる。
その夜、タケルは眠れずに、研究室の窓から見える星空を眺めていた。ふと、村の遊休地となっている広大な丘陵地帯が目に留まった。昼間は太陽の光が燦々と降り注ぎ、そして、この地域は地熱資源も豊富であるという話を以前聞いたことがあった。
「…これだ!」タケルは思わず声を上げた。そうだ、電力会社に頼るだけが道ではない。自分たちでエネルギーを生み出せばいいのだ。波音村の豊かな自然エネルギーを利用するのだ。
翌朝、タケルは目を輝かせながら権三村長のもとを訪れ、再生可能エネルギーによる電力供給のアイデアをぶちまけた。村の遊休地に大規模な太陽光発電所を建設し、さらに、温泉熱を利用した小規模な地熱発電所も併設する。そこで得られた電力をワープゲートの動力源とするのだ。初期投資は大きいが、長期的には電力コストを抑えられ、何よりもエネルギーの地産地消が実現できる。
権三村長は、タケルのその大胆な発想に最初は驚いたものの、すぐにその実現可能性と意義を理解した。
「タケルくん、それは素晴らしいアイデアだ!村の資源を最大限に活かす、まさに一石二鳥の計画じゃないか!」
早速、村議会が招集され、タケルは熱弁を振るった。最初は懐疑的だった議員たちも、タケルの詳細な計画と、権三村長の力強い後押し、そして何よりもワープゲートがもたらす未来への期待感から、徐々にその気にさせられていった。最終的に、プロジェクトは村の総意として承認され、資金調達のためのクラウドファンディングの呼びかけや、地元の金融機関との連携、そして建設作業への村人たちのボランティア参加が決定した。
それからの波音村の動きは早かった。老いも若きも、男も女も、誰もが「自分たちの未来は自分たちで切り拓く」という気概に燃え、太陽光パネルの設置作業や、地熱発電施設の基礎工事に汗を流した。その姿は、まるで祭りの準備のような活気に満ちていた。タケルの研究室にも、連日村人たちが入れ替わり立ち替わり訪れ、進捗状況を尋ねたり、差し入れをしたりと、村全体が一つの大きな家族のように機能していた。
そんなある日、東北電力ネクストの遠藤氏が、予告なしに波音村を再訪した。彼は、村人たちが一丸となって再生可能エネルギー施設の建設に取り組む姿を目の当たりにし、言葉を失った。そこには、彼が都市のオフィスでは決して感じることのできない、人間の持つ純粋なエネルギーと、地域を愛する強い想いが溢れていたのだ。
「…驚きました。これほどとは」
遠藤氏は、汗だくで作業するタケルと権三村長に近づき、そう呟いた。
タケルは、泥まみれの手で額の汗を拭いながら答えた。
「遠藤さん。私たちは、本気なんです。この村の未来のために、そして、この技術を世に出すために」
遠藤氏は、しばらくの間、黙って作業の様子を眺めていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「浜崎さん、村長さん。先日は失礼なことを申し上げたかもしれません。正直、最初は絵空事だと思っていました。しかし、皆さんのこの熱意と行動力を見て、考えが変わりました。私たち東北電力ネクストも、このプロジェクトに協力させていただけないでしょうか」
タケルと権三村長は、顔を見合わせた。信じられないという表情だった。
遠藤氏は続けた。
「もちろん、無条件というわけにはいきません。しかし、技術的なアドバイスや、系統連系に関するノウハウの提供など、我々にできる限りの支援をさせていただきたい。そして、将来的には、このワープゲートが新たな電力需要を生み出し、再生可能エネルギーの普及を後押しするという、我々にとっても大きなメリットがあると考えています」
それは、まさにタケルたちが待ち望んでいた言葉だった。権三村長は、遠藤氏の手を力強く握りしめた。
「遠藤さん、ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」
タケルも深々と頭を下げた。これで、最大の難関だった電力問題に、確かな光明が見えてきたのだ。
この瞬間、波音村と東北電力ネクストの間に、新たな協力関係が生まれた。それは、単なる電力供給者と需要者という関係を超えた、地域の未来を共に創造するパートナーシップの始まりだった。村にとってはエネルギーの安定確保と地域活性化、電力会社にとっては新たなビジネスチャンスと社会貢献。まさに、双方にとって利益のある「Win-Win」の関係が築かれようとしていた。
リアスの海岸に吹き抜ける風が、まるで祝福するように、タケルたちの頬を優しく撫でていった。
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