第一章 未来への扉、開かれる
ワープゲート試運転成功の興奮も冷めやらぬ数日後、波音村の小さな集会所は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
タケルが開発した瞬間移送装置「ワープゲート」の村人へのお披露目会が開催されることになったのだ。村長の佐々木権三が村内放送で呼びかけ、親友の中村良太が口コミで広めた結果、老若男女問わず、ほとんどの村人が集まっていた。皆、タケルの「とんでもない発明」を一目見ようと、期待と少しばかりの疑念を胸に集まってきたのだった。
集会所の中央には、先日タケルの研究室で稼働したのと同じ、シンプルな金属製のドアフレームが二つ、向かい合うように設置されていた。一つは演台のすぐ脇に、もう一つは集会所の入り口近くに。タケルは少し緊張した面持ちでマイクの前に立った。隣には、力強い眼差しで彼を見守る権三村長と、ニヤニヤしながらもどこか誇らしげな良太の姿があった。妻の海と娘の未来は、最前列で固唾を飲んでタケルを見つめている。
「えー、本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」
タケルは深呼吸をして話し始めた。
「長年、私が取り組んできた瞬間移送装置、名付けて『ワープゲート』が、ようやく皆さんの前でお見せできる形になりました。これは、遠く離れた場所へ、人や物を一瞬で送り届けることができる装置です」
会場からは、どよめきと半信半疑の囁きが漏れた。
「本当にそんなことができるのか?」
「まるでSF映画だな」
そんな声が聞こえてくる。
タケルは言葉を続けた。
「百聞は一見に如かず、です。これから、このワープゲートを使って、実際に物を移送するデモンストレーションを行います。良太、準備はいいか?」
「おう、任せとけ!」
良太は威勢よく返事をすると、集会所の外、村の小さな広場に設置されたもう一つのワープゲートの前に立った。彼の足元には、今朝水揚げされたばかりの新鮮な魚介類が詰まった発泡スチロールの箱が置かれている。
タケルが集会所内のゲートの制御パネルを操作すると、二つのゲートのフレーム内に、再びあの青白い光の膜が揺らめきながら現れた。村人たちは息をのみ、その幻想的な光景に見入った。
「よし、良太、頼む!」
タケルの合図で、良太は魚介類の箱を軽々と持ち上げ、広場のゲートの光の膜の中へと押し込んだ。箱は膜に吸い込まれるように消える。一瞬の静寂。そして次の瞬間、集会所内の、タケルのすぐ隣にあるゲートから、同じ発泡スチロールの箱が、コトン、と音を立てて滑り出てきたのだ。
「おおおおおっ!」
割れんばかりの歓声と拍手が、集会所を揺るがした。村人たちは目を丸くし、信じられないといった表情で二つのゲートを交互に見比べている。権三村長は興奮で顔を赤らめ、タケルの肩を力強く叩いた。
「タケルくん、こりゃあ本物だ!本当にやり遂げたんだな!」
良太も集会所に入ってきて、タケルと固い握手を交わした。
「どうだ、見たか!これがタケルの発明だ!」
と、まるで自分のことのように胸を張った。
タケルは安堵の表情を浮かべ、村人たちに向かって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。これが、ワープゲートです。これがあれば、波音村から都市部へ、あるいはその逆も、あっという間です。物流も、人の移動も、劇的に変わる可能性があります」
村人たちの興奮は最高潮に達した。口々に
「これで病院への通院も楽になる」
「孫たちが気軽に遊びに来れるようになる」
「村の特産品を新鮮なまま都会に送れるぞ」
と、ワープゲートがもたらすであろう明るい未来への期待を語り始めた。
しかし、その時だった。デモンストレーションの成功に沸く集会所の照明が、ふっと一瞬暗くなり、すぐに元に戻った。同時に、ワープゲートの青白い光の膜も、一瞬揺らいで細くなったように見えた。村人たちは何事かとざわめき、タケルの顔にも緊張が走った。
「…今の、停電か?」
誰かが呟いた。
タケルは慌てて制御パネルを確認した。表示されていた電力消費量の数値が、異常なほど高い値を示している。彼は顔を上げ、少し強張った声で言った。
「皆さん、お気づきかもしれませんが…このワープゲートは、稼働に非常に大きな電力を必要とします。先ほどのデモンストレーションだけでも、村の一般家庭数軒分の電力を一気に消費してしまいました。これが、この装置の最大の課題の一つです」
水を打ったように静まり返る集会所。先ほどまでの興奮は急速に冷め、村人たちの顔には不安の色が浮かんだ。
「そんなに電気を食うのか…」
「村の電気じゃ、とても足りないんじゃないか…」
タケルは唇を噛み締めた。成功の喜びも束の間、厳しい現実が目の前に突きつけられたのだ。
その重苦しい沈黙を破ったのは、権三村長だった。彼はゆっくりと立ち上がり、力強い声で言った。
「確かに、電力の問題は大きい。しかし、タケルくんの発明は、この波音村の、いや、日本の未来を大きく変える可能性を秘めている!この程度の問題で諦めてどうする!村の総力を挙げて、この課題を乗り越えようではないか!」
村長の言葉に、村人たちの目に再び光が灯り始めた。
良太もタケルの隣に立ち、その肩を叩いた。
「そうだぜ、タケル!面白くなってきたじゃねえか!俺たちがついている。何でも手伝うぞ!」
海も未来も、心配そうにしながらも、タケルに力強い眼差しを送っている。
タケルは、村長や親友、そして村人たちの温かい言葉と眼差しに、胸が熱くなるのを感じた。一人ではない。この素晴らしい仲間たちとなら、どんな困難も乗り越えられるはずだ。
「村長…良太…皆さん…ありがとうございます!」
タケルは深く頭を下げた。彼の心には、電力問題という大きな壁に立ち向かう決意と、仲間たちへの感謝の気持ちが満ち溢れていた。
「まずは、電力会社に相談してみましょう。そして、私たち自身でできることも探していきましょう!」
権三村長の提案に、村人たちは力強く頷いた。波音村の未来を賭けた、タケルのワープゲートを巡る挑戦の第一歩が、今、確かに踏み出されたのだった。
村が一丸となって新技術を支えようとするその姿は、やがて訪れるWin-Winの未来への、最初の確かな兆しであった。
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