しぶんぎ座story
沙華やや子
しぶんぎ座story
オレは
早耶は大人しく、黒目がちな瞳が印象的で華奢な、少女のような女性だ。
愛してるけど……オレには婚約者の
名美子はしっかり者で明るい。髪型は、早耶とは対照的なショートヘアー。思いやりに溢れた女性だ。美人の部類ではないが愛嬌がある。
オレは
ずっとサッカーをやってたから、スタイルには自信があるぜ? 顔はたぶんフツー。
オレと早耶、出逢うのが遅すぎたのかな。使い古された言葉。
否、そんなことはないな。
何もおセンチを決め込もうとしている訳でもないさ。切ない三角関係、儚げなプラトニックラブ、そんなの小説かなにかの素材さ。
――――現在2026年1月4日の……なんと午前4時だ。凍てつく外気の中。
オレと早耶の関係? ああ、婚約者である名美子の親友が早耶なのさ。
何度でも言う。お前は馬鹿かと言われても。
オレは早耶を愛してる。
フィアンセの名美子と早耶は高校時代の3年間、ずっとクラスが一緒だったらしい。
オレ達三人は大学の同期生として知り合い意気投合した。よく三人で遊びに行ったよ。遊園地だの映画だの、海水浴もな。
名美子の猛アタックで付き合い出したオレ達は、親に秘密で同棲を始めた。
その頃から三人で遊ぶことが減って行ってさ、オレは早耶への恋心に気づいたんだ。
同棲を始め半年経った頃……名美子は妊娠した。
「おめでとう」と口にしたが、早耶は……淋しそうだった。
オレは父親になる道を選んだ。
――――こんな寒空の
交わす言葉は「この寒さ、異常だねー」「ココアがあって良かった」ぐらい。
早耶と居る時に、黙りこくっていても何かふんわりと居心地が良いんだ。
婚約者の名美子は、年末から九州の実家に帰ってる。
きのうの早耶からの電話。
『しぶんぎ座流星群、流れ星が明日見られるのよ? 知ってた? 基弥』
「そうなの? ぜんぜん知らなかった、変な名前だな」
オレはなぜか、名美子と話す時よりも早耶と話す時のほうが素で居られる。
『ンフフ。なにやら”四分儀”という天体観測のための機器が昔あったらしくって、そこからついた名前なんだとか 』
「へ~」
『基弥、見に行こうよ! 明日の未明から6時ごろ! きっとお星様がいっぱい落ちてくるよ?』
名美子と男女の関係になってからというもの、早耶と二人きりで出掛けたことはない。
早耶に対して気持ちがあるだけに(名美子に悪い……)と思った。なにか言い訳を作って断ろうとした時、『これで最後にするから、デートして……お願い、基弥』と……早耶が言ったんだ。
胸を抉られる想いがした。
早耶に愛されていた。
知らなかった。
――――小高い丘の上、朝の5時15分。オレと早耶。
雪だるまみたいに着込んでも、早耶は消え入りそうに見える。
オレは本当の気持ちを一度だけ伝えたくなった。早耶と同じ気持ちだと……。
「早耶」
「しっ……! みて、基弥。いっぱい降って来た」
「ン……」
見上げると、綺麗だなぁ。流れ星が次から次へと煌めきながら落ちて来る。
「基弥? 夜空は泣くのよ。流れ星は涙」
早耶がそう言った時オレは、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、隣にいる早耶のほうを見た。
うつむきがちな早耶は、毛糸の手袋をはめた両手を合わせ握りしめ、瞳を閉じている。
抱きしめたい気持ちをグッとこらえた。
そうして早耶が目を開けるのを待った。
「何をお願いしたの?」
早耶の唇が震え出した。
「……もう泣かないで、ってお願いしたんだよ。エヘ」
笑っているのに、涙をこぼしている。
オレはたまらず、早耶を夢中で抱きしめた。早耶の体温を感じる。壊れてしまいそうなほど早耶が好きだ!
「ア――――ッ! ア――――ッ!」
正直びっくりした。いつも控えめな早耶が大声を上げ泣いている。オレにしがみ付いて。
そして「ごめんなさい、ごめんなさい」と必死でオレの背中にギュッと手を回してきた。
オレは、ただただ早耶の存在が可愛くて、愛おしくて、早耶を抱いたまま男泣きした。
本当は口づけをしたかった。やるせない。
早耶のほうからそっとオレの体から離れた。もう泣いていない。
今日ここへ来たことに苦い後悔すら覚えた。
しぶんぎ座流星群はオレ達に降り注いだ。
――――切ない三角関係、儚げなプラトニックラブ、そんなの小説かなにかの素材。
『事実は小説より奇なり』なんて言うだろう?
はるかにフィクションを超える疼きだ。
――――2027年1月4日。
オレは妻の名美子と乳飲み子を家に残し、一人、未明にしぶんぎ座流星群を見に去年の丘へとやって来た。
オレと一緒に流れ星に包まれたあと、2026年春……天に昇ってしまった早耶に逢いたくて。
不思議と安らかな気分だ。短い草の上に大の字で寝転がり仰ぐ星空。
オレは……オレは、こんなに……早耶を愛してる。
それはしがみつくこととは違う。
暫くすると流星の祭典が始まった。
オレはキラキラと輝く星に赦しを乞うた。(一度だけ、声に出して言わせてください)と。
「早耶、愛してる」
しぶんぎ座story 沙華やや子 @shaka_yayako
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