第5話 上手くいかない時は上手くいかないのである
「うーん、とりあえずそれは預からせてもらうから。ここ最近は何かと物騒だからね、夜は気をつけて帰るんだよ」
「ッス、分かりました」
ようやく職質から解放された。やっぱボコボコの角材だけ持ってるやつは怪しい、それは間違いない。
今思えばゴブリンもどきをぶちのめす時って一度も血が出たことがないんだよな。
粉砕したら体液が一切飛び散らずに塵になってくれたから服も汚れない。
あいつらって本当になんのために居るんだ?
マジでただの怪異だったとしても普通に悪質でクソ辛い。
大量でもせめてゾンビみたいにゆっくり移動してくれるならまだ助かった命も…………
いや、最近のゾンビは割と走るからダメだな。
「君、ボーッとしてどうしたの?」
「あ、いや、ちょっと考え事を…………」
「ふーん…………」
やっべ、めっちゃ怪しまれてる!もうやっぱり何か隠してるだろって顔を隠してないよお巡りさん!
完全にブラックリスト入りした気がするが、ここ最近が物騒なのは心当たりはある。
やっぱりあの赤い世界のせいだろう。
あの中で人が死んでるのを何度も目撃しているんだ、夢の世界と思いたくとも行方不明となっている、と思う。
だって知ってる人はクソ客ジジイの1人以外は知らない人だし、交流もなければ名前も知らない。
そして探そうと思うほど俺は律儀でもない。
自分の生活を削ってまで正義の活動とか行う事はできない。
普通に飯に困って死ぬか、疲れ果てた時を狙われて死ぬ自信がある。
何処かに正義のヒーローでも居たらもっと手早く解決してくれるのに、そんな夢物語を語る暇もない。
ほんっとうに人生ってのは上手くいかない。
でも死にたくないからひたすらに頑張らないといけない。
明日もバイトなんだから飯食ったら寝よう。
もうそれくらい疲れた、風呂は…………流石にシャワーだけでも浴びないといけないな。
今日のことで大変だとしても明日のことも考えないといけない。
ギリギリ社会人だと思っている俺は、晩飯はもう卵かけご飯だけでいいやと思いながら帰路に着くのであった。
「あーしゅらちゃん♡最近はずっと失敗しちゃってるみたいだねぇ!」
「ケッ、面倒なのが来た」
阿修羅の住む山に1人の訪問者がやってきた。
その体躯は小さく、金髪で麗しい瞳をした子供である。
服装も由緒正しき子供用スーツのようなもので、さらに漆黒のマントまでつけている。
一見厨二病かと思われるが、鬼の中でも相当位の高い阿修羅がめんどくさそうな顔をするほどの立場を持っている。
「阿修羅ちゃんは昔にやりすぎて目をつけられてるから僕たちが協力してるのにぃ、上手くいかないって笑えちゃうよねぇ♡」
「その気色悪い喋り方をやめろ。それにお前らが協力して欲しいと言ってきたから手伝ってやるって話だろうが」
「えー?そうだったかな?パパが話をまとめてたから僕あんまり分かんないや」
「誰かこいつから別の奴に担当を変えさせろ」
「ざんねーん!お兄ちゃんたちは忙しいから来ませーん♡」
どこまでも馬鹿にしたような態度でからかってくる子供に一度ぶん殴ってやろうかと阿修羅は考えた。
しかし、この子供に対して稚拙な憂さ晴らしは無意味であることは分かっている。
何故なら子供のように見えて齢は400を超えている化け物である事を知っているのだから。
なお、歳は阿修羅の方が遥かに上だったりする。
「腕っぷししか能がない阿修羅ちゃんに朗報でーす!今日、僕が代わりに邪魔者を排除してあげます」
「あぁん?お前がか?」
「だってぇ、阿修羅ちゃんまともに山から下りれない癖に出来るってイキってるもん♡外を知らない人にぃ、しごできな姿を見せるのがセンパイの役目でしょ♡」
明らかに舐め腐っているが、特殊能力はそこそこ強く、下手にい刺激して本気を出させると面倒だ。
阿修羅は祓魔師から徹底的にマークされているため下山した時点で邪魔されるのは目に見えている。
小鬼も数は揃えても質が悪いため少々強いだけの相手にはあっさりと敗北する。
祓魔師で例えるなら5つある階級のうち下から二つ目の4級で何とか対処できるくらいである。
日本にて都合のいい駒が出来るかと思ったら、癖が強すぎて扱いきれなかったという例である。
よって、黒幕一派が寄越したのは経験を積ませるための若い者、一族の末っ子(400歳超え)であった。
祓魔師の強さはピンからキリまで、日本はその傾向が強く、しかも強い者ほど都市ばかりに集められるという中央集権っぷりを見せている。
一般市民はそのことを知らない。派遣されているのも基本は木っ端か、陰に隠れた実力者しかいないのだ。
「ねえねえ阿修羅ちゃん、ちょっと君の駒を貸してくれない?一応ね、社交的なことで言っておかないと後が面倒でしょ?ほら、貸してよ」
笑顔で幼児のような笑いながら、その目は嘲笑を湛えており舐め腐った眼で小鬼たちを見る。
明らかに舐められている、それは明らかであり意図して行っているのは誰が見ても分かるものであった。
「そうか、そこらの雑魚は適当にかっさらっていけば?」
「…………へえ、適当にあしらってくれるんだ?この僕を?」
「餓鬼に興味はねえし、下らねえ若作りのジジイがはしゃいでるのは、こっちが情けなくて見たくもないんだわ」
不貞腐れているように、しかし的確に無視するような形で横になり、素晴らしき背筋を見せながら阿修羅は吐き捨てた。
しかも鼻までほじってるではないか。美しさに反して品がない。
舐められている、それが分かった子供はだんだんと地団駄を踏みながら顔を真っ赤にさせた。
「いいもん!僕が成功したらお前の事は兄様たちに報告してやるんだから!」
「そうかそうか、で?」
「こいつぅ、生意気ぃ!」
経験が少ないせいか、自分が上でないことが気に食わないらしく見た目通りの行動ばかりしている。
「ふんだ!この僕、誇り高きヴァンパイアであるナディ・ティルト・ラフグリーンがチャチャっと仕事を終わらせてやるんだから!」
子供の正体、吸血鬼と呼ばれる西洋から来たヴァンパイアが高らかに宣言した。
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