第4話 回ると解決するのは通説である
「ありがとうございましたー」
今日は午後にコンビニバイトだ。
レジ打ちだけじゃないぞ、商品の補充に減ってる商品の発注、ホットスナックの調理、店内の掃除…………他にもやる事はたくさんある。
普通の業務だけならともかく、場合によっては客の対応をしなくてはならない。
普通のレジ打ちや商品案内のような優しい対応じゃないぞ、クレームをよくつけてくる客の対応だ。
「…………新田さん、今日はあのジジイ来ないですね」
「ああ、あの爺さんか」
隣のレジにいるのは俺より少し後に入ってきたバイトの
初見では全く読めない苗字の通り兎のような可愛らしい顔だが、男である。
これを指摘すると口がもの凄く悪くなる。店長がからかった際に死ぬほど口撃されて半泣きになっていたので誰も指摘する事がなくなった。
ちょっとアルビノという色素異常の病気があるらしく、特殊な色をした眼鏡をして視力を補強しているので変な眼鏡をつけてるとクレームがつく事がある。
そして、彼が言っているジジイもまた月兎くんの眼鏡にいちゃもんつけるだけでなく他にも細々とクッッッソどうでもいい事で文句ばかり付けるクソジジイだ。
基本的に買っていくのがコーヒーだけなので回転率も本当に悪い。スーパーで買った方が絶対安いって。
「来ないだけで平和なもんですね。他のジジババも来なけりゃいいのに」
「……………………」
「新田さん?」
「いや、なんでもない」
あのクソジジイ、もう2度とかないよ。だって俺の目の前で喰われたもん。
珍しく朝っぱらから例の赤い空間に巻き込まれ、いつものように必死にゴブリンもどきの頭を砕きながら逃げてる最中だった。
走っている道中で聞き覚えのある叫びが聞こえた。
本当に少しの間だけだ、それでも薄汚い鳴き声の合間から聞こえたのだ。
『ば、化け物!ワシを誰だと!噛むな、くるな!いぎっ!ぎいぃぃぃぃぃ!!!』
ワシを誰だと、というフレーズで一瞬で誰が襲われているのか悟った。
本当にめんどくさい客ではあった。クソジジイとあのコンビニ内で共通の認識はあった。
でも助ける事はなかった。
知っている顔でも、俺は簡単に見捨てる事ができた。
確かにクソ客ではあるが無様に死んでいいわけではない。
もし、俺が勇気を持ってあの時に助けようと進めば何か変わったのだろうか?
もしあの時、たられば、とても便利な言葉だ。
見捨てて逃げた事には変わらないのに。
「新田さん、ボーッとしてないで商品補充してきてくださいよ。僕は
「サボるくらいなら発注かけてくれ」
「うーす」
隙を見せたら楽しようとするのは誰も一緒なのだろうか。
俺もボーッとしてたのは笑いが、結構問題児だよな月兎くん。
一度アレに巻き込まれたから今日はもう巻き込まれる事は無いだろう。
コンビニバイトの時間が家にいる時以外の癒しになるなど思いもせず、ゆったりと時間が流れていくのであった。
「なんでだよ、こんちくしょうがあああああ!」
本日2度目の赤い空間、そしてゴブリンもどきに追われる俺。
叫んだ通り本当にふざけんな。1日に2度巻き込まれるのは流石にダメだろ!
禁断の2度打ちみたいなものだろこれ!おかわりはもういいって!
しかもさぁ、今回は前よりもゴブリンもどきがめちゃくちゃいる!全方位から襲いかかってくるから殴る蹴るだけじゃ間に合わない!
「「「GAGAGA!GAGAGA!」」」
「うっせえ!うおっ、危なっ!?」
しかも何処で知恵を手に入れたのか木の枝やら鉄パイプやらなんらかの道具を持って殴りかかってくるでは無いか。
本当にふざけんじゃねえぞ、誰だこいつらに入れ知恵した奴は!
振りかぶられた木の枝を片腕で防御して、鉄パイプはギリギリ避けて。
振りぬいた後ががら空きだぞ化け物!おら、渾身のフックだ喰らいやがれ!
「GYAAAA!?」「GAIIIII!?」
「からの回転じゃあああ!」
「「「「「GYAAAAAAA!?」」」」」
ゴブリンもどきの鳩尾あたりに拳を当てながら回転してダブルラリアットのような勢い任せの回転を放つ。
ちょうどゴブリンもどきが武器となって周囲に群がろうとするゴブリンもどきを薙ぎ払うことが出来た。
一気に数を減らした、と言っても100匹以上いる中の10匹程度だが、そのせいかゴブリンもどきがたじろいでいるように感じる。
このまま一点突破だ!どうせ走り続けてたら突破できる!
「寄越せ!そしてどけ!」
「GYAAAN!?」
横を通るついでにゴブリンもどきが持っている武器、角材をぶんどって振り回す。
面白いくらいに角材で四散爆裂するゴブリンもどきに憐れみを覚えたが、所詮は人食いの化け物なので慈悲なんていらなかった。
むしろ死ね!いつもよりも増して多い癖にして集団で襲い掛かるしか能がないゴミが!
今までお前らが食い殺してきた人たちの数だけ詫びて死ね!
もう汚い言葉しか出てこないが、後ろからの奇襲を注意しながら前方のゴブリンもどきをボコボコに叩く。
ふざけた気持ち悪い顔しやがって、あばよくそったれめ!
気づけば前方のゴブリンもどきの数はみるみるうちに減っていき、そして空も赤から黒へと変わっていく。
やっと終わったか…………今日はあんなのが2回もあったとか信じたくない。
バイト終わりだけだったらまだしも、午前もこれにあったから流石に疲れた。
角材を持ったまま道路の端に座って息を整える。
世界は俺に恨みでもあるのか?なんでこんな目に合わなくちゃいけないんだよ…………
「ねえ、そこの君」
色々と嫌になっている俺の横で誰かが声をかけた。
少なくとも知らない声だ、男というのは分かったがいったい誰なのかと撃つ向かせていた顔を上げる。
「何で角材を持って座り込んでるのかな?」
そこに立っているのは青い制服を着たお巡りさんだった。
「…………いや、ちょっとランニングしたら疲れて」
「角材を持って?」
「たまたま落ちてたのを拾って杖代わりにしてて」
「そんなにボロボロなのに?」
「元からこんな感じでした」
「なんか明らかに殴ったような跡が残ってるよね。ちょっと話を聞かせてくれない?」
な、何でだ。どうして何もしていないのに職質されなきゃいけないんだ!
本当についていない、明らかに何かをボコボコに殴った跡が残ってる角材を持っているだけでこんな目に…………
流石にお巡りさんから逃げるわけにもいかず、素直に職質を受けるのであった。
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