第6話 勇気は出すべきである


「買い溜めすりゃあ良かったあああああっ!」


 また赤い空間に取り込まれた新田益男だ。


 通算で30回はこの空間に取り込まれてるぞクソが。


 もうこれ自然現象じゃないだろ、絶対になんらかの意図があるだろ。


 武器も振り回してくるから奪い取って殴って逃げ切るのはできる。


 いや、出来るじゃないんだよ、何で慣れてるんだよ俺。


 ゴブリンもどきが普通の生物じゃないのは分かってるけど、殴って粉砕したら塵になって消えるけど、実際のところ殺してるんだよな?


 鉄パイプがボコボコになるまで殴り続けるのならともかく、一撃で殺してるんだよな?


 こんな生産性もない、たまに俺以外の人間を見かけても既に助けられない状況になってるんだから見捨てるしかなく。


 俺に医術の心得なんてないし、応急手当ても出来ない。


 そもそも俺が助かる可能性も低くなる。それが一番の理由だからな…………


 俺だって死にたくない。誰も同じ、ゴブリンもどきは知らんが生きるために頭を潰させてもらう。


 流石に住宅街を毎日のように走り回っているせいか無意識に道順を覚えている、気がする。


 単に逃げ切るだけだから単純な作業だ。慣れって怖いと思いながらも鉄パイプを振り回しながら走り続ける。


 あと10分くらい走ったら逃げ切れるだろう、いつもの感覚からそう感じた時だった。


 パン、パンと爆竹が鳴ったような音が聞こえた。


 それも近くから、となると間違いなく誰かが居る。


 ゴブリンもどきは近くに落ちてる武器になりそうなものを振り回す脳があっても使うという考えはない。


 前に見たのは、何処で拾ったのかわからないヘアアイロンを振り回してるやつだった。


 出所に関しては考えないことにした。どうせロクな場所から出ていないのだから。


 それじゃあ一体誰があの音を出したのか?


 その答えは直ぐに知ることができた。


「うおおおおあおっ!くるな化け物め!」


「お巡りさん!?」


「あっ、君は昨日の!?」


 片手に拳銃を持って、既に撃ち終わったのか引っ掻いて足止めしようとするゴブリンもどきの脳天を銃の持ち手でぶん殴っていた。


 こうして合流したのは奇跡と言えるだろう。反対の手には警棒を持っているので前方はそれでゴブリンもどきをぶん殴りながらここまで走ってきたんだろう。


「な、何なんだこれは!この化け物は何なんだ!?」


「分かりません!でも真っ直ぐ逃げ続けてたら脱出できます!」


 俺の横に並走するような形でお巡りさんが走り、疑問を投げかけてくるが俺はただ走れとしか言えない。


 何を喚かれようが、俺はただ前へ突き進んで…………やべ、そろそろ鉄パイプが折れそうだ。


 壊れる前に最後の一仕事をしてもらおう、前方へブーメランのように思いっきり回転させながら投げる!


 思っているよりも回転した鉄パイプはゴブリンもどきを薙ぎ倒していき、カラァん、と勢いがなくなって地面に落ちた。


「あとは拳で対抗するぞオラァ!?」


「君、本当に何なの!?」


 お巡りさんの驚愕はさておき、少し空の色が薄くなっていることに気づいた。


「そろそろ出られる!全力で真っ直ぐ走れ!」


 助かるのは柄じゃない、見捨ててきた数の方が多いのについてきているお巡りさんに助言を投げかけてしまう。


 正直、何で俺が気にかけているのかは分からなかった。


 もしかしたらお巡りさんだったら生き延びれるかもしれないと思ったから?


 誰かとクソッタレのような経験を共有したいから?そんな浅ましい考えが自分の中にある事は認める。


 偶然に誰とも離れそうにない人がいたからか?一緒ならなんとかやれるだなんて明らかに自己満足だろう?


 だとしても、誰か戦えそうな人と一緒というのは心強い。


 絶対に生き残ってやる、ゴールも近いしもうすぐ抜けられる。


 そう思っていた時、背後から何か大きなものが飛んできて、俺たちの目の前に重量感ある音と共に着地した。


 ズドン、という音、着地の衝撃でアスファルトが砕けて飛び散り、俺たちの目の前をかすめて飛んでくる。


「グルウウ、ニンゲェェェン…………」


 唸り声に続いたのは低い声、ゴブリンもどきよりも高そうな知性を持っているのは何となく理解できた。


 何故なら俺たちの事を人間と認識して喋ったのだ、それだけで奴らとは格が違うことを理解させられた。


 身長も俺達よりも大きい、少なくとも2m以上はある。


 太い腕に太い足、胴体も太く明らかに自分は凶暴ですよという尖った牙を見せながらこちらをにらみつける。


 横に居るお巡りさんはもちろん、後ろにいるはずのゴブリンもどきすら目の前の怪物、もうオーガとでも呼んでおこう、オーガを見て足が竦んでいるように感じる。


 明らかに死を直感させる怪物が出たら止まるのは無理もない。


「…………のっ」


 それでも俺は。


「らあっ!」


 足を止めず、斜め前へ跳躍して。


「っせい!」


 道なりに沿って建っていた塀を足場にしてさらに飛んで。


「死ねええええええええ!」


「グエエエエエエエエエエッ!?」


 出来る限り体を捻り回転しながらオーガの顔面に回し蹴りをぶち込んだ。


 多分、この紅い空間に取り込まれてから武器を使った攻撃以外で最大のダメージがだせているような感触が足を伝う。


 回転を大量に組み込んだおかげかオーガの首から鳴ってはいけない音が鳴り、断末魔と共に頭が縦軸に180度回転した。


「ええええええええええ!?」


「「「「GAAAAAAAAAAAAAAAA!?」」」」


 お巡りさんも、ゴブリンもどきも大声を上げて驚いているが、首の折れたオーガはそのまま前のめりになりながら倒れていき、俺はその背中に降り立った。


 未だにあっけにとられているお巡りさん。いつゴブリンもどきが動き出すかも分からないのに棒立ちだなんてとんでもない!


「お巡りさん!走って!死ぬぞ!早く!」


 俺だって早く離れたいんだからさぁ、自殺志願者でもない限り留まりたくないっての!


「おい!聞いてんのか!分かった、死にたいんだったらそこにいろ!」


「え?あ、ああ、ああ!」


 やっと自分が置かれた状況に気づき、お巡りさんも俺の方へ向かって走り始めた。


 塵となりつつあるオーガを踏み越えて俺も赤い空間から脱出できるよう走り出すのであった。


「…………うっそぉ、なにあれぇ?」


 遠くで一連の動きを見ていた何者かに気づかずに。



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