第五章 ~白銀の回想~金継ぎのいろは・以
「
あなたにも、ここの本業のお仕事を覚えてもらうことにしました」
軽い足取りの
調律室へ向かって、半ば強引に連れていかれる。
「調律室」と書かれた扉の前で、足が止まった。
「……
わたくしは握られた手を、少しだけ突っ張って抵抗した。
「もしかして――
あなたを誘拐しようとしている私から、
――当たっておりますわ。
正直、とても怖いですの。
思わず一歩、後ずさる。
けれど
まったく気にした様子もなく言った。
「
なにやら美術学校へ提出する作品を制作しているようですよ」
そして、にこりと悪い笑顔。
「助けは来ません。
観念なさってください」
……すべてを悟りました。
「それで――
わたくしは、何をすればよろしいんですの?」
「先日、この国の人々が抱える心の課題と、
直面する問題についてお話しましたよね?」
「ええ。
普段は平和に保たれている心でも、
負荷が高くなると、よくない変化が起こりやすい……
というお話ですわよね?」
わたくしに差し出した。
「……子供扱いですわ。
わたくし、そんなに幼くはないと思いますの。
たぶん……十四歳くらい、でしょうか?
この扱いは、少々ひどいですわ」
すると
今度はわたくしの口に放り込んだ。
甘い。
……仕方ありません。
今回は、許して差し上げますわ。
「さあ、お勉強の時間ですよ。
今日は“
そう言って、
「特別講師として、
「……
どなたですの?
こちらには、誰もいらっしゃらないようですけれど」
「
お願いいたします。お越しいただけますか?」
その瞬間――
音もなく、白金の髪が煌めいた。
あどけない人形……
わたくしの三分の一ほどの大きさで、
見る角度によって印象の変わる、神秘的な瞳が、
わたくしをまっすぐ見つめている。
「初めまして。
澄んだ声だった。
「私は、“調和する者”。
そう作られています」
桃色のふわふわしたワンピースの裾を少し持ち上げ、
とても丁寧にお辞儀をした。
わたくしは、思わず小首を傾げる。
「……
一体、何者ですの?」
すかさず、
「
私――
この世界に、神様が人間の健やかな成長のために授けてくれた存在です」
少しだけ声を低くして、続けた。
「この世に、六体しか存在しない。
特別な存在ですよ」
わたくしは、まだ納得できずに問いを重ねる。
「では――
“調和する者”とは、具体的に何をなさるんですの?」
声を潜めた。
「こんなに可愛らしい見た目ですが、
感情を壊さず、巡回させる者です」
そして、余計な一言。
「人々を停滞から叩き起こし、自立させる――
とても、怖い存在でして――」
――ぎろり。
「……失礼いたしました。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
私の旗色があまりよろしくないので、
捕らえた姫を解放して差し上げましょう」
次の更新予定
感情を管理された世界で、僕らは「傷」を美しく継ぎ合わせる。~金継ぎ調律師と、痛みを忘れた人々の物語~ 九条 湊 @nishinfox
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