第10話 「覗き見」の代償
登校二日目。校門をくぐった瞬間、直人は背中に突き刺さるような数百人分の視線を感じていた。
昨夜、SNSや秘密の掲示板は、ある一つのニュースで持ちきりだった。
『1年A組の精鋭39名、男子生徒・直人様と放課後カラオケを敢行』
それは、この世界の全女子生徒、さらには教師たちをも揺るがす戦慄のニュースだった。
「A組だけ狡すぎる」
「どんな徳を積めば神と歌えるの?」
という嫉妬の嵐。
廊下を歩けば、他クラスの女子たちが獲物を狙う肉食獣のような瞳で直人を凝視し、すれ違いざまにわざと身体を寄せては、直人の匂いを一滴?残らず吸い込もうと深呼吸を繰り返している。
「あはは……なんだか、昨日より賑やかだね」
直人が無邪気に微笑むたびに、あちこちで「ひぎぃっ!」「尊い……っ!」という短い悲鳴が上がり、廊下はさながら戦場のような熱気を帯びていた。
三時限目。体育の授業を前に、1年A組の教室は異様な緊張感に包まれていた。
通常、男子の更衣室は別に用意されているが、直人は「あ、ごめん。更衣室の場所、まだよく分からなくて。ここで着替えてもいいかな?」と、うっかりを装って制服のボタンに手をかけた。
「「「「「ッ……!!!!!」」」」」
教室内の湿度が、一気に跳ね上がった。
39名の精鋭たちは、自制心のダムを必死に抑え込みながらも、目は直人の指先に釘付けだ。
直人がシャツのボタンを一つ、二つと外していく。
その若々しい白い肌、そして前の世界の男子としては標準的だが、この世界の自堕落な男たちとは一線を画す「健康的な肉体」が露わになる。
「……あ、やっぱり更衣室行くね。みんな、鼻血出てるよ? 大丈夫?」
直人がシャツを半分はだけた状態で首をかしげると、教室内には「濃厚な、熟した桃を煮詰めたようなメスの匂い」が充満した。
ドサドサ、という鈍い音とともに、数人の生徒が興奮のあまり鼻血を噴き出して倒れ、残った者たちも顔を真っ赤にして過呼吸寸前だ。
(……くくっ。みんな、反応良すぎ。さて、仕方ないし更衣室行くか)
直人は確信犯的な笑みを裏に隠し、シャツを羽織り直して廊下へと出た。
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直人が案内された「男子更衣室」は、長年使われていなかった教室を急遽改造したので埃っぽいが、一人の空間だった。
だが、直人は気づいていた。更衣室の扉の上にある小窓から、誰かがこちらを覗いている気配に。
(……誰だ? まあ、減るもんじゃないし、サービスしてやるか)
覗いていたのは、高等部二年の水沢 きらり(みずさわ きらり)先輩だった。
アッシュパープルの艶やかなロングヘアをハーフアップにし、どこか憂いを帯びた「タレ目の猫目」という不思議な魅力を持つ美少女。制服のボタンを弾け飛ばさんばかりの圧倒的なバストと、すらりと伸びた美脚が特徴の、学園でも有名な才色兼備の先輩だ。
彼女は冷静を装いつつも、スマホのカメラを構え、震える指で直人の着替えを「聖遺物の記録」として残そうとしていた。
直人はわざとゆっくりと制服を脱ぎ捨て、筋肉の躍動を見せつけるように腕を伸ばす。
前の世界では普通の「健康な男子」の肉体。だが、きらり先輩の目には、それは光り輝く宝石よりも眩しい、究極の生命体の躍動に見えていた。
(な、何あの身体……。白くて、しなやかで、筋張ってて……。あぁ、あのおっぱい(大胸筋)、吸い付きたい……っ!!)
直人がついに上半身を完全に晒した瞬間、きらり先輩の脳内で何かが弾けた。
あまりの神々しさに、彼女は「あ……あぁ……っ」と掠れた声を漏らし、そのまま小窓からずるずると滑り落ち、廊下で失神した。
「……あれ? 誰かいるの?」
直人は、上を軽く羽織って体育着のズボンだけを履いた「半裸」の状態で、わざとらしく更衣室の扉を開けた。
そこには、鼻から鮮血を流し、恍惚とした表情で倒れているきらり先輩の姿があった。
「わっ、大丈夫ですか!? 先輩!」
直人は駆け寄り、彼女の頭を自分の膝に載せた。
はだけた直人の胸元がきらり先輩の鼻先に近づき、強烈な「男の匂い」が彼女の意識を強制的に呼び戻す。
「……う、ん……。私、天国に……?」
意識を取り戻したきらり先輩の目の前にあったのは、直人の瑞々しい肌と、心配そうに覗き込む愛らしい顔。
「よかった、意識が戻った。……先輩、もしかして更衣室、覗いてました?」
ぎくっと、わかりやすく反応するきらり先輩。
覗きの事がバレれば、学校を退学になるだけではなく、世間からも後ろ指刺されて、生きていかねばならなくなる。顔を青ざめさせるきらり先輩。
しかし直人はきらり先輩を責めるでもなく、それどころか彼女の耳元に唇を寄せ、これ以上ないほど甘く、悪戯っぽい声で囁いた。
「……せんぱいの、えっち」
「――っぶふぉわっ!!!」
その一言は、きらり先輩にとって核爆弾に等しかった。
彼女の鼻からは、もはや鼻血というレベルではない、噴水のような鮮血が噴き出した。彼女は「あ……幸せ……っ」と呟きながら、今度は完全に意識を失い、廊下に再び沈んだ。
「……あ。やりすぎちゃったかな」
直人は少し反省したふりをして、慌てて「誰か、助けてください! 先輩が倒れてます!」と周囲に声をかけた。
すぐに集まってきた女子生徒たちが、半裸の直人と、鼻血で海を作っているきらり先輩を見て、さらに連鎖的に倒れていく。
(……ふぅ。二日目も、朝からハッスルしすぎたな。でも、この世界の女の子たち、本当に可愛すぎるわ)
直人の中の「猿」が、この狂乱の楽園で、次なる獲物を探して満足げに喉を鳴らしていた。
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ギフトいただきました。
ありがとうございます\( *´ω`* )/
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