第3話 検索結果:人口比1:1000の「楽園」

直人は断ったのだか、クラスメイトたちが「直人様にストレスを与えてはいけない」と、血を吐くような思いで廊下へ避難してくれたおかげで、昼休みの教室は図らずも直人1人きりになった。


西園寺かぐやが「毒見済み」として置いていった最高級の重箱弁当を摘みながら、直人はポケットからスマホを取り出した。


「……さて。いい加減、この世界のことをちゃんと知っておかないと、いつか取り返しのつかない事になるかもしれないな」


直人は震える指で、検索エンジンに『日本 男女比』と打ち込んだ。

返ってきた検索結果のトップに踊る数字を見て、直人は思わず箸を落とした。


【現在の日本における男女比率 ―― 男性:女性 = 1:1,000】


「……1000!? 500どころじゃねーのかよ!」


直人が前の世界で聞いていた絶滅危惧種の比率より、さらに絶望的(男にとっては絶頂的)な数字だった。


なぜ、これほどまでに世界は歪んでしまったのか。直人がその理由をさらに深く掘り下げると、100年ほど前に世界を襲った凄まじい「天災」の記録が見つかった。


【Y染色体変異ウイルス『Y-V』の蔓延】

100年前、突如として発生したウイルスは、男性のY染色体のみに寄生し、その生殖機能を徹底的に破壊した。

男児の出生率は絶望的なまでに低下し、胎児の段階で拒絶反応が起きるようになった。ウイルスに対する特殊な耐性を持ち、奇跡的に生まれてくる男子はわずか0.1%――「1,000人に1人」という壁が、今もなお世界を縛り続けているのだという。


次に直人が調べたのは、この世界の「男性」の画像だった。

ニュースサイトやSNSに流れてくる、この世界の「平均的な男子高校生」の写真を見て、直人は再び絶句した。


(……なんだ、このデブ……。しかも髪はボサボサ、服もヨレヨレのパジャマかよ)


そこに写っていたのは、清潔感など微塵もない、自己中心的で不機嫌そうな「引きこもり」のような男たちだった。

解説記事によれば、理由はシンプルだ。

何もしなくても女が入れ食い状態なのだから、自分を磨く必要が全くない。

この世界の男たちは、女性に媚びるどころか「女は俺に尽くして当然」という態度で、家から出ることすら稀なのだという。


逆に、女性たちの画像はどれもこれも溜息が出るほど美しかった。

男を獲得するための生存競争が極限まで進化した結果、この世界の女性は全員がモデル級の美貌を備えている。

グラマラスな肉体を持つ者から、守ってあげたくなるようなスレンダーなタイプまで多種多様だが、共通しているのは「肌が陶器のように美しく、常に男を誘惑する準備ができている」ということだった。



直人の最大の疑問は、「なぜ圧倒的少数派の男が、政治や軍事を支配する女たちに管理、奴隷化されずに、王のように振る舞えるのか」ということだった。

検索結果を読み進めると、過去の悲惨な歴史が浮かび上がった。


【暗黒の十カ月:独裁国家『ギネア』の崩壊】

かつて、ある独裁国家が「希少な男性を完全に国有化し、特権階級の老女たちだけで独占・管理する」という強硬手段に出たことがあった。

しかし、その結果、管理された男性たちは「生きる気力」を失って次々と大量自殺。

さらには、「男を奪われた」一般女性たちが狂暴化して前代未聞の武装暴動を起こし、国は一夜にして滅んだという。


「……なるほど。男を『自由』にして『機嫌』を取っておかないと、人間という種族自体が滅亡するってわけか」


現在の社会構造は、その教訓から「男には最高の特権と自由を与え、自発的に種(精子)を提供してもらう」という、極めて高度な『黄金の鳥籠』体制に行き着いたのだ。


そして、直人が最も驚愕したのは「経済」の話だ。

この世界では、男子が精通した瞬間から、国への「精子バンク」登録が義務付けられる。

高校生ともなれば、月に1回の「提出」と引き換えに、莫大な補助金が支払われるのだ。

この精子の提出さえ行なっていれば、遊んで暮らしていけるようだ。


直人は、世間一般の男の身体のスペックを調べ、さらに戦慄した。

* 一般的な男の射精頻度: 4日に1回が限界。

* 絶倫(セックスモンスター): 2日に1回。


だが、直人の「元の世界」の感覚、そして自分自身の「猿」としての性能は――。


「……1日10回は余裕だぞ。」


直人は気づいてしまった。

この世界において、自分の「若くて元気な大量の精子」は、単なる生殖細胞ではない。

ダイヤモンドをも凌ぐ価値を持つ、最高級の「国家資源」なのだということに。


さらに驚いたことに、この世界の男子生徒たちは、入学式や試験などの行事にしか登校しないのが普通らしい。

基本は家でオンライン教育。わざわざ女だらけの面倒な場所へ足を運ぶ男はいないのだ。


(……つまり、この高校に毎日通おうとしてる男は、俺1人だけか?)


窓の外、廊下の方を見ると、クラスの美少女たちが直人の「昼休みが終わる」のを、今か今かと、熱烈な(そして飢えた)視線で待っているのが見えた。


「……他の男どもはバカだな。こんな美少女やエロい先生に囲まれて毎日過ごせるのに、家で引きこもってるとか有り得ねーだろ」


直人は重箱に残った最後のおにぎりを口に放り込み、ニヤリと笑った。


「俺は毎日来るぞ。可愛いクラスメイトも、あのエロい担任も、全部俺が貰ってもいいんだもんな……!?」


直人は今調べた情報を頭の中でまとめた。


(ウイルスによる染色体のバグ。

100年もそんな状態が続けば、そりゃ女の人が必死になるわけだ。

しかも、その貴重な男たちがみんなデブで傲慢な引きこもりときた……。

そんな中で、前の世界から来た『普通の見た目』で『女の人に優しい』俺が、毎日学校に通うなんて言い出したら……)


直人は、改めて廊下から漏れ聞こえる女子たちの「クスクス」という期待に満ちた笑い声を聞き、確信した。


「これ、俺が普通にしてるだけで、国中の女を狂わせちゃうんじゃないか?」


直人の中の「猿」が、この世界のあまりにも甘い蜜の匂いに、かつてないほど激しく反応しているのを感じていた。


そして、この直後の5時限目。

直人は、この「世界最高級の資源」を狙う、保健医・氷室先生のもとへと足を踏み入れることになる――。

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