第14話 未来に向かって
朝の光がまだ弱々しく差し込む時間帯、事業所 Mの作業場には、いつものざわめきより少しだけ柔らかい空気が流れていた。
誰かが大きな声を出したわけでもない。特別な出来事があったわけでもない。ただ、そこにいる人たちの表情の端に、ほんのわずかな“余白”が生まれていた。
飲みかけの缶コーヒーが、2,3個あるテーブルで、利用者の一人が、ぽつりと「今日はできる気がする」とつぶやく。
その言葉は誰に向けたものでもなく、独り言のように軽かったが、近くにいた支援員がふっと優しい眼差しを向けた。
「できる気がするって、いいね」
そう返した声は、励ましというより、同じ地面に立つ者の共感に近かった。
その瞬間、部屋の空気が少しだけ変わる。
誰かの小さな前向きが、他の誰かの胸の奥に静かに灯る。
希望というのは、こうして伝染するのかもしれない。
作業台では、手元のおぼつかなかった人が、今日は少しだけ長く集中している。
作業場では、材料の確認が昨日よりも、真剣な気持ちでいた。
支援員同士の会話にも、どこか「大丈夫、やっていける」という確信めいたものが混じり始めていた。
事業所 Mの希望は、派手な光ではない。
誰かが掲げる旗でもない。
むしろ、弱さの隙間からそっと漏れ出す、淡い光のようなものだ。
それは、——
「今日もなんとかやってみよう」
「誰かが見ていてくれる」
「一人じゃない」
そんな静かな実感の積み重ねだ。
午後になり、窓の外の雪が少しだけ溶け始める頃、支援員の一人が言った。
「なんか、今日は良い日だね」
理由は誰にも説明できない。
でも、その言葉にうなずく人が何人もいた。
事業所 Mの希望は、そんなふうに、誰にも気づかれないほど静かに、しかし確かに育っていた。
それを、「越後の魂」が、見守っていた。
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