第12話 集まり
休日になり、学は、2回目になる美穂の「集まり」に参加する事にした。
集まりのある建物に入って、その扉を押し開けると、奥の机で書類を整えていた美穂が顔を上げた。
その視線は、驚きよりも先に、ほっとしたような柔らかさを帯びている。
「来たんだね、学さん」
その声は、責めるでもなく、励ますでもなく、ただ“そこにいていい”と告げる温度を持っていた。
学は少し照れたように肩をすくめる。
「休日だし、顔だけでも出そうと思ってさ」
「顔だけ、ね」
美穂は小さく笑い、湯気の立つ紙コップを差し出した。
「じゃあ、せめて温かいもの飲んでいって。外、寒かったでしょう」
学は受け取ったコーヒーの熱を指先で確かめながら、視線を落とす。
こういう気遣いに、まだ慣れない。
けれど、拒む理由も見つからない。
「……ありがとう」
「ううん。学さんが来ると、みんな安心するみたい」
「俺が? そんな大した人間じゃないよ」
「大したかどうかじゃなくて、学さんが“来ようとした”ことが、誰かの支えになるの」
美穂はそう言って、机の端に腰を預けた。
学の言葉を急かさず、沈黙すらも受け止める姿勢。
その静けさが、学の胸の奥のざわつきを少しずつほどいていく。
「……今日は、なんか、来たほうがいい気がしたんだ」
「その“なんか”を大事にしてほしいな」
美穂は微笑む。
「理由が言えなくても、動けたってことが、もう十分だから」
学はコーヒーを一口飲み、ふっと息をついた。
その表情を見て、美穂は何も言わずに隣に立つ。
寄り添うでも、踏み込みすぎるでもなく、ただ同じ空気を吸う距離で。
休日の静かな午後、二人の間に流れる時間は、言葉よりも確かな交流だった。
触れられたら壊れてしまうと思っていた記憶が、静かに揺れた。
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