第11話 ゴンの思い

 ■ゴンの気持ち

 学の言葉が終わったあと、ゴンはしばらく動けなかった。

 頭では理解しようとしているのに、胸の奥がざわついて、言葉が形にならない。


 “始まりの合図を、自分が言うのか”

 “終わりの合図も、自分が告げていいのか”

 その二つの事実は、重たくもあり、どこかくすぐったくもあった。


 これまでのゴンは、「始まり」は誰かに押し出されるように訪れ、「終わり」は誰かが片づけ始めることで知るものだった。


 自分がその真ん中に立つなんて、考えたこともなかった。

 だからこそ、学の言葉は、胸の奥の“触れられたくない場所”にそっと触れてきた。

 ――自分にも、合図を出す権利があるのか。

 その考えが浮かんだ瞬間、ゴンは少し怖くなった。

 もし間違えたら。

 もし笑われたら。

 もし「違う」と言われたら――。

 

 けれど、その怖さのすぐ隣に、小さな光のようなものがあった。

 “やってみたい”

 “言ってみたい”

 そんな気持ちが、胸の底でひとかけらだけ芽を出していた。


 ゴンはその芽を、まだ誰にも見せない。

 自分でも触れない。

 ただ、そこにあることだけを、そっと確かめていた。


 学は最後にもう一度、場を見渡した。

 表面的にはゴンに向けた言葉だったが、その場にいた全員に届くように静かに、しかし確かに告げた。


 ■冬の大地

 学の言葉が場に落ちたあと、作業場には、雪の冷たさとは別の静けさが流れていた。

 誰も大きく反応はしない。

 

 けれど、ゴンの胸に芽生えた小さな光は、確かに周囲にも届いていた。

 “始まりを告げてもいい”

 “終わりを決めてもいい”

 その当たり前のようでいて、彼らにとっては遠かった権利が、ほんの少しだけ手の届く場所に近づいた。

 学はその変化を見逃さなかった。

 

 ゴンの揺れも、周囲のわずかな表情の変化も、すべてが“場が動き始めた”という、合図に見えた。

 支援とは、誰かを押し出すことではない。

 誰かが自分で踏み出す瞬間を待ち、その一歩が生まれたときに、そっと受け止めることだ。


 今日の雪は冷たい。

 路面は凍り、空気は張りつめている。

 それでも、この場のどこかに、小さな温度が灯った。


 学はその温度を胸に抱きながら、静かに思った。

 ――ここから、少しずつでいい。

 ――今日のこの一歩が、彼らの明日につながっていく。

 雪の降る午後にふさわしい静けさの中で、確かに前へと「越後の魂」と共に動き出していた。


 

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