第4話  努力の分配

 ■肝をばらす

 今日は、ゴウ、コトゲ、錬子、三山、ウマ男、そして他の二名が作業に参加していた。

 支援員さんたちが新しい試みをしているらしく、これほど多くのメンバーが一度に集まるのは珍しいことだった。


 作業を進めながら、学は、今までの工夫を重ねたやり方で、実践することにした。

 

 ゴウが集めた部品を三山に渡す。しかし、ゴウは何も言わない。

 そこで学が「お願いします」と声を添える。

 三山が錬子に部品を渡す時も同じだ。三山は無言で、すると学が「お願いします」と、添えた。

 コトゲが三山から借りていたドライバーを返す時は、コトゲは、「ありがとうございます」と言えた。

 すると、学は、コトゲに、「今の良かったよ」と褒めた。コトゲは、それを聞いて喜んだ。

 ゴウが学に部品を持ってきたとき、学は「ありがとう」と返した。


 だが、時間が経つにつれ、声掛けの流れが少しずつ細くなっていくように感じられた。やはり、何か言わないと……。


 ■種明かし

 そこで学は、自分が何を意図して声をかけているのか、説明することにした。

 「みんな、ちょっと聞いて。今、作業が規則的に流れてるけど、実はそんなに難しいことじゃないんだ」


 「なんなの?」

 錬子が首をかしげる。

 「これはね、良い事をしたら、直ぐ褒めて、みんなが言うはずの言葉を、誰かが、言わなかったときに、僕が代わりに、その言葉を言ってるだけなんだ」


 三山が感心したように言った。

 「そんな簡単な事で、上手くいくんだね」


 錬子は、面白い話を聞いたときのように、ぱっと表情を明るくした。

 ゴウは「ああ、そういうことか」と緊張が解けたようだった。

 他のメンバーも、――それなら私でもできる、とどこか安心した顔をしていた。


 ■ウマ男の思い

 ウマ男は、みんなの注目を集める学を見て、苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 その表情には、言葉に出来ない不満がにじんでいた。

 ……ふん、そんなの前から分かってたよ……。

 そう呟きたいのを必死に飲み込んでいるようだった。

 だが、その目の奥には、仲間の輪に入りきれない焦りのような揺らぎが、かすかに揺れていた。


 ■休憩時間

 みんなが、それぞれ飲み物を取りに行ったり、椅子に腰を下ろしたりしている中、ウマ男は一人だけ、作業台の端に立ったままスマホをいじっていた。

 画面には競馬のサイト。

 だが、指はほとんど動いていない。

 同じページを、意味もなくスクロールしては戻していた。


 学は、たまたまその横を通りかかった。

 「……また負けたのかよ」

 ウマ男が、誰に向けるでもなく、小さく呟いた。


 その声は、いつもの威圧的な調子とは違い、どこか擦り切れたようだった。

 学は足を止めたが、声をかけるべきか迷った。

 ウマ男は気づいていない。

 「俺だって……たまには当てたいよ……」

 その言葉には、怒りよりも、疲れが滲んでいた。

 学は、胸の奥が少しだけざわついた。

 (……この人も、苦しいんだ)


 ウマ男は、ふと顔を上げた。

 その目は赤く、眠れていないようだった。

 学と目が合うと、ウマ男は慌ててスマホをポケットにしまい、いつもの仏頂面に戻った。

 「……何だよ。見てんじゃねぇよ」

 その言い方は荒かったが、声の奥に、かすかな恥と弱さが混じっていた。

 

 学は、ただ静かに言った。

 「いや、別に。休憩、行ってきたら」

 ウマ男は舌打ちをして背を向けた。

 だが、その背中は、いつもより少しだけ小さく見えた。


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