第8話 悪役女騎士団長、悪役令嬢と再会して、新たなフラグが立つ
「スカラお姉様! お久しぶりでございます!」
体中に走る魔力の波。
振り返ると奴がいた、破格の天才——オクタヴィア・ド・モンテリオン令嬢が。
「お、おぅふ、お久しぶりです。あ、あのぉ、オクタヴィア様、御戯れを……」
オクタヴィア様は身長が低い。
無理やり振り払うと、転ばせてしまうかもしれない。
というか、身分的にも向こうから離れてもらうのが一番いいわけで、私はポーカーフェイスを保つことにした。
そもそも、このオクタヴィアという人物、原作のゲーム世界では尋常ではない魔力の持ち主という設定なのだ。
彼女の内側で暴れ竜のように渦巻く魔力は、相手を怯ませてしまう。
原作ではそのせいもあって、徐々に人間不信になっていく可哀想なキャラクターでもあった。
場合によっては、闇落ちルートなんていって、災厄の悪魔みたいに破壊の限りを尽くす人物である。
「……スカラお姉様、あなた、隠し事をなさってますわよね!?」
「か、か、隠しごとですか!?」
一刻も早く離れて欲しかったのだが、そうはいかない。
オクタヴィア様の言葉に心臓が跳ねそうになる。
やばい、私の前世の記憶のことがばれた!?
いや、だけど、誰にも話してないし、バレようが!?
「ふふふ、その魔力の波の、絶対に嘘をついている証拠ですわ! 私、知ってましてよ!」
オクタヴィア様は私の動揺を魔力で感じ取ってしまった。
天才ではあるのだ、この人は。
彼女は私から離れると、びしっと人差し指を向ける。
そう、まるで私の悪事(?)を断罪するように。
「私のいない間に、プリンなる美味しいお菓子を作ったと聞きましたわ! 私に無断で、そんなに楽しそうなことするなんて許しません!」
「プ、プリンですかぁ……」
てっきり前世のことかと思ったが、そうではなかった。
どうやらプリンのことがもうお嬢様のところに登ってきてしまったらしい。
いやいや、早すぎないか?
我々が公都を出てから数日も経ってないんだけど。
「それに、未だに王都に戻りましたら、いの一番に私のところに挨拶にくると約束していたはず。騎士団の詰め所に行くなど、許しがたいです」
お嬢様は頬を膨らませて、ずいぶん、ご立腹の様子だった。
機嫌を悪くはしているものの、それでも私はほんわかした気持ちでいた。
オクタヴィア様は愛らしさの方が勝る美少女なのだ。
ここで私はふと我に返る。
そうか、ゲームの序盤ではオクタヴィア様は私のことを信頼してくれていたのだと。
ゲーム終盤になると、何をやってもうまくできない私を呼び捨てにして、罵倒の言葉を浴びせていた。
逆に言えば、今が好感度マックスというところだろう。
できれば、彼女からは距離を置きたいというのが本音のところではあるけれど。
「プリンにつきましては余興で作ったものでして、えへへ。庶民の食べ物ですよ? お嬢様の口に入れるものでは……」
「何を言いますか! 公爵領ではすでに大いに話題になっていて、スカラ団長の地獄プリンは子どもからお年寄りまで、平民から貴族まで、皆が食べたがるものになっております」
「えぇええ!?」
「はい、私の命令で、モンテリオン公爵家の特産として公布を出しました。地獄のスカラプリンという名前で」
お嬢様は年若いながらも頭の回る人物である。
しかし、その頭の使いかたは原作のゲーム同様、ちょっとおかしなベクトルだった。
プリンを特産品にするなんて聞いたことがない。
しかも、私の名前が大々的に使われてしまっているではないか。
命を守るためにも関わり合いになりたくなかったのに。
「それで、お姉様、モンテリオン公爵家の騎士団にはいつ来て下さるのですか?」
お嬢様との応酬は、まだまだ終わりそうになかった。
最初の内は、「まぁまぁ、オクタヴィア、団長もお疲れだろうから」などとフォローしてくれた公爵も、お嬢様に「お父様、私はスカラお姉様と話していますのよ?」とひと睨みされたら喋れなくなった。
公爵、あんたの娘だろ、ちゃんと躾といてよ!
その甘さが私を断頭台に送るんだよ!
内心、叫んでいるのだが、ポーカーフェイスをキープする。
モンテリオン公爵家の騎士団に入る、それは実質、彼女に手綱を握られているのと同義である。
言うなれば、断頭台直行ルートだ。
絶対に避けなければいけない。
「申し訳ございません。私の騎士団にはすでに団員がおりまして、彼らの生活を守らなければなりませんので。獣人に、ハーフリング、それに魔族までおりますから」
そこで私は仲間の名前を使うことにした。
ちょっとズルいかなとはわかっている。
しかし、公爵家の騎士団はほとんどが人間で構成されている。
私の軍団を入れるのは明らかに歩調を狂わせることになる。
頭のいいお嬢さまにそれがわからないはずはない。
「うふふ、私はどんな種族が忠誠を誓ってくれてもいいんですけれどね。まぁ、いいでしょう。あのまん丸目玉ちゃんに応じて、今回は延期させてもらいますわ」
お嬢様は扇子を取り出して、ぱたぱたと仰ぐ。
いかにも高位のご貴族様の子女という振る舞いだ。
私も辺境伯の娘で貴族ということになっているのだが、戦闘メインの教育方針でマナーにはぜんぜん自信がない。
「オクタヴィア、そろそろ、本題を切り出したらどうだね?」
ここで咳払いをするのが、さきほどからずーっと黙っていた公爵様だ。
本題があるならもっと早く言ってよ!
「スカラお姉様、来週、私、来週から学園に入学しますの」
「はい、存じ上げております」
「そこで、入学式の当日、私の護衛をお願いしたいのですが」
「護衛ですか……」
お嬢様の依頼は意外なものだった。
もしかしたら、原作のゲームでもそうだったのかもしれないが、そもそも、お嬢様を現時点で狙う勢力がいるのだろうか。
いや、公爵のことだ、教会派の動きを警戒しているのかもしれない。
どうするべきか?
受けることで、お嬢様の動きをある程度把握することはできる。
それに、入学式にはあの子も来るはず。
数秒の間、私は熟考する。
「了解いたしました。騎士団ではなく、私、個人が休日を利用して、護衛に入るということにいたします。ただし、公爵家の騎士団も護衛に入るでしょうから、あくまでもその補助という立場になりますが」
簡単に言えば、条件付きの同意ということだ。
騎士団として動くというのは、公に記録も残るし、特定の勢力に肩入れするとみなされてしまう。
それに、公爵家には強い騎士がいる。
私だけがでしゃばるわけにはいかない……というのを建前にして、入学式にある程度の自由さが欲しい。
本当は、本当は断りたかったんだけどね!
「それでいいですわ! うふふ、もしも断ったら、王族に正式に依頼を出す予定でしたの! さすがはスカラお姉様、手間が省けましたわ」
「たはは、私がお嬢様を無下にすることなどないじゃないですかぁ」
ニコニコ笑顔のお嬢様につられて、必死に愛想笑いをする。
あっぶねぇ、面倒くさいから嫌ですって断ろうかと頭の掠めたのだ。
王族まで引っ張り出されたら、私が正式にモンテリオン公爵家の護衛に入らなきゃいけなくなるじゃん。
「スカラお姉様、本当にありがとうございます」
「いえいえ、それでは私はこの辺で……。公爵様、失礼いたします……」
新しいフラグが立ったのを予感しながら、私は公爵の前から退出しようとした。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「うふふ、お待ちになって。屋敷の厨房で料理人たちが待っておりますの」
「料理人たちが? なんででしょう?」
「みんな、お姉様のプリンの作り方を知りたがっておりますの。もちろん、私も食べたいに決まっておりますわ!」
「い、今からですかぁ!?」
かくして、私の料理教室がスタートするのだった。
お嬢様は料理下手なくせにしゃしゃり出て、ひどい目に遭うのだがそれはまた別のお話である。
◇
「……というわけで、これ、よろしく」
「くふふ、団長も悪い人ですやん」
宿舎に帰宅後、私はサカイを呼び出す。
そして、とある任務を任せるのだった。
さぁ、次は入学式。
オクタヴィア様に何事もなければいいのだけれど。
そして、あの子が、私の天敵ともいえるあの子が現れる。
前世の記憶を脳裏に浮かべると、それだけで背筋に冷たい汗が流れるのだった。
◇ スカラ・スピッツベルゲンの気づいていないこと
「スカラお姉様、お慕いし申し上げております……」
彼女の名前はオクタヴィア・ド・モンテリオン。
モンテリオン公爵家の次女にして、稀代の魔力量を誇る人物である。
物心ついた時から、彼女の魔力量は桁違いだった。
そのため周囲の人物を委縮させることがしばしばであり、友人と呼べるような存在はいなかった。
ただ一人、仲の良い姉もいたが、第一王子の婚約者候補になって以降は帝王学を学ぶために王都の学園に通い、関りが薄くなっていた。
そんな中、彼女は出会った。
悪鬼のごとく迫りくる魔物を屠る、白銀の女騎士を。
彼女の名前はスカラ・スピッツベルゲン。
北国の辺境伯の娘であり、竜殺しを成し遂げた英雄だった。
スカラはオクタヴィアに一切、ものおじをせず、自然体で接してくれる。
可憐な様子を鼻にもかけず、いつも鎧姿の麗人はオクタヴィアの目に眩しく映った。
それ以来、オクタヴィアはスカラを追いかけ始めた。
父のモンテリオン公爵に報告するスカラは、いままでの彼女とは少し違っていた。
物腰が柔らかくなっており、以前までの刺されるような殺気が消えていた。
そのせいだろうか、オクタヴィアはいつも以上にスカラに甘えてしまう。
じゃれ合うように魔力をスカラに流し込むも、スカラはびくともしないし、払いのけることもしない。
スカラなりの礼節であり、もしかすると親愛の感情を示しているのかもしれなかった。
オクタヴィアは思う。
スカラさえ傍らにいてくれれば、なにもいらないと。
そして、スカラのために自分の全てを捧げようと。
スカラは知らない。
この世界は百合ゲームの世界。
すなわち、女性キャラクターが異常なまでに同性に惚れやすいということを。
悪役令嬢が闇落ちするルートは回避できたかもしれない。
しかし、別のルートが開始されつつあるのだった。
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百合ゲーの悪役女騎士団長に転生した私、迫りくる死亡フラグを全部へし折ります 海野アロイ @psalm
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