第7話 騎士団長、新たな死亡フラグが立ったことを感じる

「やっと着きましたね!」


 ミッドガルド王国の王都ミドガルは今日もにぎやかだ。

 カザフの数倍の人口を誇り、商人たちが様々な店を開いている。

 活気があるものの、ちらほら見えるのは浮浪者たちだ。

 過去に起きた隣国との衝突で、怪我をしたり、満足に働けなくなった人々も見受けられる。


 今までの私なら、弱者として素通りしていただろう。

 しかし、前世の日本人の記憶を取り戻した今はそうもいかない。

 胸に小さな棘が刺さるのを感じながら、騎士団の詰め所に向かう。

 

「おい、第四騎士団様のお帰りだぜ」


「相変わらず獣人にハーフリングなんざ連れてやがる」

 

 詰め所には各騎士団に所属する団員たちが訓練を行っていた。

 休憩中の何人かがこちらを一瞥して、軽口を叩くのが聞こえてくる。

 

 ミッドガルド王国は人間族が人口の8割を占めている。

 それもあって、人間族以外への差別意識が色濃く残っている。

 とはいえ、エルフやドワーフ、あるいはノームといった特殊なスキルを持つ種族への差別意識は弱く、代わりに獣人やハーフリングへの差別意識は強い。


「ち、魔族なんかと仲良くしやがって……」


 魔族にいたっては、つい十年前までは戦争をしていた間柄である。

 人語を解すとはいえ、敵意を剥き出しにする輩も大勢いる。

 ルドンはそんなの一切気にしてはいないようだけど。


「モンテリオン公爵領の街道での魔物討伐、完了しました」


 私は騎士団の統括事務局に向かうと、街道の魔物を鎮圧した件を簡単に伝える。

 事務方のお姉さんはそれを無表情で記録した。

 もっとも、私は正確に報告したわけではなく、単に「魔物」とだけ表現した。


 今回のクラスタースライムはあきらかにイレギュラーな魔物だったからだ。 

 私の知るゲーム知識では説明のつかない何かが起きている気がする。

 サカイにスパイ行為を働かせようとした輩がいることからも、下手に情報を広げるのは得策ではないと感じたのだ。

 

 そして、次に向かうべきは?

 今回の討伐を依頼してきた、モンテリオン公爵である。

 私の記憶では公爵はイケオジだったはずだが、問題はその娘だ。

 できれば会いたくないなぁと思いながら、公爵のいる別邸へと向かう。




「A級の魔物をよく討伐してくれた。スカラ騎士団長、感謝する」


 モンテリオン公爵は髭の生えたダンディなおじ様という感じだ。

 性格も穏やかで、私たちの働きを労ってくれる。


 ゲーム世界ではこの人は娘の悪行の責任を取って公爵の地位を追われるんだよなぁ。

 普通に温厚な人なのに、運命は過酷だ。


 しかし、問題はクラスタースライムという強敵がいたことではない。


「……公爵、スライムの中からこれを発見しました」


「こ、これは?」


「小さくなっていますが、もとは進化の石という魔石です。魔力の波を拡張したり、阻害したりするものです。街道においそれと落ちていていいものではありません」


「なるほど……言いたいことはわかった」


 公爵は進化の石の破片を見て、少しだけ眉毛を動かす。

 この人も貴族なので基本的には感情を表には出さない。

 しかし、その雰囲気から、彼の心情が少しだけ伝わってくる。

 なにせ私が行ったのは、クラスタースライムが人為的に作られたのではないかという報告なのだから。


「団長も辺境伯の娘で知ってはいるだろうが、この国の貴族には国王を補佐する王権派と教会の権威を強めようとする教会派、どちらにも属さない中道派がいる」


「えぇ、それはもちろん……」


「どうも最近、教会派の一部がより過激な動きを見せているらしいのだ」


 公爵はふぅとため息をついてから、この王国の貴族社会について教えてくれる。

 どこの国でもそうだとは思うが、政権というものは一枚岩ではない。

 色んな派閥が入り乱れている。

 補足すると、モンテリオン公爵は王権派の筆頭であり、必然的に教会派とは対立派閥ということになる。


 原作のゲームだと、主人公の聖女を推すのが教会派であり、彼女に莫大なバックアップを行っていた。

 主人公はその場で流されるような性格だったけど、結果として王権派を国政から追い出し、国民のための新しい政治が始まる……みたいなのがトゥルーエンドだったはず。

 

「教会の一部、ですか?」


「そうだ、彼らは魔物もまた神の意思と考え、その生態を研究していると聞く。教会派の主流からは異端視されてもいるようだが」


 モンテリオン公爵は言葉少なにしか語らないけれど、要は教会派の一部が対立派閥の公爵を攻撃する行動に出ているのではないかということだ。

 進化の石をスライムに与え、無理やり強力な魔物を作り出したというもの。


「なるほど……」


 話を聞きながら、原作の知識を必死で思い出す。

 確かに、聖女が魔物使いになるテイマールートなるものがあった気がする。

 国に訪れる様々なトラブルを、聖女が魔物使いの力で解決するのだ。

 そして、それに異議を唱えたモンテリオン公爵家は潰されるというもの。

 

 気づかないうちに別のルートが始まろうとしている?


「あと一年以内に、私の長女は第一王子殿下との婚約を発表する。どうやらそれにゆさぶりをかけているらしい」


 公爵の言葉に内心、膝を打つ。

 ビンゴだ、確かテイマールートでは、主人公が魔物を使役して第一王子を助けるという流れがあったはず。

 彼女より先回りして準備をしておく必要がありそうだ。


「王権派、中道派、教会派がバランスを取ることで、王国は続いてきた。このままでは屋台骨が揺らぎかねない。団長はその石の出どころを調査してもらえないだろうか?」


 基本的に我々、騎士団というものは国王陛下の兵力ということになっている。

 しかし、この第四騎士団は別だ。

 竜退治から帰ってきて閑職に追いやられていた私を活用するために、公爵主導で設立してもらったのである。

 私が自由に団員を編成したり、国内の魔物を討伐できるのも公爵のおかげと言っていい。


 恩義には報いたい。

 それに、正直言うと、国王陛下への忠誠心以上に、命が惜しい。

 テイマールートでは我々第四騎士団どころか、騎士団全部が束になって戦っても勝てない魔物が出てくるのだ。

 第四騎士団はかませ犬的にやられ、確か私は食い殺される。

 それを抑えられるのは聖女だけ、なんていうチートだろうか。


「承知いたしました。私個人ですが、やれるだけのことはやってみます」


 私は公爵の仕事の依頼を受けることにした。

 もちろん、騎士団として受けるわけにはいかないけれど。


「それと、こちらの進化の石の破片を頂いてもいいでしょうか?」


「もちろんだ、私が持っていても何の役にも立たないから好きにしたまえ」


 公爵の同意も得られたことで、私は進化の石を懐にしまいこむ。

 よし、これがあれば何らかの工作活動ができるはずだ。

 入学式まではあと数日あるはず。

 まだ焦る必要はない。


 そんな風に油断したのがよくなかった。


「スカラお姉様! お久しぶりでございます!」


「のわぁっ!?」


 突然、後ろから抱き着かれてしまう。

 振り返ると、奴がいた。

 そう、泣く子も黙る、悪役令嬢——

 オクタヴィア・ド・モンテリオンが。


 そして、次の瞬間、私の体に、肌が粟立つほどの魔力の波が流れ込んできた。




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