第6話 悪役女騎士団長、美味しいお菓子で悪評を挽回しようとするも、……変なフラグが立ち始める

「よぉし、とびきり美味しいのつくってやんよ!」


 宿に戻ると、さっそくプリンづくりの準備を始める。

 宿屋の主人に言って、キッチンを貸してもらう。

 卵以外の材料はヒルダとサカイに買ってきてもらうことにした。


「だ、団長が料理だなんて正気ですか!? ……も、もしかして、プリンって誰かを血祭りにあげるってこと!?」


「ぐぅむ、わしは卵を丸飲みしたほうがええのぉ」


 腕まくりをしてキッチンに立つのだが、未だにフィオナとルドンは信じていないようだ。

 プリンは暴力の隠語でもないし、卵を丸飲みするよりも美味しいものなのだが。


 とはいえ、食べたことのないものを説明するのは難しい。

 やっぱり食べてもらわないと。


「ご主人様! 材料、買ってきましたよ! ぷりんって美味しいんですよね!? 私、たくさん食べたいです!」


 しばらくすると、ヒルダがカバンに大量の食材を入れて帰ってきた。

 砂糖に牛の乳に、追加の卵まである。

 何人分、作らせるつもりなのだろうか。


「材料は無駄にできないし、頑張るしかないか」


 今回はみんな頑張ってくれたし、上手にできたら卵をくれた女の子にもおすそ分けするのもいいだろう。


 驚いたことに、中世風のこの世界には泡だて器やボウルなどが揃っていた。

 キッチンの火力は魔石とやらで調整するらしく、使い勝手がいい。

 さすがはパティシエール聖女ルートが成立するゲーム世界である。

 金属製の泡立て器なんてメレンゲ作る時以外、あんまり使わなそうなんだけど。


 卵に砂糖と牛乳を混ぜ、器に流し込む。

 蒸し器で弱火。あとは待つだけだ。

 計量に関しては完全なる勘任せなので、上手く行くことを願うしかない。


 うふふ、みんなプリンが出来上がったのを見たら驚くだろうな。

 卵プリンは素朴な味だけど美味しいのだ。

 ほんのり苦みがあるのもいいよね……って!?

 

「あっ、カラメルソース作るの忘れてたっ!」


 ここで私は大事なことを思い出す。

 プリンと言えば、カラメルソースである。

 琥珀色のあれがなければ、味が締まらない。


 慌てて鍋に砂糖と水を入れて、カラメルソース作りに入る。

 配信で培ったお菓子作りスキルはこの世界でも引き継いでいた。

 砂糖が溶け始め、次第に茶色く変色していく。


「ひぇええ、美味しそうな匂いがします!」


 鼻のいいヒルダはもうカラメルソースの魅力に気づいたらしい。

 確かに、今が一番いいタイミングだ。

 手早くお湯を入れると、じゃあと蒸気をあげながら鍋の中にカラメルソースが出来上がっていく。

 

「この色、地獄みたいじゃのぉ」


「ほ、本当においしいんですかぁ? 毒の間違いでは?」


 ルドンとフィオナは首を傾げている。

 この焦げた砂糖の苦みこそが、プリンの甘さを引き立ててくれるんだけどね。

 味を説明するのは難しいので、黙って料理続行だ。

 私はプリン用の器にカラメルソースを注いでいく。

 数分もすれば冷えて固まってしまうだろう。


「ご主人様! 蒸し器の準備、OKです!」


 宿屋のキッチンには蒸し器までそろっていた。

 野菜を蒸すのに使うんだとか、なるほどである。


「よぉし、あと少しだよ!」


 出来上がった卵液を器の中に入れていく。

 前世みたいな形の揃った容器があるわけではないけれど、並んでいくのは壮観だ。

 蒸し器から落ちる水滴を防ぐために、大きめのお皿で表面をカバーする。

 こういう細かい心配りがお菓子作りのコツなのだ。

 しかし、我ながらよく覚えているなって思う。


「最初は火を強くして、あとはじっくり弱火で蒸す」


「ご主人さまが料理できたなんてびっくりですよ!」


「た、楽しみです!」


「卵に牛乳に砂糖……そのまま口に入れた方が美味しいのじゃが、人間は面白い」


 私たちの視線はもうもうと水蒸気をあげる蒸し器に注がれる。

 配信で作った通りの簡単レシピだけど、上手く行くだろうか。


「団長! 毒味係じゃなくて、味見係と見物客を連れてきたでぇ!」


 火を止めてプリンを冷まし始めたタイミングで、サカイが現れる。

 思い返せば、ヒルダと一緒に買い出しに行っていたはずだったのだが、一人行動していたらしい。

 しかし、毒味だなんて失礼なことを言うやつだ。


「ひ、ひぃいい、俺たち、毒で殺されるんですか!?」


 サカイの後ろで青い顔をしているのは、さきほど私に土下座をした門番たちだ。

 完全に私が毒殺する方向で勘違いしている。

 料理で誰かを殺すなんて私の主義に反するんだけどなぁ。


「お姉ちゃん! お料理するんだってね!」


「こ、こら、ターシャ」


 見物客の中には私に卵をくれた女の子もいる。

 彼女をたしなめているのは、お父さんだろうか。

 

 ふぅむ、門番たちの怯え方を見るに、私の印象は未だに悪いままらしい。

 せっかくスライムを退治して感謝されたって言うのに。

 よし、そうなれば、プリンで悪名を返上するしかないよね。

 美味しいものを食べればみんなが笑顔になるはず。

 

「そろそろ食べてみよっか。まずは門番さんたちと一緒に」


 せっかくならお皿に載せて食べたいというわけで、プリンのふちにナイフをささっと入れて、空気を内側に入れ込む。

 こうすることで、プリンがいかにも、プリンって形でお皿に落とすことができるのだ。

 ふむ、手応え的にはしっかり固まっている感覚だ。


「フィオナ、あんたも手伝いな」


「ヒャッハー! 任されたぁっ!」


 一人でやっていても埒が明かないので、フィオナにも手伝ってもらう。

 この子は食事用のナイフでも性格が変わる。

 どうしてフォークでは豹変しないのか、まったくの謎。


「じゃあ、見ててね!」


 皿をプリンの容器の上に置き、勢いよくひっくり返す。

 恐る恐る容器を外すと、そこに現れたのはカラメルソースをまとった黄色いプリンだった。

 予想以上にちゃんとしていて、美味しそうだ。


「わくわくですねぇ! よだれが出ますよぉ!」


「ふぅむ、謎の食べ物じゃのぉ」


「けったいな料理やで……」


「なんだあの茶色いの!? 地獄みたいな色だぞ」


 団員たちも、そして、見物客も訝しげに見ている。

 唯一、ヒルダだけが舌なめずりをしているが、獣人で鼻がいいからだろうか。


「まずは私から食べるね」


 スプーンで恐る恐るひとさじ分すくう。

 ぷるんといい弾力だ。

 気泡も入っていない。

 卵が新鮮だったからだろうか。

 スプーンの上で震えるプリンを見て、ごくりと喉をならす。


 緊張の一瞬だ。

 みんなに見られているというのもあるけど、よく考えれば、プリンを作ったのは聖女がお菓子作りをするルートを潰すためだったのだ。

 ここで上手くできていないと、私たちは断頭台に一歩近づくことになる。


「……!! これは!! 美味しい!!!」


 口の中に入れると芳醇な甘味が脳天を貫く。

 卵や牛乳のコクも申し分ない。


 そして、何よりカラメルソースだ。

 やっぱりこれがないと始まらないよね。


「みんなも食べてよ! まじで美味しいから! さ、門番さんたちも早く!」


 私はプリンを皆におしつける。

 なんせ30個以上作ったのだ。

 この世界に冷蔵庫があるとは思えないので、すぐに食べてもらわないと困る。


「ひ、ひぃいい、食べますよぉ……ん?」


「俺、いつか結婚したかったよぉ……あれ?」


「……これは」


 三人はグズグズ言いながらもスプーンを口に入れる。

 すると数秒もしないうちに表情は一変。


「う、うまいっ!」


「こんなもん食ったことがないっ!」


 青ざめていた顔に急激に血が巡りだし、興奮で目を見開いている。

 この世界にどんな甘味があるのか知らないけど、庶民にまだまだぜいたく品だろう。

 そんななかでのプリン攻撃である感激するのも無理はない。


「あんたたちも食べなさい。ほら、みんなも食べて」


「いっただきまぁす! ……ごふじんしゃま、こりゃうみゃああ!」


「おおおお、美味しいですっ! 団長が毒以外作るなんて信じられないけど美味しい!」


「うまいのぉ、これは故郷のポルポルよりうまいのぉ!」


 団員達も歓声をあげる。

 ヒルダはもう少し食事のマナーを身に着けた方がよさそうだ。

 フィオナには軽くディスられている気もするけど、まぁいいか。

 

「お姉ちゃん、これ、美味しい! プリンって言うんだね! こんなの初めて!」


 さきほどのターシャちゃんも喜んでいる。

 スライムを退治した時以上の笑顔で。


 そう言えば、配信の時には自分一人でプリンを作って、自分一人で食べたんだっけな。

 別に寂しいって言うわけでもなかったけど、こうやって一緒に食べてくれる人がいるのは幸せなことなのかもしれない。


「団長様、このプリンとやらの作り方を教えてくださいませんか!」


「私からもお願いします! このカザフの街の名物にしたいんですわ!」


「な、なんで!?」


 プリンを試食した面々ががばりと頭を下げてくる。

 いや、プリンのレシピぐらいで大げさすぎない?


「くふふ、カザフの街の料理人を連れて来た甲斐があったでぇ」


 ここでほくそ笑むのはサカイである。

 どうやら彼女は料理人に声をかけて集めてきたらしい。

 なんていう手際の良さ。


 とはいえ、ゲームの主人公よりも先にプリンを広めるのは私にとって好都合だ。

 断頭台送りも遠ざかるだろうし、私の評判も少しはましになるだろう。

 プリン程度が広まっても世界に影響を与えることはないだろうし、いいことづくめ。

 私は料理人たちの申し出を快く受け入れるのだった。


「よし、団長様の強さを記念して、スカラ団長の地獄のプリンと呼ぼう!」


「お姉ちゃんの強さが溢れてるよ!」


「食えば魔物も逃げる縁起物だな!」


「毎年、恵方を向いて食べることにしよう!」


 しかし、その数秒後、私は思い切り後悔することになる。

 料理人たちは勝手にメニュー名を変更。

 素朴で美味しい卵プリンに、地獄の、などとつけやがったのだ。

 ちょっと待て、それじゃ私の印象が何も変わんないんだけど!?


 もう少し、優しい印象になるはずでしょうが!

 


「まぁまぁ、いいじゃないですか!」


「ぴ、ぴったりな名前ですねぇ」


「ところで卵の殻、食べていいのかのぉ?」


「ビジネスの匂い! 地獄プリンで一山当てるでぇ!」


 焦る私を前に、団員たちは相変わらずのマイペース。

 あんたら、少しは私の名誉を守ろうとか思わないのか。


「ご主人様! 明日は王都ですね!」


「そうだね、王都に帰ったらゆっくり……なんてしてられないよ!?」


 ヒルダの言葉に私はふたたび青ざめる。

 我々、第四騎士団は命令を受けて魔物討伐に来ていたのだ。

 もちろん、討伐の結果について報告をしなければならない。


 報告する先は第四騎士団に依頼を出した、モンテリオン公爵。

 つまりは……ゲーム世界で私たちに命令を下していた、あの悪役令嬢の親である。

 たぶん、きっと、あの子も現れるのだろう。

 あのお嬢様は、甘いものが大好きだったはずだ。


 これから起こる未来を想像すると、私の背筋には嫌な汗が流れていくのだった。




◇◇◇◇作者より◇◇◇◇


 いよいよ、王都に騎士団長たちが向かいます。


 悪役令嬢のお目見えとなりますが、だいぶ、癖が強い感じになりそうで怖いです。

 

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