第5話 悪役女騎士団長、悪名を挽回することを心に誓う


「ひ、ひぃい、戻ってきたぞ!」


「あれをやっつけたのか!?」


「バカ野郎、あんな化け物相手に無事なわけないだろうが!」


「逃げてきたんだろ、さすがの竜殺しもあれには敵わねぇよ!」


 スライムの残骸をあらかた片付けて、モンテリオン公爵領の公都カザフに戻る。

 我々が無傷で帰ってきたのを見て、どうやら戦わずに逃げ帰ったと門番たちは思ったらしい。


 確かに、アレを正攻法で退治するには凄腕の魔法使いがいないと難しいだろう。

 公爵の騎士団は弱くはないけど、相性がすこぶる悪いのは確かだ。


「あ、あのぉ、スライム、駆除したんですけどぉ」


 フィオナが詰め所の兵士たちに報告をする。

 堂々としていればいいのに、剣がないと急に縮こまってしまう。


「え、えぇええ!? ほ、本当ですか!?」


「あれ、普通のスライムじゃなかったですよ! 冒険者ギルドに応援を出す準備をしていたんですけど」


「ふふーん、ご主人様がずばっ、ばきっ、どかってやっつけましたよ!」


 件のスライムを駆除したと伝えると、兵士たちは目を丸くする。

 ヒルダは気をよくしてふふんと胸を張る。

 この子は発育がいいのでメイド服がはちきれそうである、何がとは言わないけど。


「さ、さすがは竜殺し様ですねぇ……さ、さっきはとんだご無礼を」


「た、助かりました……こ、殺さないでください」


「ひ、ひぃいい、俺たち、全員、殺される!?」


 さきほど軽口をたたいたことを反省しているのか、門兵たちはがばりと土下座をした。

 さすがはゲームの世界だ。

 日本の常識が色濃く反映されている。


 いや、こんなことで殺すわけないんだけど!?

 第四騎士団の評判、かなり悪いんじゃないの!?


「いやぁまぁ、そんなのいいよ。さくっとやっつけただけなんで! よし、みんな、行くよ!」


 非常にいたたまれない気持ちになり、私たちはさっさと公都の中に足を進めるのだった。

 うーむ、この悪名は払しょくしていかないとまずい気がする。


「ご主人様、今のでよかったんですか? いつも騎士団は舐められたら終わりなんじゃあって言ってたじゃないですかぁ」


「な、なに、その反社会的勢力みたいな口癖は!?」


「そ、そうですよぉ。小指ぐらい切り取るイメージだったんですけど」


「ば、バイオレンス騎士団長すぎる!!?」


 ヒルダとフィオナのおかげで私の過去が明るみになっていく。

 どうやら前世の記憶が復活したせいか、自分の過去の所業の記憶が相対的に薄れているらしい。

 

 ……いや、思い出そうとすれば浮かんでくるのも事実だ。


 しばらく前に舐めた態度をとった冒険者をす巻きにして首から下を埋めたことがあった気がする。

 もちろんただの仕置きで後から掘り起こしたけど(フィオナが)、思い出すと胃がきゅっと縮んだ。


 やばいぞ、うん。

 私のイメージ、普通に考えて最悪だよね。

 これから善行を積み重ねて、少しでもイメージアップを図っていこうと誓う。


「騎士団長のお姉ちゃん!」


 腕組みをしながら宿舎まで歩いていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、6歳ぐらいの女の子が私の裾を引っ張っていた。

 身なりからしてどこかの商家の子女らしい。


「あ、あのねっ、街道を使えるようにしてくれてありがとう! こ、これ、お礼!」


 彼女は私に籠を渡してくる。

 見やればその中にはニワトリの卵が10個以上入っている。


「いや、えと、どういたしまして? ありがと」


 あまりにもぐいぐい渡してきたので、思わず手に取ってお礼を言ってしまう。

 よくよく考えたら、騎士団が魔物を倒すのは通常業務であって、金品を受け取るものでもないとは思うんだけど。


「えへへ、じゃぁねぇ!」


 女の子は手を振りながら近所の商家へと入っていった。

 店の売りものじゃなかったらいいんだけど。


「それにしても卵をたくさんもらってしまったねぇ」

 

「ご主人様、ラッキーですね! ゆで卵がいいですよぉ! 半熟のトロトロのやつ!」


「わ、私はオムレツがいいです、えへへ、一度も上手くつくったことありませんけど」


「わしは生で殻ごとたべるのじゃ!」


「はぁーっ、これだから野蛮な武闘派は困りますわ。ポーチドエッグ一択やろ、常識的に考えて」


 団員たちは私の卵を囲んで、どう食べるかで盛り上がり始める。

 宿の主人に頼んで、各人が好きなように調理してもらおうかな。


 ……いや、それは悪手だな。


 今の私が誰かにお願いごとをする、イコール、パワハラを働くってことに近い。

 ともすれば、凶暴な女騎士団長が宿屋の主人に無理強いをした、などと噂されかねない。


「卵料理で、みんなが好きなものってあるかなぁ……? 」


 卵を眺めながらしばし歩くと、あることを思い出す。

 それは私がお料理配信で作った、とある料理だ。


 卵、砂糖、牛乳があれば作れる簡単だけど素朴な美味しさのあるお菓子。

 そう、プリンである!


「そうだよ! プリンを作れば……あのルートもなくなるかもしれない!?」

  

 さらにゲームの知識を思い出す。

 この世界では確か聖女がプリンの原型みたいな菓子を広める、パティシエール聖女ルートというのがあったはずだ。

 聖女がプリンで名声を高め、それに嫉妬した悪役令嬢が料理勝負を挑み、敗北。

 その結果、なぜか我々、第四騎士団が斬首されるというルートだ。なんだそれ。 


 逆に言うと、今この時点でプリンを広めたら、そのルートが消えるかもしれないのだ。

 私はパティシエールになるつもりはないが、やらない理由はない。

 

「よっし、みんな、私に任せなさいっ! プリンを作ってあげるから!」


 私はにんまり笑みを浮かべる。

 この世界にも砂糖はあるし、牛か山羊の乳なら流通しているはず。

 とびきり美味しい異世界のお菓子を作ってあげるよ!

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