第4話 悪役女騎士団長、もう一つの死亡フラグを看過する?

「う、うちの家族にですか?」


 サカイが怪訝そうに尋ねてくる。

 目の前にはスライムの残骸。

 片付けるのを面倒くさがった私はサカイに持っていってほしかったのだが。


「い、いやぁ、いらなかったらいいけど?」


 私は自分の言葉に後悔を覚える。

 欲張りなサカイでも、こんなゴミを持って帰るはずないか。


「だ、だんちょぉおおお! ホンマに、ホンマにごめんなさぁあああいっ!」


「な、なに、いきなり!?」


「う、うち、団長のことスパイするように依頼されてましたっ!」


「は?」


 サカイががばりと地面にしゃがみ込むと、そのまま土下座をする。

 うわ、懐かしいと前世の記憶のある私は思ってしまう。

 いやいやそうじゃなくて、今、サカイ、とんでもないことを言った気がするんだけど。


「うちの妹、パンデ病という、治療法の少ない流行病にかかってましてん……。その治療費を稼ぐために、見知らぬ怪しい男から仕事を受けたんですわ。団長の行き先を手紙で書いて送るように、って。相談するかずっと迷っていたんですが……」


 サカイはとつとつと経緯を話し始める。

 彼女がうちの騎士団に入ったのは半年以上前だ。

 最近になって、彼女に接近してきた人物がいるというのだ。


 これは明らかにスパイ行為だ。

 私はあることを思い出して、背筋がぞっと冷たくなる。


 確かに、あのゲームには「情報屋」というシステムがあったのだ。

 いくらかのお金を支払うことで、情報屋数名からゲーム攻略に有益な情報を引き出すことができた。

 情報屋はシルエットで示されていて、名前は明かされていない。


 しかし、そのうちの一人は明らかに関西弁だった。

 あれがまさかサカイだったとは!


「まじかよ……」


 私の中の暴力騎士団長が目の前のサカイを殴ろうと拳を握る。

 だけど、私はそれを理性で必死に抑え込む。


 私にはわからないのだ。

 なぜ彼女がスライムの残骸程度でそれを自白する気になったのか。


「団長はうちの家族にこのクラスタースライムの貴重素材をくれるって言いました。本当はわかってはったんですよね? この素材、希少な薬の元になるって。うち、こんなに優しい人を陥れるとかできません……」


 サカイは土下座の姿勢のまま、おいおいと泣き始めた。

 どうやらあの残骸、なかなかの素材だったらしい。

 さきほど言っていたパンデ病の特効薬になるような。


 なにそれこわい、何にも知らなかったんだけど。


「ど、どうか家族に薬を届けるまでは、お待ちください。その後は煮るなり焼くなり、好きにしてくださってええので……」


 確かにサカイの言うことが本当なら、彼女は内通という罪を犯したことになる。

 普通なら死罪とか、非常に恐ろしい目に遭うだろう。

 前世の記憶のある私にはかなり抵抗がある。


 それに、私は知っている。

 ゲームにおいてサカイは確かにスパイだった。

 しかし、それでも彼女は私たちと一緒に処刑されていたのだ。


 おそらくは口封じのためにサカイは処分されたとみていい。

 人の弱みにつけこんで裏切りをけしかけ、用済みとなったら切り捨てる。

 しかも、私たちの処断は正義と聖女信仰の名において実行されていた。

 まるで悪夢みたいな話だ。

 

「サカイ。頭をあげなよ。別に怒ってないから」


「ひ、ひぇええ、まだ、手紙自体は送ってないんですよ、命だけはお助けっ……って、ゆ、許してくださりはりますの?」


「そ、許す。——そのかわり、騎士団のためにこれからも頑張ってよ」


「だ、だんちょぉおおお!」


 サカイは泣きながら私に抱き着いてきた。

 この世界の常識からすると甘いんだろうなって思う。

 だけど、前世の記憶もあるし、何よりサカイは利用されただけでしかない。


 ハーフリングと呼ばれる種族の彼女は体つきが私よりも小さい。

 人間の子供ぐらいのサイズであり、かわいいなぁなどと不覚にも思ってしまう。

 

 同時に、私の中に炎のようなものが立ち上ってくる。

 これは怒りなのかもしれない。

 私たちの運命を裏で操ろうとしている人物がどこかにいるのだ。


 許せねぇ、マジで。

 

「ご主人様、何、ちちくりあってるんですかぁ!」


「だ、団長が職権乱用してる……!?」


「土下座させて、抱擁を強要させておるのじゃな」


 スライムを討伐した後、ヒルダ、フィオナ、ルドンの三人が周辺の探索から戻ってきた。

 あのスライム以外にも魔物がいないか確認してもらっていたのだ。

 だが、三人にはひどい言いがかりをつけられる。

 今までの私、そこまでパワハラ騎士団長だったのだろうか。恐ろしい。


「ご主人様、スライムの残骸に変なものが入ってますよ!」


「変なもの?」


「ほら、これです!」


 ヒルダはスライムの残骸にずぼりと手を入れると、何かを取り出す。

 ぶちっとちぎれる音と同時に現れたのは、深紅に輝く石だった。

 宝石に見えるが、禍々しい色をしている。

 ヒルダのやつ、よく素手で持てるな。


「こ、これは!? ヒルダ、ちょっと見せて!」


 サカイはヒルダの手のひらにある石を見つめる。

 しまいには、懐から虫眼鏡を取り出して入念に。

 スライムの残骸も希少素材だって言ってたけど、これも何かの素材だったりして?


「だ、団長、これ、進化の石ですわ」


「進化の石? 進化の石って……! な、なんでこんなところに!?」


 サカイの言葉にぎょっとしてしまう。

 進化の石って言うのは、魔力を強化するための希少素材だ。

 魔物がそれを体内に取り入れると、文字通り進化してしまう。

 ダンジョンに入れば天然のものが入手可能だった気もするけど、この近くにダンジョンはない。

 

 さっきのスライムは人工的に進化させられた?

 だけど、何のために?

 自問自答が頭の中に去来する。


「ご主人様、ヒルダが見つけたんですよ! 偉いですか?」


「偉い、偉い、ヒルダは偉いよ」


 石を見つけたことは大発見だと思う。

 私たちが生き残るためにも、これから起こるであろうルートを予想しなきゃいけない。

 内心、嫌な予感が渦巻きながら私はヒルダの頭を撫でてあげるのだった。

 尻尾をぶんぶん振る様は人狼族というよりも、犬に近い。 


「とりあえず、この石のことは私が預かるからね! 他言無用で!」


 団員にくぎを刺して、今日の討伐は終了することにした。

 とりあえず、私たちの情報が筒抜けになるって言う死亡フラグを回避したってことでいいのかな?

 序盤のフラグがスライムだけじゃなかったなんて、危ない所だった。


「やっとご飯ですよぉ!」


 ヒルダが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。

 そして、私自身もお腹が空いたことに気づくのだった。


 ……ゲーム世界でまともなご飯はあるんだろうか?


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