第2話 悪役女騎士団長は、この世界で生き抜くと決意する
「今から街道に行くよっ!」
私の名前はスカラ・スピッツベルゲン。
悪名高き第四騎士団の団長だ。
私は焦っていた。
なぜなら、前世でのゲーム知識で私の命の灯火が消えかかっているのを知っているからだ。
「えぇええ、でも、街道に出たのは、普通のスライムですよぉ? ご主人様、雑魚モンスター嫌いじゃないですかぁ?」
ケモミミの女の子は訝しげな顔をする。
彼女の名前はヒルダ・ウルフガルド。
私のことをご主人様と呼ぶのは、私のメイド兼騎士団の団員だからだ。
彼女とは郷里も同じ地方で、子供のころからの知り合いだ。
私がスライムなんぞに躍起になっているのに違和感を覚えたのだろう。
「え、ええと、何だ、そのぉ、街道が使えないと領民の人が困っちゃうでしょうが! 平和が一番だし!」
街道に出るために無理やり言い訳をひねり出す。
そう、私は第四騎士団の団長だ。
騎士団は王国の平和を守るために存在する。
今回、派遣されたのも地域の治安維持のためなのである。
「領民が困る……!?」
「へ、平和が一番……!?」
「こりゃあ、相当、打ちどころが悪かったんじゃのぉ」
ヒルダとフィオナの二人は私の言葉に思いっきり首を傾げる。
一つ目玉のルドンは手を顎の下において、何度もまばたきをした。
なんなんだ、何で私が治安を憂いたら問題があるんだろうか。
私だって騎士団長だ。
志くらい、あったはずだ。
……あれ?
少しだけ目を閉じると、瞼の裏に浮かんでくるのは荒ぶる私の姿だ。
強敵を日夜求め、武器を片手に突っこんでいく。
血にまみれ、泥にまみれ、不眠不休で戦い続ける。
うわ、私、やばいやつじゃん……!
百合ゲームでは「王国最強の女騎士」と言われていたのを覚えている。
悪役だからこそ、そんな風に箔をつけていたのだろうと思っていた。
しかし、現実では実際に凄腕の戦士だったのだ。
それも戦闘ジャンキーの狂戦士、一番、生まれ変わりたくないやつだ。
フィオナたち三人が訝しげな視線を送っているが、無理もない話だ。
これまでの私、ただのやべーやつでしかない!
「ええやん、ええやん! 治安守るのが一番大事なことですやん! 領主からも感謝されて、がっぽりですやん!」
扉を開けて新しい人物が現れた。
前世で言う所の関西弁っぽい訛りで喋るのは、サカイ・スミヨーシンだ。
彼女はハーフリングという小柄な種族で戦闘員ではなく、物品の調達や事務仕事のために在籍している。
隣国に住む家族のために出稼ぎしている、苦労人女子でもある……はずなのだが、言葉の端々から金の亡者感が伝わってくる。
「がっぽり入るかは分からんぞい。儲けもぬるっとしとるかもしれん、スライムだけに」
一つ目玉のルドンがくけけと笑いながら、面白くもない冗談を言った。
こいつ、普通に魔族だよなぁ、よく昔の私、仲間に引き入れたな。
「あはは、ルドンさん、面白い!」
「ぷ、ぷはははは! お、お腹痛いですよぉ」
しかし、お腹を抱えて笑うヒルダとフィオナ。
うちの騎士団、一癖も、二癖もある奴ばかりなんだが大丈夫なのか。
「とにかく、真面目なご主人様なんて絶対におかしいですよぉ!」
「あ、明日は天変地異が来るとかですか……?」
「全くじゃぞ、この狂戦士がまともなことを言うはずがないのじゃ」
ヒルダたち三人は私に異変が起きているとかたくなに主張する。
心配されてるんだろうけど、普通にディスられている気もする。
「それはそうやな。団長のくせに治安維持とか、うちも耳疑ってるし、実は正気失ってるんちゃう?」
いや、サカイも普通に正気を疑っていた。
く、なんだこいつら。
ひょっとして、私のことが嫌いなんだろうか。
元のゲーム世界では女騎士団長とその仲間たちはいつだって一緒にいた。
連携をしているというか、五バカというか、仲だけは良さそうだったのに。
「いいですか、ご主人様! 竜殺しのご主人様は王国の、いや、世界の宝なんですよ!」
「そ、そうですよ。団長に無理があったら、私たちどうしたらいいんですかぁ」
「無理は禁物じゃぞ、死んだら終わりじゃ」
「死ぬこと以外かすり傷、言いますやん。死んだら大損ですわ。今日は休みましょ」
4人は身を起こした私を無理やりベッドに押し戻す。
彼女たちは私のことを嫌いなのではなかった。
信頼しているからこそ、無理をして欲しくないと訴えているのだ。
配信者をしているとき、私は個人勢でやっていた。
横のつながりもほとんどなしで、基本的に個人プレイばかりしていた。
なぜかって?
友だちがいなかったから。
内弁慶な性格で、ゲームコラボの依頼すら出せなかった。
だからわかるのだ、こうやって自分を心配してくれる仲間がいるありがたさを!
そして、だからこそ私は起き上がらなければならない。
ゲーム知識が確かならば、ここで街道のスライムを始末しないと、現実はシナリオ通りに進んでいく。
主人公は悪役令嬢に目を付けられることになり、その結果、私が駆り出されることになる。
その行く末は断頭台。
前世のゲーム画面が脳裏に浮かぶ。
ギロチンの刃に首を落とされるのは、私だけではない。
私たち5人全員が命を落とすのだ。
背筋に冷たいものが流れていく。
私の今の判断に彼女たちの運命が載せられているのをひしひしと実感した。
「や、やっぱり行くよ! うちらにかかればスライムなんざぁ、朝飯前でしょうが!」
私は四人を押しのけると、ベッドから跳び起きた。
壁に立てかけてあった武器を持つと、急いで街道へと向かうのだった。
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