百合ゲーの悪役女騎士団長に転生した私、迫りくる死亡フラグを全部へし折ります
海野アロイ
第1話 私が悪役女騎士団長!?
「そこをどけっ!」
それは訓練中のことだった。
模擬戦をしていた団員の木剣が折れてしまったのだ。
凄まじい打撃のせいか、木剣の破片は他の作業をしている団員の元へ飛んでいく。
気づいた時には走り出していた。
いくら木剣とは言え、死角から頭に当たったら命に関わる。
間に合え、間に合わせるんだ。
祈るように脚に魔力を込める。
「あれ?」
私の差し出した剣は木剣に命中した。
そこまでは良かった。
しかし。
粉々になった木剣が私の額に飛んできて——。
私の視界は一瞬でブラックアウトする。
輪ゴムでスイカを爆発させた配信以来の衝撃だ。
……ん?
配信ってなんだ?
輪ゴムってなんだ?
「うひゃあああ!?」
情けない悲鳴と共にがばりと身を起こす。
私がいるのはベッド、それも、家のベッドじゃない。
非常に質素な作りで、あんまりふわふわしていないベッドだった。
「えっと、なんだこれ!?」
何が起きているのか分からず、指をぐーぱーと握ってみる。
生きている、現実だと思う。
だけど、何かが違う。
えっと、私って何だっけ。
確か、訓練中に飛んできた木剣を叩き落そうとして……。
「あつつ……」
思い出そうとするだけで頭が痛いし、体もしびれている気がする。
手のひらで触ってみると、頭に大きなこぶができているらしい。
この痛み、現実だよね。
うん、わかる、わかるけど、私ってさっきまで配信していたはず。
だから、配信って何だよ。
えっと、そりゃあ、えーと。
「ご、ご主人様!? 起きてたんですか!?」
額を抑えながら現状把握をしているとドアが突然開いた。
そこにいたのは、十代半ばぐらいのメイド服の女の子。
彼女は私を指さし、目を丸くして叫んだ。
「はい?」
私はというと絶句していた。
なぜかって?
だって、女の子の黒髪から犬みたいな耳がぴょこんと出ているのだ。
最初はケモミミメイドのコスプレ……?
しかし、よく見るとぴょこぴょこ動いている。
令和最新版仕様なら、そういうのあるのかな?
いや、待て待て、なんで私のことを知ってるんだろ。
「ご主人様、頭、大丈夫なんですか!?」
「え、えっと、ご主人様って、何?」
「何言ってるんですか、ご主人様はヒルダのご主人様じゃないですかぁ!」
「ヒルダ?」
「やばい、絶対におかしいですよ!? 他の人、呼んできます!」
彼女——ヒルダというらしい——はだだだと駆け出し、部屋からいなくなってしまう。
相変わらず人の話を聞かない女だ。
そんなのだから、飛んできた木剣の破片に気づかないのだ。
……あれ?
なんで私はそれを覚えているんだろう?
それにご主人様?
私が彼女のご主人様?
なんでだっけ?
頭がずきずきと痛むが、おぼろげながら記憶が鮮明になってくる。
私は訓練をしていたのを覚えている。
さっきのヒルダに木剣の破片が飛んできて、直撃しそうになっていた。
私はそれを打ち返した。
それが運悪く頭に当たったのだ。
その衝撃のせいだろうか、あることを思い出した。
何を?
この世界じゃない、別の世界の記憶を。
そう、私は配信をしていたはずなのだ、ついさっきまで。
三徹でエナジードリンクを飲みながら、高難易度のゲームに挑戦していたはず。
「だ、だんちょぉおおお! 意識が戻ったんですかぁああ!?」
「フィオナさんも確認してください!」
記憶の混濁に頭を抱えていると、再びドアが開かれる。
さきほどのケモミミ少女と一緒に現れたのは、胸当てをつけた女騎士然とした女の子だ。
彼女は騎士服を着ているものの、八の字眉毛で気の弱そうな表情をしていた。
「だ、団長? 団長ってなにそれ」
「ほらぁああ、やっぱりおかしいですよ! 記憶が飛んでます!」
「う、うわぁ、どうしよ、当たり所が悪かったんですかねぇ!?」
団長なる呼び名に目を白黒させる私。
さっきはご主人様だったのに、今度は団長。
どうなってるんだ。
「えぅ、いいですか、団長、えっと、あなたは団長ですよ。栄えあるミッドガルド王国の第四騎士団の団長ですよ」
「だ、だいよんきしだん!?」
「そ、そうですぉ、思い出してください!」
フィオナと呼ばれた女の子が私の肩に手を置いて、じっと瞳を覗き込んでくる。
青く澄んだ瞳は少しだけ涙で潤んでいて、私を心底心配している気持ちが伺える。
そう、フィオナは少し臆病な所はあるけれど、根は正直で、優しい性格なのだ。
剣を持つと人格が変わるのがかなり厄介ではあるんだけど。
「あれ? フィオナ?」
突如として脳内に鮮明な何かが流れ込んでくる。
この世界で生を受けて、騎士団に入り、ついには第四騎士団の団長を拝命した時のことを。
仲間を募り、少数精鋭で騎士団を組織した日のことを。
そして、気づく。
「あ、私、スカラだ……」
自分の正体に気づいてしまった私は愕然としていた。
私の名前はスカラ・スピッツベルゲン、確かに第四騎士団の団長だ。
しかし、スカラは決して正義のミカタではない。
こないだまでやっていた百合系のゲームに出てくる哀れな悪役。
そう、悪役女騎士団長だったのだ。
百合ゲームの主人公の邪魔をしても、ことごとく失敗する、最強最弱のやられ役。
「嘘……でしょ……!?」
私は再びベッドに沈む。
どうか、夢であってくれと願いながら。
◇
「気付け薬いっきまぁす!」
「うぐご!? な、何、今の!? ……って、夢じゃないんかい!?」
本当なら意識がブラックアウトして、しばらくは寝ているはずだった。
しかし、私の部下たちはそれを許してはくれない。
口の中に感じるのは強烈な唐辛子の辛み。
おかげで目を覚ましたけど、こんな気付け薬は間違ってる。
「だ、団長、大丈夫ですか!? 突然倒れたので、びっくりしましたよぉ!」
「ご主人様、二度も意識を失わないでください! 次は殴りますよ!」
私を起こしてくれたのは、ケモミミメイドのヒルダと、女騎士のフィオナだ。
二人から心配な気持ちがひしひしと伝わってくる。
しかし、唐辛子で無理やり起こすのはどうなんだ。
いや、そんなことを言ってる場合じゃない。
やばいんだよ、だって、私はこの世界で前世の記憶を取り戻してしまったんだ。
ここは私が過去にやっていた百合ゲームの世界だ。
主人公は聖なる力を持った聖女の女の子。
そして、私は彼女を邪魔する悪役令嬢の下っ端なのだが、扱いがひどいのだ。
その百合ゲームはファンの間では、『女騎士団長殺しゲー』とまで言われていた。
この私、スカラがありとあらゆる酷い目に遭い、仲間もろとも断頭台送りにされるのだ。
フルコンプした私は知っている。
断頭台送りになるルートだけで、かなりの数があったはずだ。
「ふむふむ、やっと起きたようじゃのぉ」
私が自分の運命に愕然としていると、ドアからふよふよと丸い物体が現れる。
球体には大きな一つ目が付いており、その後ろには蝙蝠の羽が生えている。
荒唐無稽なデザインで、前世の私なら腰を抜かしていただろう。
だが、不思議なことにその喋る物体に見覚えがあった。
「ルドンさん、やばいんですよ! ご主人様がぼんやりしてます!」
「き、気付け薬飲ませたのに、キレて殴りかかってこないんなんて怖い……」
ヒルダのおかげで記憶が鮮明になってくる。
目の前にいる一つ目球体の名前はルドン。
彼(彼女かもしれない)は魔族ではあるが、第四騎士団の団員なのである。
「ふぅむ、木剣の破片と一緒にわしの怪光線も当たったからのぉ」
体の違和感はこいつのせいだったらしい。
なんだか腹が立ってきた。
一発、殴ってやろうかな。
いや、焦るな私。
まずは現状把握からだ。
「ルドン、今日って何日?」
「ふむ、今日は3月30日じゃぞ」
「そっか、3月……さんじゅうぅううう!?」
前世のゲーム知識が正しいなら、今はまだゲームが始まる4月以前にいることがわかる。
あのゲームは主人公の聖女が学園に1週間遅れで入学するところから始まるのだ。
「まぁまぁ、ご主人様、とりあえず安静にしてくださいよ」
「そ、そうですよぉ。化け物みたいに頑丈な団長でも、死んだら死にますよぉ」
ヒルダとフィオナの心遣いは素直にうれしい。
だけど、私の心臓は早鐘を打ち始めていた。
私はゲームの主人公が入学式に出られなかった理由を知っているからだ。
彼女は「とある街道に出た魔物」のために足止めを喰らっていたのである。
そのことを悪役令嬢に伝えると、とある街道は悪役令嬢の領地であり、彼女の家を侮辱したと目をつけられることになる。
早い話、ここが一つ目の私の運命の分岐点だということ!
「今から街道にいくよっ!」
痛む頭を抱えながら、私はベッドから体を起こす。
急がなければ、私たちは断頭台送りになってしまう!
◇ 作者より
ずっと書きたかったゲーム世界転生ものです。
百合好きの方も、そうじゃない方も、笑えて元気の出るお話にしたいと思います。
応援していただければ幸いです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます