第3話


 「お邪魔しまー……す」


 重い扉を開いて、ギルドの内部を見回す。

 そこには多種多様な装備を身に付けた冒険者たちが、酒を飲んだり、仲間と依頼を確認したり、と賑わいを見せていた。


 (子供の姿だからか、誰も彼も大きいな)


 ちょこちょこと縮こまりながら受付まで向かう。


「こんにちは、小さなお客さん、依頼ですか?」

「こんにちは、冒険者登録をしに来ました」


 瞬間、ざわりと周囲がざわめきたつ。

 受付嬢も目をぱちくりさせ、困ったように眉を下げた。


「十五歳未満の方が冒険者登録をするにはB級以上の推薦人が必要となります」

「それは困ったな……試験官を用意することは?生憎と、この街には来たばかりなので冒険者の知り合いはいないのです」

「出来ないこともありませんが……、分かりましたギルドマスターに相談してきます」


 受付嬢は奥の廊下へと姿を消し、その場にロアだけが取り残された。


 そこに、ガタイのいい冒険者の集団がロアの前に現れた。


「おうおうガキんちょ、お前冒険者になりたいのか??」

「無理とは言わねーが、ちびっ子はやめといた方がいいぜぇ?薬草採取の依頼だってゴブリン程度の魔物は出るしぃ〜」

「憧れるのはいいがなぁ、歳を取れば引退だ。もっといい職があると思うぞ」


 絡まれるのかと思ったが、なんだこいつら、俺を心配しているのか……?その強面で……。

 言い方と顔は腹立つが、言葉からはロア……子供を心配する気持ちが滲み出ていた。


「ご心配ありがとうございます。……ですが、俺を待っている人のためにも後には引けないんです」


 よよよ、と涙を浮かべるようにしてロアは目元を拭った。勿論、一雫でさえ浮かんでいない。


「故郷に恋人でもいるんかねぇ」

「そういやぁ、俺にも有名な冒険者になったら結婚するって約束した幼馴染がいたなぁ……マリーちゃん元気かなぁ」

「やめろよぉ俺まで泣けてきたわぁ」


 こっちは号泣である。


「ギルドマスターを連れてきまし……何やってるんですか」


 えっぐえっぐと涙する冒険者達に、戻ってきた受付嬢はドン引きするような目を浮かべて立ち尽くす。いい人達なのに……不憫だなぁ。


 で、受付嬢の後ろにいるのが、恐らくギルドマスターだろう。


「……君は」


 ギルドマスターらしき男は一瞬目を見張ると、口を噤んだまま固まってしまった。

 まさか、魔力を制御していることがバレたか。いや、そんなはずは。


「いや、すまない、知り合いに似ていたんだ。気にしないでくれ」


 男はニコラスと名乗った。ここパトレア支部のギルドマスターであり、元A級冒険者でもあるらしい。

 涼しげな目元にはアイスブルーの瞳が添えられており、中々の美丈夫である。……若い頃はさぞかしモテただろうなぁ。


「それで、試験官を用意してもらうことはお願いできますか?」

「あぁ、問題ない。しかし、実力がなければ冒険者登録は十五歳になってからにすることだ」

「えぇ」


 試験官を用意さえして貰えれば、ロアの合格は間違いない。

 しかし、あまりにも余裕そうだったからか、怪訝な表情を浮かべられた。少しは不安げな演技も必要だったか……。


「はぁ……試験官は俺が務める、失望させてくれるなよ」

「ギルドマスター直々ですか?有難いですね」

「なに、確かめたいことがあるだけだ」


 『着いてこい』とニコラスに指示されて、大人しくついていくロア。案内された先はギルドの裏手、結構広い訓練場が広がっていた。

 

「お前は剣士じゃないだろう?というか、魔法使いだな」

「よく分かりましたね!」

「お前のその体躯で剣を持つって言った方が可笑しい」

「……貶されてる?」

「見た目の問題だ」


 投げられた訓練用の杖をキャッチし、ニコラスは木剣を手にする。ニコラスは剣士か。


「試験内容は俺に一撃でも入れたら勝ちだ。それじゃあ、

 ――はじめ」

「おっと」


 ニコラスは剣を構えると、有無を言わせずに距離を詰めてくる。


 鼻先に剣心が伸びて来たのを後方に飛んで交わし、拳サイズ程の石礫をニコラス目掛けて投げつける。


 魔法には三種類ある。

 属性魔法と自然魔法、そして精霊魔法だ。


 今さっきニコラスに向かって投げつけた石礫は、訓練場の石を魔力で結合させた自然魔法だ。自然魔法はその場にある物質を魔力を使って、変質・操作を行う魔法である。


「【火球ファイアボール】」


 そして属性魔法、これは火属性の初級魔法【火球】と言って魔力から物質を生み出し魔力で操作する魔法だ。自然魔法よりも魔力での工程が多いことから、属性魔法の方が魔力を消費しやすい。しかし、威力は断然属性魔法の方が大きい。


 そして、もう一つ利点を上げるとすれば、応用の効きやすさだろう。


「【火球ファイアボール】」


 ロアがそう唱えると空中に小さな火の玉が六つ浮かび上がった。


「【風槍ウィンドランス】」


 ここに、風属性の魔法も追加し、先程の【火球】に被せる。

 二つの魔法が融合し、風属性の速さを持った【火槍】が生まれた。小さな竜巻のように回転する【火槍】は針のように鋭い勢いでニコラスに襲いかかる。


「子供とは思えない魔力操作だな……」

「今どきの子供はこれくらい出来ますよ、それに初級魔法ですし」

「末恐ろしいな」


 ニコラスはというと、自信に降り注ぐ【火槍】を木剣で真っ二つに切って、威力を落としたところで、剣の風圧で消滅させていた。うん、凄い力技だ。逆に清々しくすら思える。


「本気を出す気はないな」

「ニコラスさんが?」

「とぼけるな、"お前が"に決まってるだろう」


 流石ギルドマスター、いや元A級冒険者と言ったところか、手を抜いている事はバレバレらしい。さてさて、このままだとニコラスに一撃入れるのも厳しそうだ。


 (でも、出来れば初級魔法のみで相手にしたいんだよなぁ)


 何故か初級魔法にこだわるロア。変なところにこだわるのは魔法使いの性である。


 初級魔法の強みは、初心者でも発動できる魔力操作のしやすさと魔力消費の少なさだろう。

 中級魔法一つを打つよりも、初級魔法を多数発動させた方が戦略の幅も効くし、何より長時間戦うことが出来る。魔法使いにとって何よりも恐るべきことは魔力切れだ。


 (魔力の使いすぎも、もしかしたら子供の身体に不可が掛かるかもだし……少なければそっちの方がいいんだよな)


 うん、やっぱり初級魔法で一撃入れるしかない。


 「速さ、かな」


 威力を限界まで削ぎ落として、速さに極振りした【火槍】を撃ち込む。【風槍】はさっきよりも高密度に、より鋭利に、とにかく回転率を底上げしよう。


「考え事か?隙だらけだぞ」

「――……【風槍ウィンドランス】に多重強化を追加、補助魔法で魔力操作を円滑にして【風球ウィンドボール】の発動する風圧で速度上昇……それなら発動速度をもっと早めて……」


 ニコラスが正面にいるにも関わらず、ロアはニコラスの姿を瞳には映していなかった。

 剣が振り落とされるギリギリのところを【魔力障壁】で弾き返しながら、自身の身を守っている。


「出来た」


 感情の抜け落ちた表情でロアはそう呟くと、ニコラスに杖を向け、唱えた。


 

「――【火槍】ファイアランス


 

 

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