第2話
「困ったなぁ……」
異国の地に飛ばされて一日目、ロアは早速行き詰まっていた。
「側近の仕事で言語関係は心配していなかったけど、まさかアレシアの硬貨が使えないなんて……」
金を持っていないということで、門前払いをされたロアは少し離れた場所から街の城壁を眺めていた。
アレシア皇国は北の地を治める大国である。ある程度距離があっても周辺諸国であればアレシアの硬貨は流通していたはずだが……、どうやらかなり南の方へと転移してしまったらしい。
「入市税として銀貨一枚を払わなきゃ街には入れないしなぁ」
しかし、手持ちの金が使えないのなら服や装備に食料、地図だって手に入らない。この先も出費は少なからずあるし、金を稼ぐ方法は確立させておいた方がいいだろうな。
「金を稼ぐ方法か……」
「え〜っと、そこの君」
「ん?」
「こんなところに一人?親御さんは?」
声をかけられた方へと顔を向けると、そこには一人の男が立っていた。
気弱そうに垂れた眉毛に、薄く生えた顎髭。祖国ではあまり見ない、東洋風の軽装は物珍しい。雰囲気からは商人だろうか。
「親はいない、です。訳あって無一文になっちゃって、街に入れないんです」
(今は、子供だからな。子供らしい口調で話さなければ)
「……それは、大変だね。良ければ僕の商隊に混ざる?この街を拠点にしてるからある程度顔が効くんだ」
『どうかな?』と、男はニコリと笑みを浮かべながら首を傾げた。
(……この男は、本心からそう言っている。悪い人間には見えないな)
長年、笑顔の下に裏の顔を持つ貴族社会の、腹黒いものたちを相手にしてきたからこそ、この男はあの者達とは『違う』と確信した。警戒するに越したことはないが、少しくらいは信頼してもいいだろう。
「お世話になります」
「うん、子供一人じゃ危ないからね。僕は商人のマシュー、よろしくね」
「俺はロアです」
「ロア、向こうで僕の商隊が待っているんだ。そこに着いたら君の服とか身だしなみを整えようね」
言われてハッと気がつく、そう言えば元の服を適当に切ってサイズを合わせていたんだった。裾引きちぎれてボロボロだ。
「ありがとう、ございます」
羞恥やら恥ずかしさを隠すように顔を背けたが、耳まで赤くするロアをみて、くすりとマシューは笑みを浮かべた。
こ、この姿になってからまともに自分の姿だって見ていないんだ……っ!し、仕方ないだろう!
ーーーー
「あら……マシュー、その子は?」
「えっ……と、拾ったというかなんというか……」
「犬猫ならまだしも、まさか人まで拾ってくるなんてね、マシューの拾いぐせは相変わらずね……ケリー、子供服はあったかしら?」
「あるっすよ〜、ついでに水浴びの準備もしとくっす」
馬の繋がれた大きな荷車には二人の男女がいた。
一人は気が強そうな、ブロンド髪の女性カレン。大人の色気を放つ佇まいは実に魅力的である。もう一人は、軽快な口調の少年ケリー、見た目からはロアよりも四〜五歳程歳上に見える。
ケリーの手で身綺麗にしてもらい、子供服に着替えさせられたロアは、改めて三人と向き合った。
「ほぉ……綺麗な人は何を着ても似合うね、ねぇカレン」
「そうね、ちゃんと整えればそれなりになるじゃない」
「俺、女の子かと思ってヒヤヒヤしました……」
「ふふっ、ケリー、びっくりして固まっていましたもんね」
『仕方ないじゃないっすか〜!』と顔を赤くしてわぁわぁと喚くケリー。うん、からかいがいのある少年だ。
『それで……』と、マシューが話を切り出す。
「ロアは街に入ったらどうするの?」
「取り敢えずは働き口を見つけようかなと、『冒険者ギルド』に行ってみるつもりです」
『冒険者ギルド』大陸全土に支部を持つ、冒険者の為の組織である。
国からは独立しており、個人情報は秘匿していても何も言われない。更に、冒険者ライセンスがあれば身分証がないロアでも国境を渡ることができる。
「ロアはまだ小さい、お金を稼ぐなら僕の商隊に居てもいいのに」
マシューが心配するのもそうだ、普通の職業とは違い依頼で生計を立てる冒険者は、ときに実力不足で魔物と戦い命を落とす事も多々ある。子供となれば尚更だろう。
「ありがとうございます。でも、俺には――待っている人がいますから」
そう、ロアが目的としているのは祖国への帰還だ。
生き延びることではない。
「そうか、それなら仕方ないね。でも、街にいるときはいつでも俺たちを頼ってね、あとこれ、この国に入れば何か融通がきくかもしれないから」
マシューは胸ポケットから金属プレートを取り出しロアへと手渡した。
プレートには羽ばたく小鳥と蔓草模様が彫られている。そう言えば、このデザイン荷台にも描かれていたな、商隊のシンボルだろうか。
「『パピルス商会』は、街の大通りに店を構えているんだ、良ければ来てね」
「冒険者ギルドとも偶に取引をしているの、必要なものがあれば見てらっしゃいな」
街の中へと入ると、マシュー達はギルドまで送り届けてくれた。
ほんの半日程度だったがいい人たちだった、と、泣いて離れないケリーを引き剥がしながら荷台から降りる。
「もちろんです、落ち着いたら顔を見せに行きますね」
離れていく荷車に手を振って、ロアは正面へと目を向けた。
まるで国境付近にそびえ立つ、堅牢な要塞のような建物。
間違いない、ここが、
――冒険者ギルド パトレア支部
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