軍師無双〜皇帝の忠臣は幼児化しても最強です〜

ときたぽん

第1話


 ――アレシア皇国

 

 皇帝の間。


「へ……、いか。ご無事ですか」


 皇帝の右腕として生きてきて早二十年以上。最期は主君の腕の中で……と思っていたが、こんなに早く叶うとは人生何が起こるか分からない、いや死ぬ訳でもないけど、と俺、ロア・ヴァルターはどこか他人事のようにそんなことを考えていた。

 

「お前は自分の心配をしろ!!早く医者を呼べ!!……まて、ロア……これは」


「これは……まさか、転移魔法……!!」


 魔法陣が展開され、転移の魔術式がロアの身体に書き込まれる。まるで呪術のようだ。

 近衛騎士に取り押さえられた一人の男が呟いた。


「俺のありったけの魔力を注ぎ込んだ……っ、不完全でどこに飛ぶかは俺にも分からんがな!!」


 直後、ゴフッと男は血を吐いて気を失う。なるほど、皇帝暗殺の為に命懸けでこの魔法を発動させたのか、陛下を庇って正解だったようだ。


「申し訳ありません、陛下。もう防ぐだけの魔力は……」


「なに、今生の別れではないだろう?必ず俺の元に帰ってこい、俺の忠臣ならな」


「えぇ、必ずや。陛下、これを」


「これは?」


「肌身離さず持っていて下さい、私がいなくても貴方の身を守ってくれるはずです」


 主君……アルベルトに左手に嵌めていたブレスレットを手渡した。銀装飾の美しいものだ。中央部にはエメラルド色の宝石がはめ込まれている。

 

「それは形見の……、それなら俺からも」


「王家の秘宝でしょう、それは」

 

 手渡されたのは、アルベルトの指に嵌め込まれていた深いマゼンタ色をした指輪、王家の守護竜を召喚できる王家の秘宝だ。

 

「この国に必要不可欠なお前が死んでもらっては困るだろう」


「そこまで言っていただけるなら、仕方ありませんね」


「あぁ……、そろそろだな」


「えぇ……、陛下もお気をつけて」


 ロアの身体に直接書き込まれた魔術式が、みるみるうちに光り輝く、そして一層光は輝き、ロアはあまりの眩しさにぎゅっと目を瞑った。


 (凄い!長い!ここまで対空時間の長いものは初めてだ!)


 地に足がつかない浮遊感に襲われる。暫くして、揺れが収まるとロアは森の中で転がっていた。


「い、たたた……ここはどこだ」


 目の回る視界、空高く生い茂る深い木々、その隙間から除く散りばめられた星々。……幼い少年の声。


「幼い、声……?――……俺小さくなってる?!?!」


 ロアは川の水面に映る自分の姿に声を失った。

 ぽってりとした柔らかな頬に、くりっとした緑がかったヘーゼル色の瞳。艶やかな黒髪は肩口で切り揃えられている。三十代にして周りから童顔だと言われた顔立ちはさらに幼くなって、女性的愛らしさも追加されたようだった。


(この姿だと、大体12歳くらいの頃かな……声変わり前だし)


 もしかして、転移の影響だろうか?不完全な術式を身体に書き込まれたせいで何らかの影響が出てしまったのか。どちらにせよ、後々調べる必要がありそうだ。


「陛下のくれた指輪は……嵌めてある、サイズが自動で調整されるとは便利だなぁ」


 右手の薬指にはアルベルトのくれた指輪がチカチカと存在感を放っていた。

 しかし、王家の秘宝だ。我が身を守ってくれるものとは言え盗まれてしまっては困る。

 

(……本当に危機に陥った時以外は使わないようにしよう。)


 指輪を擦りながら、ロアは辺りを見回した。

 転移の滞空時間から予想するにかなり遠くまで飛ばされたみたいだが、森の中ではどこの国にいるのかさえ分からない。

 手始めに、街に行って地図を買う必要がありそうだ。


「魔法は……問題なく使えるか」


 ボ……ッと音を立てながら手のひらから赤い炎が灯された。

 子供になってしまったが、魔力そのものには影響はなかったみたいだ。


「人前では魔力を制御しないと、これじゃ目立つかな……」


 そもそも、この世界では魔法使いは大陸人口の約四割程だと言われている。


 魔法使いにもピンからキリまでいて、生活魔法と言った攻撃魔法以外の魔法しか使えない者から、一人で一国家の戦力となる者まで様々だ。

 因みにロアは国お抱えの魔法使いであり、軍師でもある。


 力のある子供の魔法使いとなれば、面倒事に巻き込まれるのは火を見るより明らかだ。


「うん、本当に気をつけよう。もし本気でやるにしても俺がやったって事を全力で隠蔽しよう」


 ロアはそう固く誓ったのだった。


 

 

「――……陛下、生きて祖国に帰りますから。どうか、ご無事で」






 ーーーー

(アルベルト視点)


「……ロア」


 腕に抱いていた温もりが消えた事に、胸の内がぎゅっと締め付けられる。


 アレシア皇国は大陸の四分の一を占める北の大国である。大陸で最も長い歴史を持ち、先代より帝政を掲げてきたが、国土や人の数が多ければ多いほど、反乱を企てる者がいるのも確かだ。そして、その全てを対処するにしても、手の届かない時もある。


 今回もまた、もう何十回目となる皇帝暗殺を目的とする奇襲であった。

 異なっていたのは、暗殺者の中に高位の呪術師や魔法使いがいたこと。そして、護衛として控えていたアルベルトの忠臣、ロアがアルベルトを庇いこの場からいなくなってしまったこと。


「この前、腰をやったとか言っていたような……全く、若くないんだからはしゃぎ過ぎていないといいんだが」


「愚問でしょう。あの方なら一国でも軽く吹き飛ばして帰ってくるのでは?」


「おぉ、ソイル来たか」


 ソイルと呼ばれたアルベルトの側近は、その手に黒い何かを引きずりながらアルベルトの元へとやってきた。


「首謀者か?」


「はい、恐らくは反皇帝派の差し金かと」


「ふむ、俺は此度の件で大変腹を据えかねている。我が忠臣を……親愛を一時であるが失ってしまった……」


「……つまり?」



「少々調子に乗りすぎなお花畑共の芽を潰しに行こうかな、とな」



 ソイルは背筋が凍え、ブルリと身震いをした。

 目の前のアルベルトは冷笑を浮かべながら、猛烈な殺気を部屋全体に放っている。


 (あぁ……あの者達は絶対に怒らせてはいけない人を、怒らせてしまったんだな)


「俺は暫くここに籠る、皆にも上手く伝えてくれよ」


「はッ――」


 ソイルは黒いそれを引き摺りながら、執務室から出ていった。


「ロア……」


 ただ、皇帝の焦がれるような声だけが、部屋の中に落ちた。


 

  

 

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