第63話
📘 第63章:静かなる解散
⸻
(復讐の火を消すことは、
火を点けることよりも、遥かに勇気がいる。)
⸻
🔷 【墓前の問い】
新太の葬儀から一週間後。
透也(とうや)は一人、海を見下ろす墓地に立っていた。
そこには「黒峰新太」の名が刻まれた新しい墓石がある。
「……結局、お前は幸せだったのか?」
透也は問いかける。返事はない。
ただ、墓石の周りには、生前の彼に救われたという人々からの手紙や花が山のように供えられていた。
⸻
『ありがとう』『あなたのおかげで救われました』
その言葉の数々が、透也の胸に重くのしかかる。
もし、NOISEが「正義」を振りかざして、彼が元犯罪者であることを暴露していたら、この感謝の言葉たちはどうなっていたろうか。
彼の善行を否定し、救われた人々の心まで踏みにじることが、本当に光生(みつき)の望んだことだったのか。
「……俺たちの戦いは、もう『時代』に追い越されたのかもしれないな。」
透也は、冷たい海風に吹かれながら、ある決断を下していた。
⸻
🔷 【NOISE解体宣言】
その夜、地下アジト。
透也はメンバー全員を集め、静かに告げた。
「本日をもって、NOISEを解体する。」
その言葉に、部屋の空気が凍りつく。
「解体……? 本気かよ、リーダー。」
甲斐(かい)が眉をひそめる。
「ああ。新太の死後、世論はRE:CODEを完全に受け入れた。今、我々が動けば、ただの社会悪として排除されるだけだ。」
⸻
透也は、佳乃とミカゲの方を見た。
特にミカゲは、まだ加入して3年。権力者への怒りは消えていないはずだ。
「……納得できませんね。」
予想通り、ミカゲが低い声で噛み付く。
「俺は復讐のためにここに来た。榊原を刺すまでは終われない。」
「刺してどうする? お前が捕まれば、妹の楓莉(ふうり)ちゃんはどうなる?」
透也の言葉に、ミカゲが言葉を詰まらせる。
⸻
「ミカゲ、佳乃。……お前たちは、潜れ。」
「え?」
「武力やテロで社会を変えるフェーズは終わった。これからは、情報戦だ。……榊原の不正、RE:CODEの闇、それらを時間をかけて暴き、社会的に抹殺するんだ。……10年かかってもいい。」
透也の瞳には、諦めではなく、より強固な意志が宿っていた。
「俺たちが『NOISE(雑音)』ではなく、確かな『声』として世界に届く時まで……牙を研げ。」
⸻
ミカゲはしばらく透也を睨みつけていたが、やがてフッと息を吐き、佳乃と顔を見合わせた。
「……10年、か。……気が長い話だが、最高のご馳走(復讐)を作るには、熟成期間も必要か。」
佳乃もニヤリと笑う。
「了解。……地下深くまで潜って、とびきりのネタを集めておくわ。」
⸻
🔷 【それぞれの道】
「甲斐、お前はどうする?」
「俺か? ……ま、紋之丞のカフェで壊れたコーヒーメーカーでも修理しながら、のんびりやるさ。薬の研究も、これからは『治す』ために使うよ。」
甲斐は肩をすくめる。
そして、透也は紋之丞と灯(ともり)に向き直った。
「紋之丞、灯。……真羽と光明を頼む。あの子たちが、俺たちの生きた証だ。」
「……ああ。任せろ。」
紋之丞が力強く頷き、灯も涙ぐみながら微笑んだ。
こうして、反政府組織としてのNOISEは、その幕を閉じた。
⸻
🔷 【心の番人】
数ヶ月後。
街の一角に、小さなメンタルクリニックが開業した。
看板には『朝比奈カウンセリングルーム』の文字。
デスクに座る透也は、もう黒いコートを着ていない。柔らかな白衣に身を包み、訪れる人々の話に耳を傾けていた。
「……辛かったですね。」
患者の言葉に寄り添うその表情は、かつての復讐者ではなく、妹・光生がそうであったように、人の痛みを癒やす者の顔だった。
⸻
「先生、お茶が入りましたよ。」
ドアが開き、中学生になった真羽がトレイを持って入ってくる。
彼女は学校帰りに、こうして透也の手伝いをしていた。
「ありがとう、真羽。」
「どういたしまして。」
真羽の笑顔は、光生によく似ていた。
新太という光と影を失った世界で、それでも彼らは生きている。
武器を捨て、憎しみを置き、透也は「心」を守るための新しい戦いを始めていた。
⸻
🔚 第63章・完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます