第49話

📘 第49章:琥珀色の面影


(その瞳の強さは、あの日失った妹によく似ていた。)



🔷【1ヶ月目 – 悪夢とホットミルク】


NOISEが『Café 琥珀』の地下に潜伏して、最初の1ヶ月。


月陽(つきひ)は毎晩のように泣いて目を覚ました。


「いやぁ……! パパ、ママ、いかないでぇ……!」

地下室に悲痛な叫びが響く。


透也はそのたびに胸を締め付けられたが、どう声をかけていいか分からず、ただ拳を握りしめることしかできなかった。


そんな時、決まって「コツコツ」と重い足音が階段を降りてくる。


「……うるせぇぞ。」

紋之丞(もんのじょう)だ。

彼は不機嫌そうに眉を寄せながら、手には湯気を立てるマグカップを持っていた。


「……ほら。特製ハニーミルクだ。飲んだらさっさと寝ろ。」


月陽は泣きじゃくりながら、カップを受け取る。


その小さな手が震えているのを見て、透也はハッとした。

泣いているのに、カップを握る指には力がこもっている。


(……光生も、そうだった。)


かつて妹・光生が、辛い時に決して弱音を吐かず、こうして唇を噛んで耐えていた姿と重なったのだ。



🔷【2ヶ月目 – 受け継がれた「強情さ」】


生活が落ち着き始めると、月陽は地下室の中を探検し始めた。


真田が銃の手入れをしていると、月陽がじっと見つめる。


「危ないからあっちに行ってろ」と言われても、月陽はテコでも動かない。


「……納得できないと動かない。その強情さ、誰に似たんだか。」

甲斐が苦笑いする。


透也は、懐かしさと痛みが入り混じった目でそれを見ていた。


(……母親譲りだよ。)


「お兄ちゃん、私は絶対に引かないからね!」

かつて、NOISEの活動方針を巡って透也と喧嘩した時の、光生の真っ直ぐな瞳。


月陽の瞳の奥には、確かにあの時の妹が息づいている。



🔷【3ヶ月目 – 小さな看板娘】


そして、現在に近い3ヶ月目。


月陽は、ある決意をして階段を登った。

カランコロン♪


昼下がりの『Café 琥珀』。客足はまばらだ。


「……おい。勝手に上がってくるなと言ったろ。」

カウンターの中で、紋之丞が渋い顔をする。


透也も慌てて止めに入った。

「月陽、戻りなさい。ここは危ない。」


しかし、月陽は透也を見上げて、きっぱりと言い放った。

「イヤ! 私も働く!」


「月陽……。」


「パパとママがいない間、みんなにお世話になってるもん。……ただ守られてるだけなんて、イヤだ!」

その言葉に、透也は言葉を失った。


『お兄ちゃんに守られるだけの妹なんて、イヤよ! 私も戦う!』

過去の光生の声が、脳内でリフレインする。


ああ、やっぱり親子だ。

守られることを良しとせず、自分の足で立とうとするその姿勢。


透也は降参したように息を吐き、そして優しく微笑んだ。

「……分かった。でも、無理はするなよ。」


「うん!」


紋之丞も、透也の様子を見て何かを察したのか、フンと鼻を鳴らした。


「……生意気なガキだ。ほらよ、エプロンだ。」

「わあ……! ありがとう、モンちゃん!」



🔷【空席への約束】


その日の夕方。


エプロンをつけた月陽は、カウンターの隅にある「予約席」のプレートを丁寧に磨いていた。

そこは、誰も座らない席。

でも、毎日綺麗にされている席。


「……パパと、ママと、灯ちゃん。」

月陽は指折り数える。


「いつか帰ってきたら、ここに座ってもらうの。モンちゃんの美味しいコーヒー、飲ませてあげるんだ。」

その横顔は、夕日に照らされて輝いていた。


泣き虫で甘えん坊だった少女は、この3ヶ月で「待つ強さ」を身につけていた。


透也は、月陽の頭を撫でた。

「……ああ。きっと喜ぶぞ。」


(光生。……お前の娘は、強いな。)

(俺たちが、必ず……この子の未来を守り抜くからな。)



🔷【そして、その時が来る】


「いらっしゃいませー!」

月陽の元気な声が店内に響く。

常連客の老人が、目を細めて手を振る。


すっかり「看板娘」が板についてきた頃。


地下室のモニターが、ある信号(灯からの返事)を捉えようとしていた。


平穏な日々の終わり。


そして、奪還への狼煙(のろし)が上がる瞬間が、すぐそこまで迫っていた。



🔚 第49章・完

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