第43話

📘 第43章:欠けた灯火(ともしび)


(この歪な家族には、

あの子を包み込む「光」が足りない。)



🔷【NOISE隠れ家 – その夜】


深夜。

月陽を寝かしつけた後、大人たちは別室の粗末なテーブルを囲んでいた。

空気は重い。


作戦の失敗、新太の喪失、そして灯の残留。

失ったものの大きさに対し、得られた成果(月陽の確保)をどう守り抜くかが議題だった。


「……あの子、うなされてたな。」

真田が缶コーヒーを握りつぶしながら呟く。


「無理もねぇ。一晩で両親を失って、知らない場所に連れてこられたんだ。……俺たちの顔を見るだけで、怯えてやがる。」


甲斐が痛む脇腹を押さえながら、悔しそうに顔を歪めた。


「俺が……もっと強引にでも、灯ちゃんを連れ出していれば……。」


「あそこで無理をすれば、月陽が死んでいた。……お前の判断は間違っていない。」

透也が静かに諭すが、甲斐の表情は晴れない。



🔷【育児という壁】


「でもさ、現実問題どうするの?」


佳乃(gyudon)がモニターから顔を上げ、冷徹な事実を突きつける。


「ここにいるのは、不器用なおっさん三人(透也・真田・甲斐)と、ネット弁慶の私、それに世間知らずのアイドル(ルカ)だけ。」


「6歳の女の子……それも、深いトラウマを負った子のケアなんて、私たちにできるわけないじゃん。」

その言葉に、全員が沈黙する。

事実、さっきまで月陽が泣いた時、誰も適切に抱きしめることすらできなかった。


「……ママ。」

月陽が泣きながら求めたのは、沙耶のことではない。


あの時、必死に自分を守り、優しく抱きしめてくれた看護師――白石灯のぬくもりだ。



🔷【灯の必要性】


「……あの子には、灯が必要だ。」


透也が、確信を持って言った。


「月陽が知っている『優しい世界』の欠片を持っているのは、今はもう灯しかいない。」


「俺たちがどれだけ嘘で守ろうとしても……母親代わりになれる存在がいなければ、あの子の心はいつか壊れる。」


甲斐が顔を上げる。


「なら……奪い返しに行くのか? 今すぐに。」


透也は首を横に振った。


「今は無理だ。RE:CODEは警戒レベルを最大まで上げている。今突っ込めば、今度こそ全滅する。」


透也は地図を広げ、RE:CODE施設の図面を指でなぞった。

「だが、必ず取り戻す。……時間はかかるかもしれない。数ヶ月、あるいは数年……。」

「それでも、あの子が大人になる前に、必ず灯を連れ戻す。」



🔷【ルカの決意】


「……私も、手伝う。」


部屋の隅で聞いていたルカが、小さな手を挙げた。


「私、ママにはなれないけど……お姉ちゃんにはなれると思う。」

「灯さんが帰ってくるまで……私が月陽ちゃんの手を握ってる。いっぱいお話しして、寂しくないようにするから。」

「だから……パパたち(・・・)は、灯さんを助ける準備をして。」


「パパたち」と呼ばれ、真田と甲斐が少しだけ苦笑いし、そして真剣な顔に戻った。



🔷【次なる目標】


「……上等だ。」


真田が立ち上がり、銃のメンテナンスを始めた。


「俺は元刑事だ。潜伏と準備なら得意分野だ。……必ず道を開けてやる。」


甲斐も頷く。


「俺も……医療班として、月陽ちゃんの心のケアを続ける。次に灯ちゃんに会った時、『いい子に育ったね』って言ってもらえるようにな。」


佳乃がキーボードを叩き始める。

「じゃあ私は、灯さんの生体反応をモニタリングしとく。……結城に殺されないよう、監視の監視をしてやるわ。」



🔷【遠い約束】


透也は窓のない壁を見つめ、遠く離れた施設にいる灯へと思いを馳せた。

(待っていてくれ、灯。)

(俺たちは諦めない。この歪な家族(NOISE)に、お前というピースが埋まるその日まで。)

作戦は失敗した。

けれど、彼らには新しい、そして明確な目的が生まれた。

月陽を守り、育て、そしていつか「母」を迎えに行く。

長い潜伏の日々が、ここから始まろうとしていた。



🔚 第43章・完

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