第36話

📘 第36章 : 奪還への影



(誰を救うのか。誰を救わないのか。

その選択が、いつも一番残酷だ――。)



🔷【NOISE仮拠点 – 作戦会議】


2051年2月。夜。


地下会議室のホログラムモニターには、改訂者専用区域の立体図が投影されていた。

赤く点滅するのは警備ライン。青い光点は監視カメラ。

そして中央に浮かぶのは――“黒峰家”と記された居住区。


部屋には重い沈黙が満ちていた。


「……月陽の部屋と、新太の部屋が隣接している。」


佳乃が指先で区域図を回転させる。


「ミカゲが残したバックドア経路なら、廊下セキュリティを10分間ダウンできる。でも……」


真田が冷たく継いだ。


「……その10分で二人を奪還するのは不可能だ。」


透也は腕を組み、静かに目を閉じた。


「……月陽優先だ。」


短く告げられた決断。


佳乃が冷たい声で呟く。


「新太は?」


透也は瞳を伏せた。


「……状況次第だ。」


「状況?」


「……あいつがECHOを発現すれば……記録改訂制度を崩壊させる鍵になる。」


佳乃は無表情でコード解析を続けながら言った。


「でも……あいつは光生さんを殺したんだよ?」


沈黙。


真田が低く吐き出す。


「奴を助ける意味はあるのか?」


甲斐が席を立ち、端末を閉じた。


「……あいつは改訂されてる。だが、完全に戻れば……“理想の父親”ではなくなる。」


「つまり?」


「月陽を守れる存在ではなくなる。むしろ、危険だ。」


室内の空気が張り詰めた。



🔷【透也の決断】


(……だとしても……)


透也は拳を握り締めた。


(光生……お前なら、どうする……?)


「……新太は、最終ターゲットだ。

月陽奪還を最優先とし、彼がECHOを発現した場合のみ回収する。」


真田は静かに頷いた。


「了解。」



🔷【改訂者専用区域 – 灯の独白】


同刻。

白い廊下を歩く灯の靴音だけが響いていた。


ナースステーション横の窓から見える居住区。

ソファーに小さく丸まって眠る月陽の姿があった。


(……ごめんね、真羽ちゃん……)


拳を握り締める。


(あと1ヶ月……あと少しで……絶対に、ここから連れ出すから……)


思考の奥に、新太の顔が過る。


(……新太さん……)


胸が痛んだ。


(あの人も……本当は……)


瞳を閉じると、過去の記憶が蘇る。


柔らかく笑う光生。

その隣で不器用に笑う翔真。

そして、幼い真羽を見つめる二人。


(……家族だったのに……)


唇を噛む。


(でも……NOISEは……あの人を助けるとは言わない……)


その時、ナースステーション奥から沙耶の冷たい声が響いた。


「白石さん、配膳後の検温、まだですか?」


「……はい。今、行きます。」


灯は小さく頭を下げ、カルテを抱え直した。


(……でも、私は……)


(誰も……置いていかない……)



🔷【黒峰家 – 夜】


ソファーで眠る月陽の隣。

新太はゆっくりと座り込み、その髪を撫でていた。


(……この子……泣いてた……)


ぼんやりと、脳裏に微かな映像が浮かぶ。


――泣き叫ぶ少女。


――自分を見上げる、怯えた瞳。


(……誰だ……これは……)


胸の奥がひどく痛む。


(分からない……分からないけど……)


乾いた涙の跡が残る月陽の頬を撫でる。


(……泣かなくていい……)


(もう、泣かなくていいから……)


しかし、その手は震えていた。


(俺は……誰だ……?)



🔷【作戦まで】


(奪還作戦まで、残り30日――。)



🔚 第36章・完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る