第37話

📘 第37章:潜入の夜明け



(夜が明ける。その時、全てを奪い返すために――。)



🔷 【NOISE仮拠点 – 最終作戦会議】


2051年2月下旬、夜。


地下会議室。


ホログラムモニターには、改訂者専用区域の立体図が投影されていた。赤く点滅する警備ライン。青く光る監視カメラ。そして中央には、“黒峰家”の居住区が静かに光っていた。


部屋の空気は重く張り詰め、誰も口を開こうとしなかった。



佳乃は、指先でスクロールするコードラインを凝視していた。


(……ミカゲ……あんたのコード、完璧だったよ。)


思わず、短く息を吐く。


(でも……もし失敗したら……この作戦で死ぬのは、私たちだけじゃない……)


手首の簡易心拍計が140を超えていた。


(落ち着け……gyudon……いつだって最速で解いてきた……あんたが見てる。だから――)



真田は腕を組み、黙ってモニターを睨んでいた。


その額には、うっすらと汗が滲む。


(……月陽奪還。作戦自体はシンプルだ。だが……新太……いや、翔真が……)


瞼を閉じると、公安時代に見た殺害現場が蘇る。血と硝煙と嗚咽。


(……同じ過ちを繰り返すわけにはいかない……)


短く息を吐き、指先で腰のホルスターを確かめた。


(……任務だ。護る。それだけだ。)



ルカは、テーブル端で膝を抱え込んでいた。


手元のタブレットには、配信用のコメント欄が開かれている。


“ルカちゃん、大丈夫?”

“NOISEの光、届けてくれてありがとう”


(……ごめんね……みんな。私、配信してる場合じゃないよね……)


涙が滲んだ。


(でも……この子だけは……月陽ちゃんだけは……助けたい……)



甲斐は無言で座り、目の前のカルテ画面を閉じた。


(……泰輔……いや、翔真……君が壊れる姿を、何度も見てきた……)


脳裏に浮かぶ、血に染まった診察室。止められなかった、無数のECHO発現者。


(……今度こそ……助けたい。灯のためにも……)


小さく震える指先を握り締めた。



透也は、椅子に座ったまま目を閉じていた。


(光生……お前なら、どうする……?)


瞼の裏に浮かぶ、妹の笑顔。


(あいつは……お前を殺した男だ。それでも……月陽にとっては……父親だ。)


静かに目を開け、部屋を見渡した。


「……作戦決行は、48時間後だ。」


低く絞り出すような声。


「……各班、最終チェックに入れ。」



🔷 【改訂者専用区域 – ナースステーション休憩室】


同刻。


灯は、小型端末を膝の上に置き、光生の写真を見つめていた。


白衣のポケットから覗く、細いペンライト。夜勤続きで乾燥した手指。疲労で霞む視界。


(光生さん……私、やっと……あなたに追いつけるかな……)


その時、ドアが開く音がした。


沙耶だった。


「白石さん、こんな時間に何してるの?」


「……少し、休憩を。」


沙耶は端末に視線を落とし、冷たい微笑を浮かべた。


「灯さん?何かを悩んでいるの?いつも、思い詰めているわよね。完璧でいたいと思わない?そうすれば……苦しまなくて済むでしょう?」


灯は黙ったまま、視線を伏せた。


(あなたの“完璧”は……誰のため……?)



🔷 【黒峰家 – 夜】


6畳のリビング。


月陽は、布団の中で小さく震えていた。


「ママ……パパ……やめて……」


泣き声混じりの寝言。


新太は隣で座り込み、月陽の頭を撫でていた。


(……誰だ……この声……誰だよ……俺は……俺は……)


瞼を閉じると、ぼんやりと映像が蘇る。


――泣き叫ぶ幼い少女。


――涙を流す女性。


胸が鋭く痛んだ。


(……やめろ……やめてくれ……)


瞳に光が滲んだ。


(月陽……泣かなくていい……もう、泣かなくていいから……)


しかし、その手は微かに震えていた。


(俺は……誰だ……?)



🔷 【作戦カウントダウン】


会議室に戻った透也は、全員を見渡した。


「……48時間後。全てを取り戻す。」


誰も、声を発しなかった。


その代わりに、全員が深く頷いた。



(誰を救うのか。誰を救わないのか。


その選択が、いつも一番残酷だ。


でも――)



(夜が明ける。その時、全てを奪い返すために――。)



🔚 第37章・完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る