第17話
📘 第17章:雑音の系譜
⸻
🔷 【2035年 設立回想】
静かな会議室。
古びた木目調のテーブルに、数人の人影が集まっていた。
「……名前は?」
透也の問いかけに、光生がノートをめくりながら微笑んだ。
「“NOISE”。」
「雑音、か。」
隣で腕を組む真田剛志が呟く。
「でも……記録改訂って、完璧な音楽を作るみたいなものでしょう?
記憶や人格を編集して、“理想の人間”を作る。
でも、人間は雑音があるからこそ人間だって、私、そう思うの。」
光生の声は柔らかく、しかし強い芯を帯びていた。
「奪われた記憶や感情を、ノイズとして取り戻す。
それが、この支援グループの名前。」
透也は妹を見つめ、わずかに笑った。
「……いい名だ。」
⸻
🔷 【2039年 – 支援活動の日々】
医療ボランティアとして診療室を訪れた灯は、いつものように包帯を補充していた。
(光生さん……)
奥の診察ベッドでは、光生が幼い少女の髪を撫でている。
「怖くないよ、大丈夫。」
少女は震えながらも、光生にだけは心を開いていた。
(この場所があるから、あの子たちは生きていける……
光生さんがいるから、私はここで頑張れる。)
ふと振り返ると、壁には手書きのポスターが貼られていた。
《NOISE – 記録改訂者支援グループ
医療支援 / 生活相談 / 記憶安定化サポート》
灯はポスターに指先で触れ、小さく息を吐いた。
(雑音……
でもこの世界には、きっと必要な音。)
⸻
🔷 【光生とルカ】
診察室の奥。
光生は診察台の上で泣きじゃくる少女にガーゼを巻いていた。
「ルカちゃん、大丈夫だよ。今日は痛くしないからね。」
少女は涙を溜めた瞳で光生を見つめ、小さく頷いた。
(あの子……
本当はすごく怖いはずなのに……)
灯はルカのカルテに目を落とした。
【名前:天音ルカ
年齢:6歳
記録改訂処置歴:なし(経過観察中)】
光生が優しく言った。
「ルカちゃんは偉いね。痛いの、ちゃんと我慢できた。」
「……みんな、いなくなるの……」
掠れた声。
光生は微笑み、額に手を置いた。
「ルカちゃんは大丈夫だよ。私がいるからね。」
⸻
🔷 【光生と翔真の結婚】
診療室を出た灯は、廊下でカルテ整理をしていた光生に声をかけた。
「光生さん、今日のシフト、お疲れ様です。」
「ありがとう、灯ちゃん。」
その左手薬指に光る細いリングに、灯は気付いた。
「……それ、結婚指輪ですか?」
光生は恥ずかしそうに笑った。
「うん。最近、籍を入れたの。」
「えっ……あの、不破さんと……?」
光生は頷いた。
「びっくりだよね。でも……この人なら、大丈夫だって思ったの。」
そう言って微笑む光生の瞳には、決意と僅かな不安が混ざっていた。
灯はその横顔を見つめ、胸が締め付けられるのを感じた。
(……どうか、幸せでいてください。)
⸻
🔷 【甲斐の接触】
2046年夏、光生殺害から1週間後。
古い診療所跡地の外階段。
透也は薄い夜風に髪を揺らしながら、建物を見上げていた。
「朝比奈透也さんですね?」
背後から静かな声がした。
振り返ると、黒髪を後ろで束ね、細身の眼鏡をかけた男が立っていた。
「……あんたは?」
男は静かに名刺を差し出した。
【甲斐 仁 – 元RE:CODE研究所協力医師】
透也は一瞥し、目を細める。
「研究所の人間が……何の用だ。」
甲斐は夜風の中、微かに震える声で言った。
「不破光生さんのことです。」
透也の胸奥に、鋭い痛みが走った。
「……何を知っている。」
「すべてです。」
甲斐の瞳には恐怖と決意が宿っていた。
「彼女の最期と……この制度の真実を。」
⸻
🔚 第17章・完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます