第5話 別れ5



「私、帰るね。……じゃ」


コートとバッグを持って立ち上がり、伝票を手にする。

誠二は伝票を私から優しく取った。

一瞬、誠司の指が私の手に触れる。



「……俺が払っとく」


「……」


「最後だから」


誠二の明るい笑顔だった。

彼の最後の優しさ。

だから私も微笑んだ。


「じゃあ、お言葉に甘えて。ご馳走様でした」


私は頭を下げると店を出た。

店を出てから一度だけ店内を振り返る。

誠司が立ち上がり帰ろうとしている所だった。

何か急に寂しくなって、鼻の奥がツンと痛くなる。

涙が出そうになった。

誠司が席を離れレジに向かう。

私は彼に会わないように、自分のアパートへ早足で帰った。


帰宅してから、コートを掛け、すぐにお風呂を溜めた。

ベッドに座り、バッグから携帯を取り出す。

私は何となく誠二のLIFEを読み返したりして、ため息をついた。


『中村誠司』のチャットをブロックし、アドレスのページも削除しようと表示……


削除のボタンをタップする。

-削除しますか?-の文字。


私は決定ボタンに指を置いた。

だけど最後の誠司の笑顔が脳裏に浮かぶ。


私は決定の文字に親指を置いたまま……動けない。


別れたのに。

別れたのに、何で、私…。


私は携帯にまだ誠司の名前を残したまま携帯を置いてしまった。

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