第2話(佐倉視点)

最初に会ったとき、

彼に特別な印象は持たなかった。

仕事の打ち合わせの席で、

感じはよく、

必要なことを、必要なだけ話す人。

声のトーンは落ち着いていて、

言葉選びに無駄がない。

質問は的確で、

相手の話を遮らない。

自分の意見もはっきり言う。

仕事をする上では十分。

打ち合わせは滞りなく終わり、

資料をまとめる手間も少なかった。

「この案件、やりやすそうだな」

そんな感想だけが残った。


次に顔を合わせたのは、数週間後。

同じ案件の進行確認だった。

「今日もよろしくお願いします」

軽く会釈して、

私は席に着く。

彼も同じように会釈を返した。

やり取りは前回と変わらない。

スムーズで、無駄がない。

仕事として、とても楽だった。


打ち合わせが終わり、

全員で会議室を出る。

エレベーターホールに向かう途中、

同僚と並んで歩きながら、

何気ない会話。

「今日は娘さんもう帰ってるの?」

「ううん、部活だからまだだと思う」

「何部だっけ?」

「茶道部。

 本人はお菓子が目当てとか言ってるけど」

そんな、他愛もない会話。

特別なつもりはなかった。

後ろを歩く彼が、

それを聞いていたかどうか。

確かめることはなかったし、

気にも留めなかった。

その日は、そこで解散した。


しばらくして、

その日も、打ち合わせは予定通りに終わった。

資料を片付けながら、時計を見た。

18時。

ふいに、近くにいた彼が言った。

「このあと、

 もしお時間、合いそうでしたら」

一瞬だけ、間があった。

「近くで、

 コーヒーでもいかがですか?」

たぶん断っても、

空気が悪くならない距離感。


今までなら、断っていたはずなのに、

私はほんのちょっとの時間、

でも、このあとのタスクに支障がないかをしっかり考えてから、

「少しなら」と答えた。


それが、

はじまりだった。

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