ほろ甘いコーヒーをあなたに
NOZ
第1話(娘視点)
玄関のチャイムが鳴った。
「……あ、来たね」
私はそう言って、玄関に向かう。
ママはちょっと息を吐いて、ガチガチの顔を何とかしようとしていた。
別に緊張する必要はないのに、ちょっとかわいい。
ドアを開けると、 そこに彼が立っていた。
スーツじゃない。 でも、きれいめ。 手には、紙袋。
「はじめまして。
ママとは打って変わって、
場馴れしてるような、ただただスマートな挨拶に、
実は紙袋を持つ指先がそれなりにこわばってることも、見逃すくらい、
面食らって、見つめてしまった。
月瀬と名乗った男性——ママから聞いて、もう知ってるんだけど——は、わたしに爽やかな笑顔を返してきた。
「どうぞ」
ママが相変わらず緊張しながら言う。 彼は特に迷う素振りもなく、
「ありがとうございます、お邪魔します」
と言って、靴を揃えた。
いっそ、
邪魔すんなら帰ってー
とでも言ってやりたくなるくらい、スムーズだった。
リビングに入って、 私と目が合う。
改めて、
「いつも、
まだ、苗字で呼びあってんのか?この2人…
なんとなく、
「わたしも佐倉なんですけどね」
と、皮肉交じりの冗談を言ってしまった。
彼は
「確かに、そうですね?」
と、疑問形と再びの爽やかスマイルを返してきた。
私は何とも言えない表情になるのを堪えながら、笑顔を返したが、筋肉は思い通りに動いてくれなかったと思う。
彼は笑みを絶やさないまま、 紙袋を差し出した。
「……心ばかりのものですが」
中身は、わたしの好きな店のシュークリーム。
そういえば、前も貰ったな。
私は一瞬だけ彼を見て、 それからママを見た。
ママは、 あいも変わらず緊張した笑顔を顔に貼り付けていた。
——え、ママよりだいぶ年下って聞いてたけど、落ち着きすぎじゃない?
私はそう思いながら、 お茶を淹れに立ち上がった。
——これは…審議
棄却か採択かは、まだ決められない。
そんな出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます