第7話 IT’S ENTERTAINMENT!

そして、俺の演技指導が始まった。

一ヶ月という短過ぎる撮影期間に合わせてトレーナーが作ったスケジュールは異常なまでに細かく、トイレに行く時間すら決められていた。

まさに地獄のスケジュールである。

「もう嫌だ!」などと文句を言っても、全く聞き入れてもらえず、無理矢理スケジュールをこなさせられる。

逃げ出そうとしても、ホテルのセキリュティは厳しく、逃走は屈強なガードマンに阻まれる。


いつしか逆らうのは無駄と諦めた俺は、粛々とスケジュールをこなした。

疲労で思考は回らず、ただ淡々と言われた事だけをした。

昨日はサラリーマン役を。

今日は老人役を。

明日は女子高生役を演じる。

ついには日替わりどころか、時間割で老若男女を代わる代わる演じる。

次第に自分が誰だか解らなくなっていく。そんな気分を味わった。


そして一ヶ月後…。やっと一ヶ月後…。

ついに、【俺の映画】第二弾が完成した。

やっと、解放される…。

疲れ果てた俺にはもう、それし考えられなかった。



結果として…。

【俺の映画】第二弾は、失敗だった。

当然の結果だ。

俺は所詮、素人だ。

俳優じゃない。

しかも撮影期間は一ヶ月。

良い作品など、創れるはずが無いのだ。


更には、良くも悪くも社会の中で一度は話題となった『俺』。

しかし映画の失敗の二度目となれば、忙しなく変わる世間の話題の中での『俺』はもう既に、飽きられ始めていた。


世間の目が『俺』から離れていく。それ自体は俺にとっては僥倖だと言える。

しかし『俺』を【モデル第一号】とした彼らにとって、それは好ましくない展開だったのだ…。



第十二回『憲法改正に係る新規モデル事業検討会議』にて。


「で、次の改善策はあるのかね?」

「はい、それはもう当然。」

「ほう…。」

「時代はそう、エンターテイメント。エンターテイメントなのです。映画だけじゃありません。アニメにゲーム、動画配信。社会に影響を与えられるものは、まだまだたくさんあります!」

「なるほど、アニメ化か!」

「さらに、ゲームとな!」

「はい。計画はすでに進行中です。お任せください。」

「うむ。予算なら十分にある。頑張りたまえ。」

「はい!」

万雷の拍手が会議室を包む。

「必ずや、必ずや、あの【モデル第一号】の彼が世間から忘れられることのないよう、社会に刻みつけてみせましょう!」



第十六回『憲法改正に係る新規モデル事業検討会議』にて。


「このアニメの脚本は私が書いたんだよ。孫のアイデアを参考にしたんだ。これは売れるはずだ!」

「この場面の声優、私が演じたんだ。いやぁ楽しかった。」

「主題歌は私が唄いますよ。カラオケで鳴らした自慢の喉を披露しましょう!」

「バックコーラスは、あの人気アイドルグループに頼みました!」


「時間も人手も足りない? 何を言っているんだね。金はあるんだ。これは国家事業なんだよ。人手も場所も片っ端から確保すればいいだろう。」


「納期に間に合わない? 死ぬ気で働かせろ。これは国家命令だ。」


「所詮、アニメもゲームも子供向けの程度の低いコンテンツ。金払いさえ良ければ下請け会社も文句は言わないでしょう。」



結果として。

アニメもゲームも惨敗だった。

ゲームは、高価格で低クオリティのクソゲーとして伝説に残る事となった。

アニメは、『1話切り』どころか『5分切り』というワードを生み出したほどの低レベル映像作品として扱われた。


アニメもゲームも、それらを創るのに、どれほどの時間と手間と情熱を費やさねばならないのか。どれほどの苦労があるのか。

それを奴らは理解していない。


札束で頬を叩くような真似をして、契約で相手を縛り付けて、やりたくもない仕事をさせられて、満足な納期も与えずに、やれクソゲーだの、やれ低レベルアニメだのと世の中から不名誉な称号を与えられて!


これが物語への侮辱でなくて、なんだと言うのだ!


しかも制作費用は全て税金からだろ、これ!

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