第7話 IT’S ENTERTAINMENT!
そして、俺の演技指導が始まった。
一ヶ月という短過ぎる撮影期間に合わせてトレーナーが作ったスケジュールは異常なまでに細かく、トイレに行く時間すら決められていた。
まさに地獄のスケジュールである。
「もう嫌だ!」などと文句を言っても、全く聞き入れてもらえず、無理矢理スケジュールをこなさせられる。
逃げ出そうとしても、ホテルのセキリュティは厳しく、逃走は屈強なガードマンに阻まれる。
いつしか逆らうのは無駄と諦めた俺は、粛々とスケジュールをこなした。
疲労で思考は回らず、ただ淡々と言われた事だけをした。
昨日はサラリーマン役を。
今日は老人役を。
明日は女子高生役を演じる。
ついには日替わりどころか、時間割で老若男女を代わる代わる演じる。
次第に自分が誰だか解らなくなっていく。そんな気分を味わった。
そして一ヶ月後…。やっと一ヶ月後…。
ついに、【俺の映画】第二弾が完成した。
やっと、解放される…。
疲れ果てた俺にはもう、それし考えられなかった。
◆
結果として…。
【俺の映画】第二弾は、失敗だった。
当然の結果だ。
俺は所詮、素人だ。
俳優じゃない。
しかも撮影期間は一ヶ月。
良い作品など、創れるはずが無いのだ。
更には、良くも悪くも社会の中で一度は話題となった『俺』。
しかし映画の失敗の二度目となれば、忙しなく変わる世間の話題の中での『俺』はもう既に、飽きられ始めていた。
世間の目が『俺』から離れていく。それ自体は俺にとっては僥倖だと言える。
しかし『俺』を【モデル第一号】とした彼らにとって、それは好ましくない展開だったのだ…。
◆
第十二回『憲法改正に係る新規モデル事業検討会議』にて。
「で、次の改善策はあるのかね?」
「はい、それはもう当然。」
「ほう…。」
「時代はそう、エンターテイメント。エンターテイメントなのです。映画だけじゃありません。アニメにゲーム、動画配信。社会に影響を与えられるものは、まだまだたくさんあります!」
「なるほど、アニメ化か!」
「さらに、ゲームとな!」
「はい。計画はすでに進行中です。お任せください。」
「うむ。予算なら十分にある。頑張りたまえ。」
「はい!」
万雷の拍手が会議室を包む。
「必ずや、必ずや、あの【モデル第一号】の彼が世間から忘れられることのないよう、社会に刻みつけてみせましょう!」
◆
第十六回『憲法改正に係る新規モデル事業検討会議』にて。
「このアニメの脚本は私が書いたんだよ。孫のアイデアを参考にしたんだ。これは売れるはずだ!」
「この場面の声優、私が演じたんだ。いやぁ楽しかった。」
「主題歌は私が唄いますよ。カラオケで鳴らした自慢の喉を披露しましょう!」
「バックコーラスは、あの人気アイドルグループに頼みました!」
「時間も人手も足りない? 何を言っているんだね。金はあるんだ。これは国家事業なんだよ。人手も場所も片っ端から確保すればいいだろう。」
「納期に間に合わない? 死ぬ気で働かせろ。これは国家命令だ。」
「所詮、アニメもゲームも子供向けの程度の低いコンテンツ。金払いさえ良ければ下請け会社も文句は言わないでしょう。」
◆
結果として。
アニメもゲームも惨敗だった。
ゲームは、高価格で低クオリティのクソゲーとして伝説に残る事となった。
アニメは、『1話切り』どころか『5分切り』というワードを生み出したほどの低レベル映像作品として扱われた。
アニメもゲームも、それらを創るのに、どれほどの時間と手間と情熱を費やさねばならないのか。どれほどの苦労があるのか。
それを奴らは理解していない。
札束で頬を叩くような真似をして、契約で相手を縛り付けて、やりたくもない仕事をさせられて、満足な納期も与えずに、やれクソゲーだの、やれ低レベルアニメだのと世の中から不名誉な称号を与えられて!
これが物語への侮辱でなくて、なんだと言うのだ!
しかも制作費用は全て税金からだろ、これ!
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